とどかない
ちかくて、とおいものは、えいえんにとどかないで、この指に、ふれない。
コールドスリープの実験体になった、きみと、暫しお別れのあいさつという儀式的なものに、参加はしなかった。むなしい、とつぶやきながら、まよなかに、ファミレスのパフェをたべていた日のことを思い出して、ひともまばらな、最終電車のなかで、つめたいカプセルのなかで眠る、きみのかおを、なるべく想像しないようにしていた。それは、きっと、なによりもうつくしくて、そして、こわいのだろうと思った。
電車が、線路のうえを、はしってゆく音だけが、して、まどのそと、町は、ひっそりと息をしている。ちいさな光が、点在する、そのかたわらを、電車は、通過してゆく。さいごの、さいごに、きみにふれたかった、気がするし、ふれなくてよかった、気もする。ふれてしまったら、ほんとうに、さいごになってしまうような、そんな予感もあった。目が覚めたときには、もう、ぼくは、きみを、迎えに行けないのかも、しれないのだし。永遠ではないが、永遠になるかもしれない、不確かな別れを、冷静に受け入れられるほど、ぼくは、にんげんができていないのだと、じぶんに言い聞かせながら、ただながれてゆくだけの、夜の町をみていた。
とどかない