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やない ふじ

雨に濡れた道路から靴底に付いた砂をふるい落とす
夢にまで見た海へ届けたかった歌をいま紡ぐために
百八十日分の余韻を残して
両肺いっぱいに詰めた、だから吐きだした
そのあとは
灰雲の代わりに十一日分の青空を吸いこみたい

知らなかったんだ、
心臓が身体のまんなかに埋まっていることも
居なくなってからの願い事に必要なのは八百円だってことも
十回目、二十回目、百二十回目
いくら重ねたって慣れないねと言う顔だけがだんだん縮んでゆく、苦しさも悲しさも縮んでゆく、
相対する微笑みばかりが変わらずに鮮明だ
世界のどこからも忘れさられたらそれってやっぱり辛いかな、呟いた声をまだ忘れられないよ、置いてけぼりの記憶はいつまでも重しだから

知らないのかい、
白い満月がリンドウを冴え冴えと照らすことも
清算しきれない悔いばかりが刺さって抜けないでいることも
ほんとうは
三百二十日分の青空を吸いこみたい、けれど息ができない
喉が埋まる前に、取りもどした歌で塞いでしまおう
乾かない傷あとを
抱いたままで
蹴りだした、六番目の海へ

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  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-09-13

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