歯間ブラシ

北上八三

今もあの歯医者さんへの恩は変わらずあります。

久方ぶりに歯医者に行くと、
「あー○○さん歯間ブラシサボってたでしょう?」
と言われた。

「あうう、わかりますか?」
やっぱりプロの方は違うのだろうか。口内を覗いてすぐにそういう口撃。いやでも歯磨きとリステリンは毎日欠かしませんでしたけども。

「わかりますよお」
ピンクのフェチな人にはたまらないスクラブを着たマスクもピンクの歯科助手の人はそう言うと、
「歯間ブラシもやりすぎるのはよくないですけどね、でもこうサボられるとすぐです。秒です」
と笑った。

ああ、恥ずかしい。久々に歯の掃除だけでもいいからどうです?っていうはがきが来たから、来てみたがやっぱりあれだったか。あまりにも無防備すぎたか。事前に色々とした方がよかったかあ。

「じゃあ今日はどうでしょう?掃除、保険対象のと、保険外の奴」
以前来たときは保険外のを勧められた。歯間に溜まった歯垢も綺麗になるからって、そうした方がいいと言われて。

その歯医者には親知らずを全部処置してもらった恩もあったし、本当に秋田に住んでいた頃以来の歯医者だった。だからまあ保険外にした。恩もあったし、申し訳ない気持ちもあった。だからこの分だと今回も・・・。
「もうお分かりですね?」
ピンクのスクラブを着た猪口尚美というネームプレートをした歯科助手はマスク越しでもわかるくらいにやあっとした。

私は半泣きになりながら、
「ほ、ほ、保険外の奴でええ・・・」
と告げた。

その時の恐怖感。ドリルで歯を削られるよりもよほどそっちの方が怖かった。

「はいじゃあ、粉かけます」
その後、処置に入られてまず歯の全体に白い研磨剤みたいな粉かけられた。

その粉の成分が定着するまで少し待ち、それから本格的な歯の掃除が始まった。ブラシを使って、後、ピンセットの先端みたいな尖ったのを使って、歯だという事を忘れてるじゃないかと思えるほど、ゴリゴリと、ガリガリと。

歯間も紐を使ったり専門の歯間ブラシ的なものを使って一か所一か所順々にグリグリされた。親知らずを全部処置してもらった恩が無かったら、泣いてるかもしれない。げえええとかって言ってるかもしれない。

やがて、
「はい、じゃあ後上の奥歯だけですからねえ」
そのような苦行ももうすぐ終焉を迎えるあたりになった時、

猪口が、もう、さん付けとか無い。猪口が、
「なにこれ?」
と言って、なんか急に手を突っ込んできて、恩が無かったら怒ってるかもしれない。急に人の口内に手を突っ込んで。ただとにかく手を突っ込んで、私の口に、

「○○さんこれなんですか?」
なんか出した。

「え?」
凡字っていうのかな、あるいは習字でいう所の草書っていうのかな、いやもっとなんか、

何だろ、

何か、

何かいろいろと書かれた紙、油紙みたいな紙。

「な、なんですかこれ?」
猪口もなんか怖がってる。

いや、私も怖いんですけど。

何それ全然知らないけど!

「なんでこんなのが歯の間に挟まってるんですか!」
いや知らないけど。私も知らないけど!

歯間ブラシ

歯間ブラシ

  • 小説
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  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-09-09

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