繭子3️⃣
繭子3️⃣
義兄の草乎と母は本当に交接をしていたのだろうか?
繭子が惑う間に草乎が安直に戦死してしまって、母があの負け戦のように自裁した今となっては全てが謎なのだが、繭子の夢には、時おり二人が現れたりもするのである。
草乎が中学三年の夏休みのある日。異様に蒸す昼下がりなのである。
男は離れの自室で、ロシアの長編を汗にまみれて読んでいた。哲学的な殺人事件の絶頂に、義母の悲鳴が聞こえた気がした。男を呼ぶ声が後に続く。庭からだ。何があったのだ。何故なのだろう。ふと、ロシアの殺人事件が引き起こす新しい災厄なのかなどと考える。そして、そういえば今日はあの義母と二人きりなのだと気付いた。他の家人はそれぞれの理由で留守なのだった。
男が駆けつけると、義母がダリアやグラジオラスの大輪の花株の間にへたり込んでいた。
「目眩がするの。多分、日射病に違いないわ」と、絶え絶えなのだ。「貧血を起こしたみたいにふらつくんだもの」豊潤な身体が男にすがり付いた。
ようようの態で居間に辿り着くと、草乎の腕から義母が崩れ落ちて横臥した。
息を乱しながら矢継ぎ早に男に指示をする。コップで水を飲ませてから、洗面器に水を入れてタオルを持って戻ると、濡らしたタオルを女の額に当てた。 「身体が火照って仕方ないの」と、言いながら、義母が上っ張りの紐を解くと、裸の乳房が大胆にこぼれ出た。思春期の若者には驚くほどの重量だ。「ここも冷やして」と、女が媚びる。男がもう一枚のタオルを濡らして、波打つ真っ白い乳房に当てた。
「これでは仕方がないものね」義母に言われて、男が義母の浴衣を取ってきて半裸を隠した。大輪の紫の花が咲き乱れている。女はその下でモンペも脱いで、「これですっかり楽になったわ」と、熱くて長い息を吐いた。
「日射病には冷やすのが特効なんだものね。身体も拭きたいわ」と、男が頷く間もなく、たくしあげられた浴衣の下から義母の下半身が現れた。
臍を頂点に繁茂する陰毛。三段腹。太股。みんなあの写真で見たままだ。
「お願いね」義母がまた長い息を吐いた。男は拭いた。脂の浮いた三段腹が淫靡に揺れる。「あなたがいてくれなかったら、どうなっていたのかしら?」女の手が男の手を導く。陰毛の丘だ。「命の恩人だわ」
「また、あなたに助けられたのね?」
「あなたが六年の時だったでしょ?夜半にあの人と喧嘩していた時にあなたが起きてきて。母さんを殴ったら承知しないって、間に入ってくれたでしょ?あの時に、初めて母さんって呼んでくれたんだもの。涙が出るほどに嬉しかったのよ?覚えてるでしょ?覚えてないの?」男は赤面して俯いたままだ。
女が反転した。尻の妖艶な山脈が姿を表した。
「少し休みたいわ」と、義母が瞼を閉じる。男はどうしたらいいものか迷っていたが、女のの目が届かない窓の側で煙草を吸った。
暫くして呼ぶ声がした。落ち着きを取り戻したのか、義母が、「気付けにウィスキーを飲んだらどうかしら?」と、近寄った男に目配せをする。父親が軍から横流しして愛飲している舶来のウィスキーとグラスを持って戻ると、横臥したままで、義母はそれを旨そうに飲んだ。厚くて赤い唇から溢れたウィスキーが胸元に垂れる。「大分楽になったわ。驚いたでしょ?あなたも飲んだら?気が休まるわよ」男が戸惑っていると、「酒には違いないけどスコットランドでは薬の代わりなのよ」「時々、くすねてるでしょ?」男が瞬く。「煙草だって知ってるのよ。今も吸ってたでしょ?でも、みんな内緒にしてあげるわ」男がウィスキーを飲むと、「二人だけの秘密が初めてできたのね」と、男の手を握る。
「身体がまた暑くなってきたわ。日射病の熱が抜けないのかしら。そう言えば、冷たいタオルで何度も拭いて熱をとるのがいいって、何かに書いてあったんだわ。でも、身体が麻痺したみたいにだるくて、ちっとも動けないんだもの。あなたに、また拭いて貰おうかしら?」と、男を覗き込む。男が、つい今しがたの淫靡な情景を思い起こしながら、頷く。すると、義母はさらに大胆になるのだ。
草乎の股間を凝視しながら、「どうしたのかしら?」と、囁くのである。思わず、「窮屈で」と、返すと、「勃起したんでしょ?」端的に露悪だ。「痛くない?」「痛い」「それって身体に良くないのよ。それに、この暑さだもの。暑いでしょ?」「暑い」「ズボンも汚れてしまったし。後で洗うから。みんな脱いだら?」男がズボンを脱いで、戸惑っていると、「パンツもなのよ」男の下半身が剥き出しになった。陰毛を見て、「立派だわ。もう、すっかり男なのね」
「母のって、どうしてあんなに黒いのかしら?」義兄の草乎が、「お前のは違うのか?」繭子が首を振った。「いっぱいやったからだろ?気持ち良くなると汁が出るだろ?」「それが沈着して黒くなるんだろ?」
「これってあの小説の話なの?それとも、私がみている夢なの?」
(続く)
繭子3️⃣