クリパ
タイトルに困りました。これでいいかなどうしようかなってなってました
友達の小川踊はかねてよりあるグループのファンだった。
私なんかは全然知らないし興味なかったけど、でも小川は私と出会った時からすでにそのグループのファンだった。キャーキャー言ってた。新曲出たらキャー。アルバム出たらキャー。ライブDVD出たらキャー。Mステでタモさんと絡んだらキャー。てれてれーてれてれてーてれてれーてれてれてーってMステの曲が流れてCM前の最後にカメラがそのグループで止めたらキャーっていってた。
ファンだなー。すげーファンだなー。CMとか流れてもキャーキャー言ってたからまあ、それは見ててわかった。それに加え私にそれをおしつけてくることも無かった。何のファンでもそういうのっているでしょう?助かった。それはすごい助かった。親と子供の関係性で例えれば、自発的に興味を持つような工夫は多少していたかもしれないけど、それでも押し付けてくるような事はなかった。ありがたい事だった。それが高じて私もCDは買ってないけど、dヒッツで何曲かマイヒッツ登録した。押し付けてこられていたらこれもおそらくは無かったと思う。
「年末もLIVE行くぜー」
「あーおつかれーっす」
そんなあるグループと小川踊だったけど、年末LIVEまで後三か月くらいってなった時、突然そのグループの新曲に盗作疑惑があがり、ヤフーのエンタメの欄とか、ライブドアニュースの芸能の欄とかで騒ぎになった。あ、あとツイッターのトレンドにもなった。スマホで開くGooglechromeのホーム画面の下の方にもそういうニュースが出たりした。
「うわあー・・・」
ある晩寝る間にそれを発見した時は驚いたし、あと小川踊の事を考えずにはいられなかった。しかしアーティストとしてはどういうもんなんだろう?そうじゃなくてもそうだと言われてこうやってニュースになるというのは。私は全然わからないけど。でもこういうのってニュースになった段階である種イメージをつけられてしまうような気がする。もちろんファンはそうじゃないだろうけど。でも別に何とも思ってない人たちもやはりいるのである。私のように、あのドラマの曲はよかったからそれだけマイヒッツ登録します。っていうやつもいるのだ。ファンのようにどの曲も愛してるわけじゃない。何も知らない。カラオケで歌いたいからっていうだけの理由とかもあるかもしれないし。この曲受けがいいからって。そういう人たちはパクリだって言われてこうやってニュースになって、そしたらなんとなく、ああ、パクリだったんだって思ってしまうような気がする。
「大丈夫かな」
次の日、小川踊に会うのが少し気まずかった。
「おいーっす」
「ああ、どうも」
しかし、予想に反して小川踊は特に何とも思っていないようだった。カラ元気か?と思って少しカマかけてみたりもしたけど、でも本当に何も思っていないようだった。知らないわけあるまい。グループのCMが流れただけで、キャーキャー言うんだから。グループじゃない単独の、曲も関係ないカップ麺とかのCMですらキャーキャー言うんだから。
「ねえ、あれ大丈夫?」
だからまあ、もうストレートに聞いた。聞くことにした。もしかしたら何かしらの精神疾病とか精神疾患を患ってる可能性も考慮した。現実が見えてないというか。好きが高じてゆがんで大変な事になってるんじゃないかと思って。
「あの、パクリ疑惑のニュースだけど」
「クリパって言って」
小川踊はそう言って、私の言葉を遮った。え?何だって?何?どうした?
「クリパって言って。パクりってほら、印象もイメージも悪いでしょう?でもクリパだったら別によくない?どうでもよくない?どうでもよくならない?クリパだったら」
「・・・はあ・・・」
「クリパねクリパ」
その日、彼女と別れて家に帰り着替えを準備してお風呂に入って湯船に肩まで浸かっていた時、
「ぶふぁああ!」
ってなった。吹いた。
「なんだそれ!」
クリパって。パクリじゃなくてクリパってなんだよそれ!
「・・・」
でも、確かに。
パクリより全然何とも思わないし、もうどうでもいいくらいの気持ちになる。
クリパだったら。
確かに。
何だあいつ、魔術師かなんかか?
彼女とはその後、学校の卒業とともに離れ離れになってしまったが今でも時々交流がある。たまにラインもする。
「今も聞いてるの?」
「もちろんですよ」
今も変わらずファンでいるらしい。なんとなくうれしい。
それからあとクリパの事が今も頭を離れない。
私も使ってる。
深刻な事態に遭遇した時とか、難しい局面に立たされた時とか、クリパクリパって頭の中で唱えて心を落ち着けたりしている。そうすると頭の中でこんがらがっていたものとかが不思議と紐ほどいたみたいになる。
何だろう?やっぱり魔術師なんだろうかなあいつは。
クリパ