夜は短し

nanamame

夜は短し

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自慢ではないが、恋愛で苦労したことはない。その内容の話をすると十中八九、自慢だと言われる。そういう神経は分からないでもないが、僕はかっこいいから仕方がないとホソクは思う。それも反感を買う一因だと分かっていても、言わずにはいられない。
僕はかっこいい。
そのことを唯一反発せず同意したのが会社の同期がヒョヌだった。
それに気を許したホソクは、ヒョヌを気に入って、一緒に食事に行ったり、飲みに行ったり、買い物に行ったり、普通の友人同士、親友として付き合っていたわけである。
その関係に物足りなさを感じるようになったのはなぜだろう。いつからだろう。ヒョヌに女の噂があると落ち着かないのは理不尽だと思う。女の噂が多いのはホソクの方なのだから。
それでも女の影がちらつく度にイライラした。食事の誘いを断られると、ヤキモキした。
そんな焦りに似た、気持ちをなんと呼ぶのか、ホソクはよく分かっていた。だからこそ、認めたくなかった。
ヒョヌに対する気持ちは、ただの友情であるはずだ。そうであるべきだ。なのに、日に日に募っていく、ヒョヌを独り占めしたい欲望と衝動と焦燥。
これが恋だと、誰が認めてくれるだろう。ホソク本人ですら、認めがたい気持ちを。ヒョヌは受け止めきれるのだろうか。

家に1人でいてもヒョヌのことを考えている。
最近、食事にも遊びにもホソクが何も誘わなくなったので、ヒョヌから誘ってくれることも多くなったが、すべて断っていたら、誘われなくもなった。
当然だ、という思いと、寂しい、という思い。自分勝手だと分かっているから、1人でもやもやするしかない。
いつも誰かが側にいた。誰でもいいと思っていた時もあった。だけど今は、側にヒョヌがいてくれたら嬉しい。彼のことしか考えられない。

思考に陥っていた。電話が鳴ってびっくりする。
画面にはヒョヌの名前。出るのを躊躇うけれど、鳴り止まない呼び出し音に心が揺れる。

「…もしもし?」

『ああ、よかった。ホソク、今、どこ? 一緒に食事しない? 誘おうと思ったら、お前もう帰ったって言われてさ』

「あ、うん…。あの、悪いけど…」

『なぁ、俺、お前に何かしたか? 俺が気付いてない間に、お前のこと、傷付けたことでもあったのか?』

一方的に遠ざかったのは、ホソクの方なのに、ヒョヌは自分のせいではないかと気にしていたのだ。嬉しさに涙が込み上げる。それを、息を呑んで我慢する。
自分の気持ちを告げるのに、こんなにも戸惑い、躊躇ったことはない。女相手なら、言えば受け入れてもらえる自信があったし、そのためのお膳立てもお手の物だった。
たった1人。ヒョヌだけが、僕を惑わせる。近づいても苦しくて、遠ざけても悲しくて、素直になりたいのになれなくて、無意味に考えて、悩みが深くなる。

「…ヒョヌのせいじゃない。僕のせい、なんだ…」

『どういう意味だ? …なぁ、話をしないか? お前ん家、行ってもいい?』

言ってしまいたい。言ってしまおうか。ヒョヌは手酷い拒絶などしない。優しい男だ。付き合うことにはならないかもしれない。最大限に気を使って、断られることもあるだろう。それでも、言いたい。

「僕が、ヒョヌのところに行くよ」

それだけ言って、電話を切った。車のキーと最低限のものだけ持って、家を出た。エレベーターを待つのも、自動ドアが開くのを待つのさえもどかしい。早く、早く、と気持ちが焦ってしまう。そんな気持ちで、アパートの玄関を出ると、そこにヒョヌがいた。
あまり驚いているようにも見えない。「よぉ」と手を上げて、ヒョヌが笑う。

「電話が切れちゃって、ちょっと焦った」

夜の街灯に照らされた、ヒョヌの優しい笑顔が、ホソクの焦りを解いていく。動けずにいる僕に、ヒョヌの方から近づいてきてくれる。

「いろいろ考えたんだけど、原因がよく分からなくて。俺が鈍いから、ホソクに愛想を尽かされたのかな、とか、知らない間に迷惑をかけちゃったのかな、とか…、って、え? おい、どうしたんだ?」

もう涙を我慢できない。
ヒョヌの手を取り、広い肩に額を預ける。繋いでない方の手が背中を撫でてくれるから、涙が止まらなくて、セリフも順序も何の準備もできていないけれど、高ぶった気持ちのまま告げた。

「好きだ…。ヒョヌが好きだ。僕が、こんなこと言うの、嫌だと思って、でも、どうしようもないんだ…」

「…よかった」

両腕でしっかりと抱きしめてくれて、信じられない言葉が続く。

「嫌われたんじゃないか、と思っていたから…よかった。何か、信じられないけど、ホソクに言われるの、嬉しいな」

ぐずぐず泣いたまま、手を繋いで、勇んで飛び出たばかりの家に戻る。
ヒョヌが嬉しいと言ってくれたから、ホソクはある意味確信を持つことができた。素直になってもいいんだ。もう偽らないでもいいんだ。ヒョヌがどう思うか、どう受け取るか、1人で悶々としていたけれど、想像よりもずっと簡単で単純なことだった。
側にいたいという素直な気持ちのまま、そのためにできること、僕たちの未来を一緒に話すのだ。

「側にいてくれる?」

ホソクは、勇気を出して言った。



End.

夜は短し

ウォノくん、ソロデビューおめでとう! 『Love Synonym』最高です♪ 歌手としてファンの前に戻ってきてくれたこと、とても嬉しいです(^^)

何か深刻な問題が起こったとしても、話し合って、考えて、誰もが幸せになれる道を見つけられたらいいのにな、と思います。誰かが、自分を犠牲にして身を引くのではなく、1人の犠牲で丸くおさめるのではなく。それが最善なのだとしても。誰もが幸せになれる世界なんて、無いのかもしれないけれど、それを思い、目指すことは無意味ではないと思っています。

夜は短し

ウォノくんソロデビューおめでとう記念。 ホソク(ウォノ)くんとショヌ(ヒョヌ)さんのお話。K-Pop、BL。

  • 小説
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  • 恋愛
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更新日
登録日 2020-09-11

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