凍夏

過去のすべてを失ってしまったら
わたしは一体 どうすればいいんだろう

氷漬けの花、氷漬けの空、氷漬けの雨、氷漬けの虹、
氷漬けの駅、氷漬けの墓地、氷漬けの丘、氷漬けの桟橋、
氷漬けの手紙、氷漬けの約束、氷漬けの嘘、氷漬けの声、
氷漬けの夏、氷漬けの日々、氷漬けの時間、氷漬けの二人

冷たくなった標本を 冷たくなった指先でなぞる
何万回、何億回目かの気紛れで
きのうの事のように憶えていた想い出が
一つ残らず綯い交ぜになって
一朶の走馬灯として 眼前に映し出されるのを
凍傷だらけの身体で待ちつづけていた

記憶の中のあなたはいつも 隣で優しく微笑んでいた

凍夏

凍夏

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-09-23

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