氷雨令

 突然だけど、名前って不思議だよね。
 「明」って子はクラスのムードメーカーだし、「学人」って子は頼れるお兄さん的存在だ。
 「名は体を表す」。初めはそんなことあるか、と思ったけれど、周りの子たちをみると、あながち間違ってはいないようだ。
 では、僕はどうかというと、当てはまらない。
 僕の名前は「叶」。男子にしては珍しいかもしれない。
 由来は、「夢が叶うように」。そのままだ。「夢」とは、勿論僕のものを指す。
 だけど、僕は、「夢」を持つことさえ叶わなかった。
 君は、小さい頃、何になりたかった?
何をしたかった?でもいい。
 僕は、消防士になりたかった。テレビで見た、炎の中から人を救い出す姿がとても格好良かったから。純粋な憧れから、「消防士になりたい」と母に言った。
 「だめよ」
 とても優しい声のトーン。だけど、その言葉は、小学校に入学したばかりの子に向けるには、あまりにも冷たすぎる。
 「消防士はとっても大変。あなたに炎に立ち向かう勇気と体力があるの?」
 母親の瞳に悪意は見えない。寧ろ、善意だ。僕が辛い思いをしないように。危険と隣り合わせの仕事で、命を落とすことがないように。
 まだ幼かった僕はそんなことまで想像することはできなかった。だけど、ただ「だめ」と言われたから。そんな簡単な理由で、僕は一番初めの夢を諦めた。
 それから、数年後。僕は、作品に携わる仕事に興味を持った。もともと漫画や小説、ミュージカルやドラマなどの物語が好きで、自分もそれに何らかの形で関わりたいと思ったのだ。
 「将来、何か作品を創りたい」
 僕が作品作りに興味を持っていることは、両親も知っている。だから、以前のように否定されたりはしないだろう。
 でも。
 「無理よ。そんな才能なんてないでしょう?」
 「趣味は仕事にできないよ。よく考えなさい」
 「ただ『やりたい』だけじゃ駄目だ」
 僕の予想に反して、返って来るのは否定。
 両親の言葉はいつも同じだった。僕に将来を尋ねるくせに、いつも首を横に振る。一体両親は、僕に何になってほしいのだろう。
 「叶」。「夢が叶いますように」。そんな思いをこめて名付けたのは、紛れもなく両親なのに。貴方達は、僕の夢を一度たりとも応援してくれなかった。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-09-16

CC BY-NC-ND
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