ゆるやかに指をとく

 むずかしいことを理解するために、なんだか、どんどんじぶんがむずかしくなってゆく。がちゃがちゃとこんがらがって、じぶんのことがわからなくなってゆくのに、他人、であるきみのこと、わかろうとしたって無駄だった。理想を押しつけるなんて最低、押しつけられるのもいや、できてるって、思いこんでいるだけ。
 懺悔。新月の夜に、ゆびを、きつく結んで。
 気づいたら、なにかをねがっている。きみに。なにも、押しつけたくないのに。
「でもなにもねがわれないなんてさびしいよ」
 こうやって、あまやかさせるじぶんが、またちょっといやになりながらも、しあわせだと感じている。
「きみの矛盾ごとすきだっていっても、きみの悩みをふやすだけだものなあ」
 どこまで、どれまで、その正体を、にせものか、ほんものか、考えてもわからないのだ。疑念ではない、これは疑問。こたえは、にんげんであるかぎり、得られない。魂って、こころと、イコールってわけじゃない。
 とりあえず、まるごと、きみそのものを信じようときめた。きみはとっくに、そうしているようだった。
 平行線上を、あるきながら、手をつなごうとする夢をみたとき、きみが手をとって起こしてくれた。手が届くように線を引けばいいんだと、両手をとってくれた。秋がカーテンを揺らしている。陽射しがやわらかくなって、ぼくよりはやく起きて寝顔をながめることが日課の、ひるねをするきみのまぶたにうまれる、レースカーテンの模様をながめるのが、ぼくの日課。

ゆるやかに指をとく

ゆるやかに指をとく

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-09-26

CC BY-NC-ND
原著作者の表示・非営利・改変禁止の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC-ND