少年は天使のよう、おじいさんは悪魔のよう

maoria

  1. 序章「未来のこと、昔の話」
  2. 1章 遊び場はボロボロのお家
  3. 2章 怖い顔のおじいさん

序章「未来のこと、昔の話」

「お母さん、お母さん。お絵描き出来たよ」
5歳の男の子が母親に画用紙を見せた。晩御飯の支度をしている私は一段落済ませると、画用紙を受け取った。
クレヨンで描かれた家族の絵、男の子は反応待っているかのようににっこり笑っている。
「上手ね。今度の幼稚園の課題?」
「そう、家族の絵を描くんだ。ママも昔、こういう絵描いたことある?」
「あるわよ。懐かしいし、とってもいいと思うわ。そう思わないあなた?」
キッチンから少し離れたリビングのソファーに座り、テレビを見ている夫に声をかけた。
「ん?なんだい、ジュリア」
スイッチを切って立ち上がると、こちらに来る。画用紙に描かれた家族絵を見せる。夫も笑っていた。
「サミュエルは、なかなかセンスあるな。僕よりもうまいよ」
「ありがとう、お父さん」
画用紙をサミュエルに渡すと、リビングに戻ろうとしたが再び戻ってきた。
「そういえばね、今度、発表会があってね。自分の名前のゆらい?っていうのを離さなきゃいけないんだ。お母さん、僕はどうしてサミュエルなの?」
私は大きく深呼吸をして、胸に手を置いた。
そうか、話さなければならないか。
「そういえば、僕も聞いたことがないなぁ」
晩御飯の支度もあと少し、その時に話そうか。
その方がゆっくり話せるし、もう話してもいい時期だとはなんとなく思っていた。
「晩御飯がもう少しでできるからその時に話すわね」
「うん。今日は僕の大好きなハンバーグ?」
「ハンバーグカレーよ。できたら呼ぶから、お部屋で遊んでいなさい」
大きくうなずいたサミュエルは自分の部屋に戻っていった。
「僕、何か手伝おうか?」
「じゃあ、テーブルにお皿と、冷蔵庫の中にあるサラダ出してくれる?」
「わかったよ」
時間は夕方の5時、夕日がゆっくりと外では沈みかけオレンジ色の空と紺色の空が二つに分かれていた。

「サミュエル、食べましょう」
6時ごろになって、お部屋にいるサミュエルを呼びに行く私。
サミュエルは部屋から出てきて、リビングに来ると茶色のテーブルの上に乗っているハンバーグを見ては目を輝かせていた。 
三人が席に着くと「いただきます」と言って食べ始めた。
この「いただきます」は夫から教えてもらったのだ。夫は多文化が大好きで、仕事もよく出張にいろいろなところに出かけているのだ。
「熱いから、ゆっくり冷まして食べてね」
「はい」
「じゃあ、話しましょうか。サミュエルの名前のこと、私がね5歳くらいの時の話からしなきゃね」
この話、本当はずっと伏せておこうかとも思っていたが、いつかが来たら話そうともどこかで考えていた。
それは私が出会った本当に不思議な話、彼と出会ってしまったことで起こった町の悲劇と救ってくれたあの人のお話。
まわりの人も家族もしらない、私だけの物語。

1章 遊び場はボロボロのお家

大きなヨーロピアン風で白っぽい一軒家の前に三人の家族がスーツケースをもって立っていた。
「ここが新しい家だよ」
「素敵、前の家よりも設備は大丈夫なの?」
「もちろんさ、前の家は通勤的には場所は悪くなかったんだけど、水道も何度も壊れるし、床にも穴が開きそうなところ多かったもんな」
「私、前の家のほうが好き」
小さい私は新しい家の匂いが苦手だった。古っぽい感じの方が雰囲気あって好きだったのだ。
「まぁ、個性的って意味では前のもいいけどね・・・そうだ、ジュリア。これ、あげる」
ママがしゃがんで、首から下げていた鍵みたいなのを私に見せてきた。
銀色の鍵は少し汚かったが使えないことはないみたいだ。
「この辺り、公園に行くまで隣町だし、距離もあるから昔の家を遊び場にしたらどうかしら?」
「おいおい、大丈夫なのか?床の穴から落っこちたりしたら・・・」
「大丈夫よ、普通に歩くだけなら問題はないし、下手に知らない場所で遊んで何かあるよりはこっちの方が危なくないじゃない」
それもそうだと言い切るパパ。鍵を受け取ると不思議な顔をしている私に「荷物や部屋のセットはしておくから、遊んできなさい」
「わかった」
新しいお家のセットより、古いお家で遊ぶ方が楽しそうだと思った私は、リュックを背負ったまま走り出していた。
ママとパパは私を見送ると荷物をもって、新しい家の中に入っていった。

古いお家はここから少し離れて、30分くらいのところにある。あ、でも車なら15分くらいかな。
ボロボロの洋風な家、色はレトロな茶色の洋館。大きな窓もいっぱいあって、二階の端っこが私のお部屋。
今はもう中には白いカーテンが敷かれていて見えにくくなっている。
玄関まで行くと、さっきもらった鍵をドアノブ近くに差し込んで回してみた。ガチャっと音がして、ドアを開けた。
「こんにちは」
こうは言っても誰もいないけれどなんか、誰かがいるような気がした。中に入ると、いろいろな部屋を回った。
水道が良く壊れるキッチン、トイレの電気は暗め、リビングは家族三人にしてはちょっと広すぎ。二階はみんなの寝室、私の部屋は端っこ。
自分の部屋に到着して、ドアを開けるときぃっと音がした。
大きなベッドはそのまま、これはもう壊れて使えないから新しいベッドを買ってもらうつもりだ。腰かけてみると、はずみで羽がちょっと出てきた。
「これ、面白い」
ベッドに乗ってどんどん跳ねて、羽がポンポンでるのに夢中になる。
元々、一人遊びが好きな私にとってこういうのがおもちゃみたいだった。幼稚園は通っていたし、友達もいたけど、特に一人遊びが好きだった。
窓から見える庭、ここの部屋じゃないとこの庭はきれいに見えない。ママとパパの寝室だと、斜めになっていて顔を出さないと見えない。
新しい家はお庭がもっと広いらしい。
お庭を見ると、大きな桜という名前の木、近くにパパが作った小さいブランコがある。
まだ花は咲いていないし、どんな花かも知らないけど、ピンク色で綺麗な小さい花が咲くとパパのお友達が言っていた。
そうそう、パパのお仕事は電気とかを扱う会社、エンジニアというらしい。いろいろな国と交流もある。
よく見ると、ブランコに誰かが座っているようなのが見えた。
あれ、誰だろう。私以外にここに後から入ってきたのかな?
それともお庭の策が壊れていたのかな。
もしかして「幽霊?」。
幽霊だったらお友達になりたい、怖いとかそう言うのも考えたことはなかった。
私はベッドから降りて、小走りで一階に降りるとリビングからお庭に出てみた。
同じくらいの歳の男の子は、ブランコに座って下を向いていた。
「こんにちは」
声をかけてみるとこちらに振り替える男の子。なんだか、青白い顔だし、元気もなさそうだ。
「こんにちは」
悲しそうな目をしている。泣いていたのかな、少し目が腫れているようだ。時々、目をこすっている。
「どうして泣いているの?」
「僕、みんなから嫌われているんだ」
近くまで来て隣に座った。
「僕ね、不気味なんだって。傍にいると、なにか怖いことばっか起こるみたいだし、物だって壊れちゃうから何も触らせてくれないんだ。
君もそう思うだろ?」
「・・・・あなたに会うのは初めてよ」
あなたにあったのはこれが初めてだからそんな風に言われてもわからない。
「そうだったね。変なこと聞いちゃった。君も一人なの?」
「うん、私ね一人が好きなの。お友達はいるよ、遊んだこともあるし・・・」
「かわってるね、友達がいるのに一人が好きなんて」
「そうかな・・・そんなことないと思うけど。ねぇ、私とお友達にならない?」
「え、僕と君が?何が起こるかわからないのに、君は怖くないの?」
「だって、見てもいないのにどう怖いって思うの?ここで、二人で遊ぼうよ。独り者同士仲良くしようよ」
手を差し出した私、男の子はびっくりして手を見て、私を見てと交互に顔を振った。
「握手知らないの?こうやるんだよ」
男の子の右手を取ると、自分の手と重ねる。ゆっくりと握り返してきて、私はにっこり笑った。
「これでよろしくねって意味なんだよ。私はね、ジュリアっていうの。あなたは?」
「僕は、ルシフェル。よろしくね、ジュリアちゃん」
ちょっと八重歯が見えるその男の子は天使のようににっこり笑った。

持っていけなかった本を読み返したり、ベッドで遊ぶ続きをしたり、かくれんぼをしたりして、
夕方5時ころ、ジュリアはルシフェルとボロ家から出てきた。
「またここで遊んでもいいかな。この家、とっても気にいったよ」
「そうでしょ。私もまた遊びたい。ここでまた会いましょう」
そう言ってはルシフェル君は走って私の家と反対方向に向かった。途中振り返って、大きく手を振って笑っている。
良かった、元気が出たみたいだ。
こちらも手を振り返して、新しい家に帰ることにした。
そんなところを少し離れたところからじっと見ているおじいさんがいたこと、私達二人は知らなかった。

***

新しい家のリビングでご飯を食べているとき、ルシフェル君の話をしようか迷った。
でも、言わないでおこうとも思った。
何故って、いっぱい聞かれてもまだ知らないことが多いからちょっと困るし、ルシフェル君はみんなに好かれていないみたいだから、
彼のことをいつかパパやママが知ったら仲良くするのを辞めなさいって言われたら嫌だった。
食べ終わってお風呂に入って、新しいお部屋に入ってみる。
前の部屋よりは少し狭い、窓から見えるお庭は横長に広い。
たくさん人を呼んだらバーベキューはできそう。
「ルシフェル君は何してるのかな」
ベッドの上に座って、濡れた髪の毛をタオルで拭く。
そういえば、もう少ししたら小学校に入る。引っ越してしまったけれど、幼稚園の友達は同じ小学校なのでまた会える。
ルシフェル君にも会えるかもしれない。
そしたら、みんなが彼と仲良くなれるようにしてあげたいなぁ。
「ジュリア、チョコレートのアイスクリーム食べる?」
下の階からママの大きな声が聞こえてきた。
「今行く」
ベッドから降りて、部屋を出て下の階に降りていった。

その夜のこと。
私は夢で森の中を走っていた。
何か怖いものが追いかけてきている。振り返りながら“それ“から逃げる私は長い森を抜け出せなかった。
「う~ん」
ベッドの上で唸る。
逃げている私はとうとう石に躓いて転んでしまった。
怪我をした足をあげていると、“それ”が追い付いてきた。振り返ると、黒い影だった。
黒い影は私を包み込んで、永遠の真っ暗を見せてきた。
「いや、怖い」
何もない、何もないのだ。ただ真っ暗な暗闇だけが広がっていて、そこに閉じ込められたって感じだった。
「誰か、パパ、ママ」
大きな声で叫ぶけど返事がない。後ろから誰かが肩を叩いてきて・・・・。
そこで目が覚めた。
「どうしたの?ジュリア」
ママが部屋に入ってきた。汗でびっしょりで大声をだした私を見て飛び込んできたのだ。
「ママ、黒い影が襲ってきて、それで・・・」
怖くなって泣いてしまった。ママは私を抱きしめて、パパも入ってきて抱きしめてくれた。
初めて新しいお家で見た最初の悪夢だった。

2章 怖い顔のおじいさん

悪夢を見た日から一週間経っても、まだあの悪夢を見る。そのせいで最近は寝不足だった。
小学校が始まるの、楽しみなのに悪夢のせいで台無しになりそう。
「あの新しい家、なんかおかしい」
ボソッと呟きながら小学校まで歩いていると、後ろから肩を叩かれた。
「ジュリア、久しぶり」
「ルーシーじゃない。元気だった?」
幼稚園の中でも一番仲良しだったルーシー、いつも二つ結びで赤いリボンが良く似合っていた。
「もちろんよ。休み中、ジュリアに会いたかったんだけど、お母さんから引っ越したって聞いたからびっくりしちゃって。
でも、良かった。学校は一緒だね。クラス違っても、遊びに来てね」
「行く行く」
学校の前に着くと、偉そうで赤い眼鏡をかけたおばさんが門の前に立っていた。一人一人の生徒に挨拶している。
「お、おはようございます。」
私達は恐る恐る挨拶をすると、「おはようございます。」と返してきた。
「あの、ここの先生ですか?」
「いかにも」
「どうして門の前にいるの?」
「最近、この辺りに怪しいおじいさんがうろついているって噂があったの。生徒に何かあったらいけないから、こうして見張っているの」
ルーシーと私は先生の横を通り過ぎて、「怪しいおじいさんって何だろう?」と話した。
「ジュリア、知らないの?お母さんに毎回、遊びに行くと言われるんだけど、おじいさんに気を付けなさいって。睨まれるんだって」
「それだけじゃないぜ。あのおじいさんは何かブツブツ言ってるらしいぜ。お嬢さん方」
私達の後ろから少し背の高い男の子が声をかけてきた。
見たことない顔だ。私の幼稚園にはいない、どこからきたのかな。
「ぼくはね、ジョゼフ。隣町からバスでここに通うんだ。君たちはこの辺りの幼稚園から来たのかな?」
「そうよ。隣町って、結構遠いよね。でも、この辺りだと小学校はここしかないもんね。私はルーシー、こっちはジュリア」
「こんにちは。おじいさんの噂って隣町でも有名なの?」
「奥さんがいた時は明るかったらしいんだけど、去年かな、病気で亡くなったみたいなんだ。
家政婦さんが家に来てご飯とか作るらしいんだけど、日に日に怖い顔になって言ったって聞いちゃってさ。
家政婦さんの家、僕の隣で、いつもおしゃべりするんだよ。そういうの好きなんだよね、母さんも」
「なにをブツブツ言っているのかな?」
「さぁな、おかしな呪文でも唱えてんじゃねぇの」
小学校の入り口まで来て中に入った。そこに白いホワイトボードにクラスの名前が書かれている。
「私は、1-2。ジュリア、同じクラスだわ」
「ホントだ。ジョゼフ君は?」
「残念、お隣の1組だ。時々、遊びに来てよ」
ルーシーと私は、2組に、ジョゼフ君は1組へとそれぞれのクラスにみんなが向かっていく。
2階に上がってクラスに入ると、知っている子と知らない子がたくさんいた。
同じ幼稚園だった子もいるけど、あまり話したことがない子達ばかりだった。
「あ、ルーシー。こっちこっち」
窓側にいる茶髪で丸眼鏡の女の子がルーシーを呼んでいる。
ルーシーは私を連れてその子の近くに来た。見たことはある子、同じ幼稚園でクラス違いのオリビアだ。
私は嫌いではないがちょっとこの子が苦手だった。
「ジュリアだよね、久しぶり」
「久しぶり、オリビア」
ルーシーはいろんな子と仲良くなるのが得意で、いつも遊ぶ時違う子を連れてくる。その時にオリビアと出会って少し遊んだことがあった。
でも、オリビアはルーシーには普通に話しかけるのに私と話す時だけ、なぜかライバル意識してくるのだ。
まるでルーシーを取らないでと言っているかのように。
そんなそぶりはルーシーに見せないために「久しぶりだね」って他の子に愛想振りまいている。
「私達同じクラスだから、これから一緒に帰れるわね。勉強、苦手だから教えてねルーシー」
そうそう、ルーシーは実をいうとなかなかお勉強ができる子なのだ。まぁ、だから仲良くなれる子も多いんだけどね。
キーンコーンカーンコーン、チャイムが鳴ってみんなが席に着くと、カツカツとヒールの音が聞こえてきた。
入ってきた女性は先ほど校門に立っていた先生だった。
「わたくしがここの担任です」くいっと眼鏡をかけ直す。
「さぁ、立ち上がって。体育館で校長先生の話を聞きに行きましょう」
みんなは立ち上がると、開かれた教室のドアを通っていった。

***

今日は先生の話と今後の予定ついてだけだったので、学校の行事はすぐに終わった。
本格的な授業は明日からだと、机の上にある授業に使う教科書を整理していると、ルーシーがこちらに来た。
「先生の話、長かったね」
「眠くなりそうだった。さぁ一緒に帰…」
そこまで言いかけて私は口を閉じた。
「ねぇねぇ、隣のクラスの転校生見に行かない?」オリビアがまた二人の会話に邪魔するように入ってきた。
せっかく、一緒に帰ろうって思っていたのに。
「転校生?」
「うん、すっごくカッコイイみたいなんだよ。行こうよ」
「わかったわ。ジュリアも行きましょう」
ありがとう、ルーシーは本当に優しい子なんだね。私たち三人は教科書を片付けて、カバンを持つと、教室を出た。
隣のクラスは朝に話していたジョゼフ君がいる教室だ。
そっと入ってみると、窓側に座っている男の子に数人の女の子たちが集まっていたのが見えた。
「あそこにいるのかな」
ジョゼフ君が私達に気づいてこちらに来た。
「やぁ、ルーシーにジュリア。それと・・・」
「オリビアよ。よろしくね」
「ぼくは、ジョゼフ。君たちも転校生を見に来たのかな?生憎、お客さんでいっぱいみたいだけど」
「顔だけ見せてもらえればいいんだけど・・・」
「まぁ、入っておくれよ」
教室に入ると、私のクラスと違って背の高い子が多かった。女の子も少し派手な雰囲気だし。
良かった、こっちのクラスじゃなくて。
一番後ろの窓側席の近くまで来ると、ジョゼフ君が声をかけた。
「ちょっと、失礼。他のお客さんも見たいと言っているよ。開けてくれるかい?」
「ごめん、ごめん」
軽い謝り方だがすぐに数人の女の子達が退くと男の子の顔が見えた。
「あ」と私は思った。
「こんにちは、ジュリアちゃん」
「ルシフェル君」
「二人とも知り合いなの?私はね、オリビア。この二人と友達なの」オリビアがちょっとズルそうな顔をした。
別にそんな顔されても困るんだけどね。
「私はルーシー。名前はなんていうの?」
「ルシフェル。よろしくね」
愛想のいい笑顔で笑っているルシフェル君。学校でこうやって会えるのは嬉しい。
「ねぇ、私達と一緒に帰りましょうよ。少しお話もしたいの」
オリビアったら早く仲良くなったのは私の方なのに、まるで自分が先みたいにまた言っている。
一緒に帰りたいのは嘘じゃないけど、ルシフェル君はどうなのかな?
でも、お友達ができたら彼だってもうあんな悲しい顔をしなくていい。
「いいよ。僕も帰るとこなんだ。またね、みんな」
ルシフェル君も席を立つ。みんながまたねと声をかけていく。ジョゼフ君、ルシフェル君、ルーシー、オリビア、それから私は教室を出ていく。
その時、こちらの方を三人の男の子達がチラッと見ながら何かを話していた。
「あいつ、噂の子だろ?」
「不気味だよな。俺たちの学校に来るなんて怖い怖いね」
そんな風に話していたようだ。

帰り道、オリビアは根掘り葉掘りルシフェル君にいろいろ話しかけている。「どこの幼稚園?家は子の近くなの?」
そんなに話しかけたら疲れてしまうのではないかと心配になる。
バス停まで来ると、ジョゼフ君が立ち止まって大人の人たちと隣に並ぶ。
「ここで、僕とはお別れだね。また明日ね」
黄色っぽいバスが来て、ジョゼフ君と大人の人は乗ってはすぐに発車してしまった。
「ジュリアちゃん、またあの家、遊びに行ってもいい?」
小声でルシフェル君は話しかけてきて、私は「いいよ」と答えた。
この会話はバスのおかげでオリビアには聞こえなかったみたいだ。
バスがいなくなると、向かいの近くにある信号におじいさんがいた。こちらをじっと見つめながら何か言っている。
あれが、学校の先生が言っていた怖いおじいさんだろうか。
「ねぇ、あのおじいさんこっち見てるよ」
白い服で腰を曲げた歩き方、両手で籠のような物を引いている。
「早く、帰ろう」
オリビアが私とルーシー、ルシフェル君の背中を押してその場を去ることにする。その行動も目で追うようにこちらをずっと見ていた。


おじいさんのいるとこから離れると、十字路と教会が見えてきた。教会の前にある信号で、三人は別れることになった。
ルーシーは前の幼稚園の近くに家があるので、教会から見て右の方に歩いていく。
そっちの方向にオリビアはお母さんと待ち合わせがあるからと、スーパーマーケットの方に向かった。
ルシフェル君も家に一度帰ってから「“あの家”で待っているね」と言って別れた。
教会から見て正面の道に歩くと私の新しい家が見えてきた。
玄関に着くと、「ただいま」と声をかけるとお母さんが出てきた。
「お帰りなさい。学校はどうだった?」
「ルーシーと会えたわ。あと、オリビアと。新しいお友達もできた」
おまけをつけるかのようにオリビアの名前を出す。
「良かったじゃない?仲のいい子もいて。新しいこの家のお庭で、今度皆を呼んでバーベキューをしたいわね。久しぶりの再会って」
私は部屋に荷物を置いてくるねと言い残して歩き出す。
ママはキッチンに戻っていった。
ママは集まりが好きだった。前の家では集まりができなかったので、よくカフェに出かけてはママ友話に盛り上がっていた。
その中にオリビアのお母さんもいた。
ルーシーのお母さんとオリビアのお母さん、私のママは仲良し三人組。数回だけ古い時の家に遊びに来たこともあったかな。
オリビアのお母さんは優しい、よくクッキーを焼いてきてくれる。お料理教室をしているので料理も上手だった。
ルーシーのお母さんはルーシーと違っておとなしいけど、おしゃべりは嫌いじゃない。
部屋に入るとカバンを机の上に置いた。
「ルシフェル君に会いに行こう」
引き出しにしまってある“あの家”の鍵を出すと、部屋を出ていく。
階段を降りてキッチンにいるママに声をかけた。
「昔のお家で遊んでくる」
「夕方までには帰ってきてね」
玄関で靴を履いて、ドアを開けると外に出て走り出した。

ボロ家の前に着くと、ルシフェル君が玄関前の階段の前で座って待っていた。
「ジュリアちゃん」
「遅れちゃったかな?」
「そんなことないよ。早く中に入ろう」
家の鍵を開けると、ドアをゆっくりと開けた。
「ルシフェル君が転校生だとは思わなかった。これで、学校でも会えるね」
「僕も会えて嬉しかったよ。お友達もできたみたいだし」
「オリビアが話しかけてばかりだから、疲れてない?」
「平気だよ」
ルシフェル君は壁に立て掛けてある絵画を見ながらそう言った。そういえば、この絵画何が描かれていたかしら。
もう汚くて何が描いてあったのかもわからないけど。
「あのおじいさん、怖かったね」
「え?」
「ほら、バス停の近くにいたおじいさん。怪しいよね。僕も年を取ったらあんな風になっちゃうのかな」
「そんなことないよ。ルシフェル君は笑顔が優しいもん。あのおじいさんは怖いけど、ルシフェル君は怖くないよ」
「ありがとう」
本当に天使みたいな笑顔だ。
「何して遊ぶ?」
「だるまさんがころんだをしようよ」
「だるまさん?」
私はこの遊びを知らなかった。ルシフェル君は来てと言って、家の中にある階段の柱に来ると説明をしてくれた。
「ルシフェル君っていろいろな遊びを知っているのね」
「僕、本を読むのが好きなんだ。その中に書いてあった遊びなんだ。他にもいっぱいあるよ。・・・鬼ごっことかね」
「そうなんだ。今度、学校でも遊びましょ」
「いいよ。僕が先に鬼やるから君は僕にタッチしてね」
ルシフェル君が柱の方に向いて顔を隠した。

***

場面は変って、私とサミュエル、夫の三人でご飯を食べているに戻る。
「お母さん、サミュエルの名前が出てこないよ」
「この話は長いからもう少し先で出てくるのよ」
ご飯は食べ終わって、片付けもした。サミュエルは話の続きが聞きたくてリビングのソファーで座って待っていた。
「先にお風呂にお父さんと入ったら?そしたら、話すわね」
「ねぇ、サミュエルは誰なの教えてよ、お母さん」
「しょうがないわね、ヒントをあげるわ。あなたよりは年上よ」
「うーん」さっぱりわからないという顔をしている。
「ほら、サミュエル。風呂に入ろう。話はまた後でだ」
夫がサミュエルを後ろから抱っこして肩車した。
「はーい」
二人はサミュエルの向かいの部屋、浴室に向かった。私はリビングの近くにある窓のまで来ると真っ暗になった空を見上げた。
「“だるまさんがころんだした“あの日・・・明るい時間だったのに月がのぼっていたわね。不気味な色の赤っぽい三日月」
星々が見える空に三日月の形は笑った口のように見えた。

少年は天使のよう、おじいさんは悪魔のよう

次回「3章 お葬式の日」
小学校が始まって、ルシフェル君やジョゼフ君、ルーシーとオリビアと私は学校でも遊ぶようになった。ルシフェル君はもう出会った時のように悲しい顔をしない、これでよかったと思っているときにちょっとした出来事も起こっていた。いじめほどでもないけど、ルシフェル君のことを怖がっている男の子たちが彼の噂をいろいろな子に話していた。
「君たちも気を付けなよ」一か月後にはジョゼフ君までもそう言って離れていった。
ルシフェル君は気にしてないみたいだけど、私はなんだか嫌になった。
同じころ、私達の住んでいる町で最近増えたことがあった。
それは”お墓”だった。
そして、事件は起きた。オリビアがいなくなったのだ。

少年は天使のよう、おじいさんは悪魔のよう

主人公ジュリアは金髪の似合う可愛くて、優しい女の子。一人遊びが大好きで、住めなくなった昔の家が遊び場。 新しいお家はあまり好きじゃなかった。 その日母親から鍵をもらって、古い家で遊んでいると小庭にあるブランコにどこから来たのか同じ年くらいの男の子が座っていた。 ジュリアは男の子と友達になる頃、町では怖い顔のおじいさんがうろついていたという噂があった。

  • 小説
  • 短編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-09-13

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