幸せ

渡逢 遥

郵便受けが空っぽなこと
いろんなものを失ってきたこと
自然に囲まれて飲む酒は格別だということ
それが夕暮れどきなら上出来だってこと
もうだれにも覚えられてないんじゃないかってこと
娯楽といえば三日に一度の散歩くらいなこと
もう何ヶ月も友人の声を聞いていないこと
もう何ヶ月も加熱された料理を口にしていないこと
あと数ヶ月で僕は死ぬんじゃないかってこと
僕が死んでも世界は変わらずまわりつづけること
この絶望にすっかり慣れきってしまっていること
今朝ベランダに出たら空が嘘みたいに青かったこと
最期くらいだれかに自分の名前を呼んでほしいこと
きみと出逢えて、僕は本当によかったということ
いまの僕にとってはそういったものの すべてが
このうえなく よろこばしくて
このうえなく いたくかなしい

幸せ

幸せ

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-09-15

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