原発の女3️⃣

原発の女3️⃣


-夢幻- 

 ベント室に入るなり、女がある男に抱きついだ。「真っ暗だわ」「この方が都合がいい。誰が来るかわからないからな」「秘め事には格好ね。あなたの舌をちょうだい」
 二人は服を脱いで真裸になった。女がしゃがみこんで陰茎を含む。まだ萎縮しているから女は存分に含んでしゃぶり始める。陰嚢も飲み込んだ。すぐに隆起が始まった。 「大丈夫?できそう?」「体位は?」「こんな場所だもの。犬になりたいわ」
 女が四つん這いになって豊満な尻をつき出すと、後ろに回った男が挿入した。女がすすり泣く。「どうだ?」「家は飽きたし。原発を侮辱してるみたいで。普段の何倍も感じてるの。こんな秘密の中枢でするのは最高だわ。また、連れてきて?」「反対派の奴らの目が光ってるからな。そろそろ出すぞ」「もう?」「忙しいんだ。すぐに戻らなきゃならない」「慌ただしいのね?」「無理強いしたのはお前だぞ。相変わらず淫乱な女だな。昔からひとつも変わらない」「あなただって。これ。懐かしいわ」「出すからもっと締め付けてくれ」
 男が射精した
。あたふたと服を着て、「帰り道はわかってるな。誰かに出会ったら、迷ったって言うんだぞ」

 「どうしたんだ?」男の声音が変わった気がした。「どうしたんですか?」やっばり、あの男ではないと、漸く女は気づいた。
 「どうしたんですか?」今までの男の声が蘇ってきた。「ああ。どうしたのかしら?」「私、何か変だった?」


-交錯-

 網戸の窓から流れ込んだ一陣の風が女の解れ毛を揺らした。気を取り直した女が、「あなたはベント室の女が私だとあくまでも言い張るのね?」「事実ですから」「私は打ち消しているのよ?」「あなたの主張は自由です。でも、事実とは違う」「だったら、私達は真っ向から意見を闘わせるのね?」男がウィスキーを流し込んで、「本当はそんなことはしたくないんだ。しかし、あなたがそう言うなら。不幸なことだけど。仕方ありませんね」ウィスキーのグラスを弄びながら、女が、「私とあなたの考えは交わるのかしら?」「どうなんでしょうね。あなた次第じゃないですか?」「随分と高飛車に言うのね。交わらなければ、こんなはしたない言いがかりをつけられた私だけが酷く迷惑するだけのよ?」
 「奥さん。誤解しないで欲しいな。俺はあなたを脅してるんじゃない。思慕を告白しているんだ。あなたは大事な存在なんだ。困らせる気なんて更々ない。交わるまで努力しましょうよ?」「交わるまで?」「そう。時間はたっぷりある」
 「時間?そうだわね。こんなに誤解されたままでは、決して、あなたを帰らせられないもの。だから、夫が帰るまでにはあなたのその誤解を解きたいわ」 「三日間、あなたと一緒か?
。いいんですね?」
 その時に、あの黒猫が現れて二人の間を横切っていくのである。「仕方ないんだわ」「わかりました。長丁場ですね」男がウィスキーを含んだ。


-性愛-

 「あなた?私に恋をしたと言ったわね?」男が頷く。「でも、私は人妻。あげくに夫はあなたの上司なのよ。どういうことなのかしら?」「一目惚れしてしまったんです。心の働きだ。道理や理屈ではない」「でも、初めてあなたを見たのがあの情景だから。清らかな恋慕とまで言えるかどうか。自信はないけど…」「それに、あの落書きで散々に…」「お忘れ?ベント室の女は、あくまでも私じゃないのよ。そして、落書きはただの落書きに過ぎないわ。そうでしょ?」
 「私の、眼前のこの私に対する気持ちを聞いているんだわ」「情欲というのが正確かもしれない」「情欲?」「性愛です。その思いを遂げたくて訪ねたんだ」
 「だから、どうしたいって言うことなの?」「あなたを抱きたいんだ」女の口許は微かに動くが一片の言葉にもならない。「どうですか?」真っ白い首元がみるみる紅潮してくる。答えを待つ男が音を立てて生唾を飲み込んだ。
 「抱くだけ?」「それから、何をしたいとおっしゃるのかしら?」「性交です」女の顔が険しく歪んで瞳が大きく見開かれる。
 「あなた?本当に会社の方なのかしら?」男が頷く。「紳士的な風貌には似合わないわ。随分とあからさまな戯れ言を言うのね?」「戯れ言ではない」「本気だって言うの?」「はい」「あなた?正気なの?」「はい。こういうことは本心の端的が物言いが適切じゃないかな」
 「あなたが見たこととの交換条件なのかしら?」「そんなんじゃない。だいいち、あなたは自分じゃないって言い張ってるでしょ?」「そうだわ」「交換条件なんかにはなりようがない。ただ、恋慕を遂げたいだけなんだ」


-○○-

 ウィスキーで唇を濡らした女が、「…あなた。お幾つ?」「三六です」「離婚したって言ったわね?今、彼女はいるんでしょ?」男が頷く。「幾つなの?」「三七」「だったら、私などに横恋慕して。ありもしない猥褻な言いがかりをつけたり。卑猥な戯れ言をさんざんに口走るなんて。いったい、どういうことなのかしら?」「それとこれは違いますよ。あなたの魅力に屈してしまったんです。理屈じゃないんだ」  「一切違わないわ。私に背徳を迫って。恋人も裏切ろうとしてるんじゃないの?倍の罪だわ」
 「もちろんあれはあれで愛してます」「それって、余りに身勝手な言いぶりじゃないの?何も知らないその人が可愛そう。どんな人なのかしら?」「至極いい女ですよ」「まあ。ぬけぬけと。恋人だもの。してるんでしょ?」「してますよ」「そうやってさんざんに女を泣かせて。その逸物がさぞかし自慢なんでしょ?」女の瞳が濡れている。「見たいですか?」「結構よ。あなた?何を熱に浮かされたことを言ってるの?これはみんな冗談なんでしょ?」「本気ですよ」「信じられないわ。あなた?近頃はあまりに暑かったから、少しばかり気狂いでもしたのかも知れないわね?」「恋は狂気の沙汰などと言いますから」「私に恋してるって言うの?」「はい。奥さんの魅力にすっかり狂ってしまったかも知れません。あなたへの愛欲の虜なんです」「まだそんなことを。人妻が他の男などと交われるわけがないもの。あなたの話は呆れ返るくらいに不道徳なんだわ」「随分と清浄な素振りですね。今までに誰ともしたことがないのかな?」
 「夫以外はね。当たり前だわ」「じゃあ、俺は初めての間男になるんだ。すこぶる光栄だな」「そんなこと、許してないわ」「俺の何が駄目なんですか?」「まあ。なんて傲慢な自信家だこと。あなたのこととかじゃないのよ」「じゃあ、何なんだろう?」「性交よ。あなたとじゃなくても夫以外と性交をするのが駄目なの。夫のある身で他の男とするなんて背徳だわ」
 「あなたの顔も、その爛熟した身体も堪らないんだ」「爛熟?」「そう。熟れすぎた桃みたいに。甘い香りで。俺を散々に惑わせてしまうんだ。目眩がするほどだ」「未だ言ってるの。原発のあの女は、決して、私じゃないのよ」


-奇書-

 女が腰をあげた。「どうしたんです?俺の話が気に障ったんですか?」「そんなことじゃないわ。この暑さでしょ。女の事情なの。ウィスキーを飲んでて」

 女が出て行った。気配が消える。
 男が、先程、女がある本を慌てた風情でしまった戸棚に歩み寄って戸を引くと、その本があった。包装紙でカバーがしてある。開いて確かめると、ある覆面作家が書いた幻の存在と噂の小説だ。壮大な天皇制批判と官能に満ちた、まさしく奇書だ。好事家の間では高く評価されている。男はその本を読んでいた。
 しおりがしてある。開いてみる。つい今しがたまで、あの女はこういう世界に耽溺していたのだと思うと、男の淫情は募るばかりなのである。

 女はニ階の自分の寝室に上がり、汗と恥辱と官能の兆しに汚された衣服を脱ぎ捨てて、派手な模様の布団に裸体を横たえた。豊満だ。傍らの三面鏡に白い肌と漆黒の陰毛が息づいている。はち切れる乳房を両の手で狂おしく揉みしだく。その手を広げると、夫の性癖で処理するのを禁じられた脇毛が祭りの夜の森のように繁茂している。股間を指で探ると、思った如くに淫靡に湿っている。熟れた身体の本性が反応してしまったのか。


(続く)

原発の女3️⃣

原発の女3️⃣

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更新日
登録日
2020-09-18

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