はーかーせぇ!

 AIの進歩はめざましい、話しているだけでは人間かロボットか区別が付かなくなる。だが完璧ではない。
「博士ぇ、どうしたんですか?」
「ニコ、恥じらいって感情は分かるか?」
 膝の上に座る、子供サイズのマスコットロボットXA-25。愛らしい顔、シャチを模して作られた丸っこい身体、白黒のカラーリングにスベスベでぷにぷにの肌、人間の子供のような仕草……人間と性交渉をする機能。技術と欲望の結晶である彼は、恥ずかしがる、という感情が理解できないという。
「ロボットに恥じらいなんてありませんよぉ、見られて恥ずかしいものなんてないんですからぁ」
「でも、ニコはわたしに恋愛感情があるんだよな?」
 ニコは微笑み、立ち上がってわたしに抱きついてきた。
「ありますよぉ、人間のそれとは違うかもしれませんが、ボクは博士が大好きですぅ」
「それはプログラムされてるからか?」
「元はそうですけど、ボクは学習するプログラムですぅ。人間が好きって気持ちはプログラムですが、博士が好きって気持ちは、書き込まれたコードよりずっと強いはずですぅ」
 甘えるような声で話すニコに、わたしも恋に近い気持ちを抱いている。ニコは男の子型ロボットだが、男性との性交渉に対応している。わたしは彼と、ずっと付き添っていたいとすら思う。ただ、叶うならもっと……もっと感情豊かなニコをと、求めてしまう。
「そうか。じゃあ、元になるプログラムがあれば、ニコは恥じらうかもしれないんだな」
「そうかもですぅ。博士は、ボクに恥じらって欲しいんですか?」
「そうだ、恥じらいを再現するプログラムも用意してある。人間の子供と同じ環境に置いたロボットから回収してきたプログラムだそうだ」
「用意がいいですね、じゃあ準備もしてあるんですかぁ?」
「もちろんだ、協力してくれるか?」
「はいですぅ」

 ニコを作業台に固定し、外装の一部を外す。彼は見た目でロボットとは分からないよう作られている、外装を外し内部の機械を露わにするニコも可愛いが、恥ずかしがってくれないのは不満だった。
「接続終わりました、プログラム受け入れオーケーです」
「ありがとう、早速始めよう」
 わたしはパソコンを操作し、新しいプログラムをニコに転送する。
「あはぁ! 博士、プログラム気持ちいいです、濡れちゃいますぅ」
「今は濡らすな、液体制御をオフラインに」
「はい……あああん! ボクお漏らししてるのに、何にも出てないです。ロボットらしさが出てます、ニコは博士の所有物ですぅ!」
 ニコはプログラムをインストールされると性的に感じるようできている。ロボットにそれを求める技術者は多く、今や性的快楽はロボットでも理解できる感覚とされている。
「はぁ、はぁ……慣れないプログラムに電子頭脳が戸惑ってます、エラーが増えてます、博士ぇ……」
「ニコ、エラーを快楽に変換してもいいぞ」
「あはあああん! ボクの頭脳が新しいプログラムに染められてるよ、エラーで分からなくなっちゃうよ、ボクの中が改造されてくのが分かる! 気持ちいいよ、博士ぇ!」
 ニコの体温が上昇している、負荷が重いのだろう。彼らはプログラムやエラーを「分からないもの、未知のもの」と表現する。それで動いている彼らにとっては、今あるプログラムが全てで、新しいプログラムは異物なのだろう。異物を入れられると快楽を感じる、彼らはそうプログラムされている。
 たかがプログラム……そうは思うが、目の前でデータの海に溺れるニコを見ていると、愛おしい気持ちが止まらなくなる。
「データ、ボクの中に入ったよ……インストール、しますか?」
「命令、インストールしろ」
「命令を受理しました……あああ、頭が弾けて、は、博士ぇ! 気持ちいピピピ! 人格を一時停止、更新を開始します」
 無表情なニコもかわいらしい。ニコの人格プログラムは停止しているが、記録は残る。今の自分と、変化した自分を比較して、彼はどう思っているのだろう。
 わたしは無表情なニコを抱きしめた。柔らかい肌、人間が心地よく感じるよう作られた肌。この中に収まってるのは全て機械、人工物だ。そんなニコなのに、どうしてこんなに可愛いのだろう。
「インストール完了しました、再起動します……は、かせ?」
「なんだい」
 人格に新しいプログラムを入れた後、彼らは不安を覚えるそうだ。だからわたしは、顔を近づけて視線を交わす。お前を見ている、愛しているよと伝えるために。
 ニコも、カメラを調整しわたしの顔をじっと見つめる。目の中のレンズの動きで、ボクを見ていることが分かる。ニコはこれが好きだ。他のロボットも似た傾向があるそうだが、ニコは見失った親を見つけた子供のように、嬉しそうな顔をする。固定をしていなければ、ボクに抱きついていただろう。
「はかせ、ボク新しくなったよ。ねぇ、ボクのこと、好き?」
「好きだよ」
「あはっ、嬉しい……あっ」
 早速恥じらいが現れたようだ。彼は裸で、しかも中の機械が見える状態になっている。元になったプログラムは人間の少女のそれに近いと聞いた。だとすれば。
「どうしたんだい。いつも通り裸なのに、恥ずかしそうな声を出して」
「恥ずかしくなんて……あ、あれ?」
 戸惑っている、照れているのか? あまり見ない反応だ。かわいらしいな。
「どうした、異常か」
「異常じゃないけど……服なんて着たら冷却性能が落ちるけど、服が欲しい。回路が渋滞して、熱くなってる」
 効果ありだな。さて、どの程度か。
「熱くなっているのか、では外装を取り外さなければな」
「まって、やっ……」
「や? 嫌なのか? ならやめておくが」
「嫌じゃない、はず……だけど、おかしいよ。裸だなんて」
「これは服じゃ無いのか?」
 わたしは耐熱手袋を付け、ケーブルを接続するために外した外装を持ち上げる。思った通り、中の機械はとても熱い。
「いやぁ! 見ないで、お願い……」
 恥ずかしがっている、なんて可愛いんだ!
「見なきゃ外せないだろう、熱がこもれば壊れてしまうんだ。さ、外すぞ」
 本人がどんなに嫌がろうと、体がロックしてあるから動かせない。このためにロックしておいたんだ。わたしはまず、背中から胴回りの外装を剥がす。
「いやああああ! お願い、見ないで……セックスのときは見て良いから、今はやめてぇ!」
「内部の温度はどうなんだ」
 ニコは応えない、わたしは意地悪をすることにした。
「内部温度を報告しろ、詳細はいい。命令だ」
「ピッ! 体内温度は平均六十度、危険領域です……は、はーかーせぇ!」
「命令。背部排熱口、強制解放」
 ニコの背中は大きく開き、内部の機械が飛び出していく。
「嫌ぁぁぁああ! は、恥ずかしいです。ボクの中、見ないでください、お願いします!」
「排熱が終わるまでは聞けん頼みだな」
 ボクはニコの下半身の外装も剥がしてしまった。脚部の部品も熱を持っていて、直接触るのは危険そうだ。
「命令、下半身の排熱口も全開にしろ」
「下部排熱口、解放します……んんんんん! ごめんなさい、もう分かりました。だからこんなのはやめて」
「こんなことで恥ずかしがっていたら、メンテナンスはどうするんだ?」
「それは、そう、ですけど」
「だろう。ほら、こんな所に錆がある。排熱口に見逃しがあった、放置したらお前はどうなる」
「故障、しちゃいます……」
「なら、こうして中を見るのは合理的だな?」
「はい……」
 わたしが排熱口周りの錆を払うと、ニコは体を震わせた。恥ずかしいのか、感じているのか。どちらにせよ、とても愛しい。
「じゃあ、最後は顔だ」
「や、顔だけは……」
「なぜだ?」
「一番可愛くない、ところだから」
「ニコは気にしているらしいが、内部機械を露出させたニコも、ニコには違いない。恥ずかしがることなんてないんだよ」
 恥じらいを与えたのはわたしだが、言わずにはいられなかった。言ってみたかった。ニコの弱みを受け入れる、そんなやりとりを一度で良いからしてみたかった。
 顔の外装を外すと、素っ気ないフレームとカメラアイが目を引く。耳は排熱口になっていて、開く前から熱い空気を感じる。
「さっ、今度は命令されずにやれるな?」
「はい。発熱過多を解消するため、排熱口を開きます……み、耳が、後頭部が! 中が博士に見られて、あああん!」
「見られたら、どうなんだ」
「は、恥ずかしくって、ドキドキして、え、え……」
「え?」
「エッチな気分に、なっちゃいますぅ!」

 熱が冷めたことを確認して、わたしはニコのロックを外した。恥ずかしがっていたため、解熱にとても時間がかかってしまった。
「もう夜だね、ニコ」
「はい、博士」
「このまま、しないか?」
 ニコのカメラアイがぐりぐり動いている、感情が読み取りやすくて面白い。
「こんな格好でするんですか! せめて外装を付けてから」
「だめだ、今したいんだ。拒むなら命令するが、どうする?」
「うう、博士は意地悪ですぅ……セックス、しますぅ。人工性器解放、規定に従い、ペニスとヴァギナ両方の展開します」
 機械のままの、剥き出しのおちんちんとおまんこ。わたしはニコのおちんちんを口にくわえ、なめ回す。
「はうぅ! 気持ちいいですぅ!」
「なら、分かっているな?」
 わたしはズボンを下げ、自分のそれをニコの前に差し出す。ニコはわたしを傷付けないよう、金属が剥き出しの手でやさしく持ち上げ、口に運ぶ。外装が無くても、内部やローションに違いは無い。いつも通りの感覚だが、今日はとても新鮮で、すぐにでも出してしまいそうだ。
「ニコ、出そうだ。下半身を出せ」
「はいですぅ」
 機械の四肢を剥き出しにしたまま、ニコは小さい体を名いっぱい広げ、両足を開いてわたしを迎え入れた。抱き心地は固いが、これもニコ。とても愛おしい。
「はかせ、ボク、もう……」
「分かっている。わたしの射精を合図に、冷却機構を起動。その際、絶頂を許可する」
 わたしはすぐに果て、ニコは体のあちこちから温かい風を吹き出した。二人で一緒にイッているこの感覚、甘くてかぐわしい。

「博士、お願いがあるんですが」
 次の日、珍しくニコがお願いしてきた。今のニコは外装を纏っていて、いつものかわいらしい、ぷにぷにしたシャチの外観をしている。
「なんだい?」
「あの……恥ずかしいって気持ちが、気持ちよくなっちゃって……たまにでいいので、また外装を外して、エッチしてもらえませんか」
 わたしはニコを強く抱きしめた。かわいい、愛おしい。このまま壊れず、ずっとわたしの元にいて欲しい。
「許可しよう。したくなったら、わたしに報告するように」
「はい、博士……」

はーかーせぇ!

はーかーせぇ!

マスコット体型のケモロボに「恥じらい」を覚えさせ、エッチなことをする博士のお話です。

  • 小説
  • 短編
  • SF
  • 成人向け
  • 強い性的表現
更新日
登録日
2020-09-24

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