君色に染まる
冬のことを、ときどき、思い出しては、また、おとずれるのだと、思い耽ってみたりする。秋が、ようやくそこまで、来たばかりだというのに。
図書館、午後の、微睡むような静けさのなか、作れもしないだろう、洋菓子のレシピをながめながら、となりで、むずかしそうな本を読んでいる、きみの横顔を、ぬすみ見る。うっとりするほど、長いまつげと、かたちのよい、はな。文章に埋めつくされたページを、見つめる、まなざし。さいきんの空は、あいまいで、きまぐれで、だれかの、思い悩んでいるこころを、うつしているみたいだから、すこしだけ、やさしい。本のにおいは、もっと、やさしい。やさしいは、すべてで、不完全で、ぶかっこうだから、いいと思う。
ぼくは、レアチーズケーキのページで、ふいに、きみのことを、好きだとあらためて、目をつむる。
きみが、ゆっくりと、ていねいに、ページをめくる音が、きこえる。
じとり、と。
じわじわ、と。
好きは、染みてゆく。
君色に染まる