紫萬と磐城の儚総集編

紫萬と磐城の儚8️⃣


-収縮-

 幾度目かの雷鳴と雨空を切り裂く稲妻と同時に浴室の戸が開いた。伊勢だ。司喜子が凄まじい叫声をあげた。
 伊勢は、「ピストルだ。そのままだ。動くな」と叫びながら、司喜子に覆い被さっている伊勢の手首に素早く手錠を掛けしまった。
 「どうしたんだ?驚いて身動きも出来ないのか?武道の達人と聞いていたが。口ほどにもない奴だ」「この女の魔性に惑わされたのが、お前の運のつきだったんだよ」秘匿すべき情欲の現場を急襲された陸奥は答えようもない。それ以上に無様な有り様を晒してしまっているのだ。己の不覚に歯軋りをするのみであった。
 「司喜子。よくやった。さすがに皇室に繋がる系譜だ。物怖じひとつしない。お前は俺が見込んだ通りの女だった」だが、司喜子も驚愕と恥辱で言葉を失っている。

 「念には念を入れて時間を繰り上げたんだ。工作とはいえ情欲の陰謀だ。何が起きるかわからんからな。予想はしていたが、とんだ濡れ場じゃないか?司喜子?申しつけた以上の働き様だな?ご苦労だった」
 「それにしても、いい加減に離れたらどうだ」陸奥が裸の尻で藻掻いてはいるが、全く離れようとはしないのである。「どうしたんだ?」伊勢が罵声をあげて陸奥の尻を蹴り上げた。
 漸く、司喜子が掠れた声をふり絞って、「違うの。あなた?助けて頂戴?」と、哀願するのである。「どうしたんだ?」「助けて」女が再び呻く。
 未だ異変に気づいていない伊勢が、「どうした?動けないのか?」陸奥の屈強な身体の下で女が頷く。
 「重くて離れられないのか?」女が激しく首を振る。「おい。陸奥。いい加減にしろよ。この期に及んでも、射精でもしたいのか?」と、再び、男の裸の尻を軍靴で思いきり蹴った。陸奥が唇を噛んで呻いた。「俺が承知して仕組んだ罠とはいえ、お前が挿入しているのはれっきとした俺の女房なんだぞ。馬鹿者めが」尻に置いた軍靴をグリグリと押し付ける。陸奥が身体をよじって呻くが結合を解く気配がない。「しぶとい奴だ。余程お前のが気に入ったんだな?」

 「あなた?違うのよ」「何が違うんだ?」「外れないの」「何が?」「この人のがよ」「こいつの何が?」「何をふざけているの?見たらわかるでしょ?」「何だ?はっきり言え」
 「陰茎よ」「陰茎?」「そうよ」「嵌まってるんだろ?」「見たらわかるでしょ?」「勃起してるのか?」「あなたったら?」「はっきり言え」「してるわ」「お前のは?」「私のがどうかしたの?」「締め付けてるのか?」「何を言うの?」「はっきり言え」「わかったわ。凄く締め付けてるわよ」「絶頂の最中なんだな?」「馬鹿を言わないで」「だったら、どうしてそいつのを締め付けてるんだ」「それがわからないのよ」
 「俺の時よりか?」「そうよ。何倍もだわ」「だから、こいつに外して離れろと言ってるんだ」「この人も抜こうとしているのよ」「だったらさっさと抜け」と、伊勢は陸奥の足裏を軍靴で忌々しく踏みつけた。陸奥が呻く。
 「あなた?落ち着いて頂戴。この人をいくらいたぶっても何の益もないわ」「どうして?」「誰のせいでもないんだもの」

 「これじゃ、よくわからないな」「何が?」「どうなってるかだ」「だから、何がよ?」「お前たちの、そこの結合だ」「結合?」「そうだ」「見るの?」「詳しく見なかったら対処のしようがない」「厭だわ」
 「嫌も応もあるまい。司喜子?どうやっても外れないんだろ?」「そうだけど…」「自分の力ではどうにもならないんだろ?」「俺だけが頼りなんだろ?」「こんな有り様で他の誰かを呼ぶ訳にもいかないしな?」「わかったわ。好きな様にして頂戴」「漸く観念したな」「どうするの?」
 「お前が上になるんだ」「私が?」「そうだ」「出来るかしら?」
 伊勢が、また、尻を蹴りあげて、「陸奥?わかったな?反転してお前が下になるんだぞ」

 二人が反転すると恥辱の有り様がすっかりあからさまになった。「これは凄まじい眺めだ」「もう、わかったでしょ?これ以上は見ないで頂戴」「仕事はこれからだ」「これじゃ、結合がよくわからないな。司喜子?股をもっと開け」「厭よ」
 「この期に及んで上品ぶるんじゃない」伊勢の声音が変わった。「あなた?何を言い出すの?」「お前は子爵や皇族を鼻にかけるが、なんのことはない。色情に狂ったばかりのおぞましい女なんだ」「あなた?そんな風に思っていたの?」「そんなことにも気付かない鈍感なんだ」と罵倒すると、伊勢の様子が静まった。
 「どうしたの?ねえ?」「これは驚いた」「どうしたの?」「お前の陰毛も、この男の陰毛もない。どうしたんだ?」「私のはあなたが剃ったんでしょ?」「何?」「忘れたの?」「嘘を言うな」「こんな事をしておいて。忘れるなんて。酷いわ」「本当なのか?」「一昨日の夜よ。私としたでしょ?」「そうなのか?」「それさえも覚えてないの?」「すっかり酩酊して帰ってきたと思ったら」「玄関のホールで踊ろうって。言ったでしょ」「何も覚えていない」「チークを踊ったわ」「そしたら裸になれって」「こんなとこじゃ厭よって言ったら。変わってていいんだ。刺激が強くないと立たないんだって。あなた?みんな忘れてしまったの?」この期に及んでも司喜子の嘘は果てしがないのである。

 「これは驚いたな。話には聞いていたが。まさか、自分の妻のをみるとはな」「あなたが、やれと言ったんでしょ?」「ここまで命じたつもりはないが」「四の五の言わずに何とかして頂戴」「何とかと言われても。何ともな」「何を見てるの?」「なかなかいい眺めだ」「冗談は止して」「絶景だ。お前のが締め付けてるんだろ?どんな具合なんだ?」「あなた?どうにかして助けて頂戴?」「どうしたらいいものやら」「切り落として?」「恐ろしい事を言うな。何を切るんだ?」「これよ」「だから?」「私のに入っている…」「何?」「これよ」「陸奥のをか?」「そうよ。切り落として。お願い?」「無慈悲な女だ。交合途上の愛人の逸物を切断しろと言うのか?」「愛人なんかじゃないでしょ?みんなあなたに命じられて。あなたが仕組んだんでしょ?」「大陸の珍器にはキュウリを切断するのもあると聞いたが。お前のはもっと凄そうだ。自分ので切断したらどうなんだ?」


-無想-

 「陸奥よ。聞いたろ?これがこの女の心底なんだ。お前と何を言い交わして交接に及んだかは知らないが。この女には情愛の欠片もないんだ。俺などは北辺の蛮族の片割れぐらいにしか見ていないんだよ」「お前も北の国だったな?」「ひとおもいにここで射殺してもいいんだが。北の同族としていちるの情けをかけてやる」「お前はソビエトに行くんだ。カールの仲間が待っている。世にも恐ろしい諜報機関だ。そこで、お前達の御門制転覆の謀略の全てを白状するんだ。カールが喉から手が出るほど欲しがっている情報だからな」「司喜子よ。お前も皇室の閨房の極秘の有り様を、どんなに拒んでも今度こそは白状させられるんだ。お前は被虐の女だ。どんな拷問が待っているか、楽しみにしていろよ」「直にこの戦争は終わる。カールの極秘の情報だ。ソビエトがこの戦争に参戦するんだよ。俺が手引きして北の国を占領させて独立させるんだ。驚いたか?」裸の二人は声も出ない。「この女との暮らしで、俺は御門制にはほとほと愛想がつきたんだ。御門に仕える士官とはいいながら、俺も貧農の出じゃないか?お前がいう革命の主体、怒れる人民の一人なんだよ」司喜子が歯軋りをする。「だから、お前に代わって北の国を独立させて、念願の楽土を築いてやる」「お前はこの女と、何しろ、お前の逸物を切りとって殺してしまえと言い放ったんだからな。この女とソビエトで永劫に暮らすんだよ」「監獄は同房になるようにカールに頼んでやる」「司喜子よ?俺はあの女と…」

 その時、轟音がして伊勢がもんどりを打って倒れた。あの繭子が立ちすくんでいた。


(続く)

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紫萬と磐城の儚総集編

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更新日
登録日
2020-09-10

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