マドレーヌやさんの夜に
ほんとうのことをいうと、だいたい、ひだりはしから、角砂糖の砂糖が、ぱらぱらとくずれおちるみたいに、はがれてゆきそうで、こわかった。無意識に塗りかためていた、もの。殻、のような。
マドレーヌやさんで、きみと、夜を明かしたとき、かなしみをねりこんだ焼き菓子は、なみだがでるほどおいしいのだと、なんだか、はんぶん、りんかくのおぼろげな、マドレーヌやさんのおねえさんが、いっていた。ぼくと、きみは、その、かなしみをねりこんだマドレーヌをたべて、気づけば、ふたりとも、ばかみたいに泣いていた。月が、おそろしく巨大な夜で、それは、もうまもなく、ぼくらの星が、月にひきよせられ、ひとつになろうとしている頃だった。マドレーヌやさんの、おねえさんが、ハンカチをさしだしてくれて、ぼくと、きみは、おもてと、うらで、なみだをぬぐった。おねえさんの耳たぶでは、始終、真珠のイヤリングが、光っていた。狂ったように、かがやいていた。
おわり、を、意識する夜は、途方もなく、マドレーヌやさんの、お店のソファーでねむるとき、つないだ、きみの手は、でも、ふあんをうちけすかのように、あたたかかった。
マドレーヌやさんの夜に