繭子7️⃣
繭子 7️⃣
-源倫-
敗戦後の混迷は続いていた。相変わらず、繭子はその底辺を歩んでいたのであった。
繭子はあの戦争の最中に結婚して、直ぐに徴兵された夫を亡くしていた。子供はいなかった。いずれは詳しく書く機会があるかも知れないが、今は少しばかり先を急ぎたい。筆者の事情である。
戦後の間もなく、あの草也の倫宗が台頭してきた頃の盛夏である。
半年前、繭子は執政という触れ込みでその寺に入った。信徒会の幹部達は、僧の男が持ち前の強引で説き伏せてしまった。執政などは、男がさしたる根拠もなくこじつけたのだった。寺の事務や雑務の一切を取り仕切る仕事だが、実際は僧の妾である。繭子は寺の一隅に住み込んだ。
住職の源倫とはとは、倫宗の会合で声をかけられて、その夜の内に関係を結んだ。
繭子は男達と戦争に弄ばれた二六歳の、砂を噛むような暗澹とした心と、飢餓の身体をもて余していたのである。男は倫宗のある末寺を預かりながら、教団内部の抗争で反草也派幹部に引き立てられたのをいいことに、出鱈目な占いや金貸しに血道をあげ、様々な投資をして蓄財していた。女癖もほとほと悪い。
-大和-
離婚して三年になる僧には一五歳の一人息子がいた。この親には似ても似つかない、薫風のような若者である。大和という。
大和が中学三年の夏の事だった。
父親の源倫はその日の朝に教団本部に出張して、明日まで戻らない。
その日の体育の授業で、大和は右の手首を捻挫して大仰に包帯を巻かれた。
夕方に家に帰ると、半年前から同居を始めた繭子という女の気遣いがただことではない。
青いワンピースの胸を揺らして、屈んだりする拍子に、時おり、乳房の欠片を覗かせたりしながら、甲斐甲斐しく湿布を取り換える。
「少しも収まらない暑さだわ。喉が乾かない?スイカが冷やしてあったの」。
大和が慣れない左手で匙を扱うのを見て、「それじゃ、食べた気にならないでしょ?」と、自分が食べていたスイカを男の口に運んだ。戸惑った若者も直に慣れる。女は男の口の端しに残った赤い汁をタオルで拭う。
「風呂には入るんでしょ?」「汗にまみれたから」「そうだわね。臭うもの。でも、右手だから。どんなにか大変に違いないわ。自分で洗えるのかしら?」と、目を煌めかせる。「なんとかなるよ」「駄目だわ。変に悪化したら大変だもの。お父さんに叱られるわ。私が洗ってあげるわよ」「いい」「遠慮なんてしなくていいのよ。これも私の仕事の内なんだから」「いいって」「恥ずかしいの?」「そんなんじゃない」「怪我や病気の時はせいぜい甘えていいんだもの。洗う時になったら呼んでね?きっとよ?」
右手をあげて、大和が風呂に入っていると、「不自由でしょう?」と言いながら、女が戸を引いて入ってきた。薄いワンピースをたくしあげて、白い太股を太股の付け根まで露にしている。頬を染めて、「呼んでないだろ?」と、思わず左手で温い湯をすくって、女に投げつけた。「やったわね」と、女は意に介さないで湯面を叩くから、男の顔に跳ねる。それを、持ってきたタオルで女が拭き取る。
男がかけた湯が女の豊かな胸元に染みて、張り付いた乳首が飛び出ているのだ。男の目の前で、初めて会う生き物のように躍動している。 「こんなになっちゃったわ。いけないんだから?」「いきなり入ってくるからだ」「言ってたでしょ?」「許してない」「だったら、許して?」
「洗ってあげるから、もう出なさい。茹だっちゃうわよ?」それでも躊躇う大和を、「同じ屋根の下に寝起きしてるんだもの、当たり前のことなのよ?」「そんなに恥ずかしいんなら、私も裸になろうかしら?」と、女が急かして、大和の腕に手をかけた。
観念した若者は、余程、思いきりがいいのか、一切、隠す仕草もせずに立ち上がった。女が、「まあ」と、感嘆した。
繭子は十も若い男の背中に取り付くと、巧みに石鹸を泡立てて丹念に洗う。「大きい背中だわ。背も高いし。身長はどれくらいあるの?」「一六五」「やっぱりね。私より大きいんだわ。すぐにお父さんを抜くわよ」。脇の下に手を入れると、「もう大人なんだわ」と、暫く手を止めたりする。
やがて、何の躊躇いもなしに、若者の股間に手を伸ばした女が、陰毛に石鹸を擦り付けて巧みに泡立てた。すると、充分に出来た泡で男の若い陰茎を握ってしまった。ゆっくりとしごきながら、「最近は気味が悪いくらいに蒸すんだもの。ここは、特別に綺麗にきれいにしなきゃあね」と、言いながら手を停めた女が、「どうしたの?」「何が?」「だって。これが、だんだん」「凄いんだもの「どんなに?」「とっても大きいわよ。こんなことするの、初めて?」「初めてじゃない」「あら?もしかして?性交したことあるの?」「ある」「まあ。どんな?」「ねえ?これをいっぱい。ほら。こんな風に洗ってあげるから。教えてちょうだい?」
大和が話し始めた。
(続く)
繭子7️⃣