世界テクテク旅 ヨーロッパ青春編 『トレドの夕暮れ』

世界テクテク旅 ヨーロッパ青春編 『トレドの夕暮れ』

サクッと揚がったチューロスとホット・チョコレート、これがお姉ちゃんのス
ペインでの朝食だった。
ホット・チョコレートをすくいながら、昨日フランスのモンペリエで乗り換えた
タルゴの中で山のような質問と山のような回答が返って来る中で話しに出
てきた「トレド」へ行く事になった。

トレドへは直行列車がなく、バルセロナのサンツ駅から出発し、約1時間
30分後マドリードのアトーチャ駅でアバントに乗り換え約30分、ルネサン
ス期のスペインを代表するギリシャ人画家エル・グレコが活躍した街古都
トレドに到着した。 

「ここの歴史地区にはシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)、モスク(スラム教礼
拝堂)、チャーチ(キリスト教会)が混在し、中世に多様な宗教と文化が交
錯したスペインの歴史を垣間見る事が出来ますよ」とお姉ちゃんが説明し
てくれたので、まずは270年の歳月をかけ15世紀末に完成したフランス
ゴシック建設の傑作で、高さ90mの鐘楼が圧巻のトレド大聖堂のある旧
市街に行ってみた。 

近代化をまぬがれ、古代ローマから西ゴート王国、後ウマイヤ朝、スペイ
ン黄金時代といった二千年にわたる文化の痕跡が残るこの街は三方を
ホタ川に囲まれた自然の要塞で、二人で歩いた石畳の狭い小路がとても
印象的で、川をはさんだ対岸から街を望む景観は、水面に映る白い街と
乾いた青い空のコイントラストが素晴らしく、二人旅は楽しく、いつまでも
こんな楽しい日々が続く事を信じて疑わなかった。 

冬の夕日が西の城壁に沈み、急に暗くなり家々の灯りがともり始めた。 
イルミネーションもなく、クラクションも聞こえない静かな佇まいの街に星
が降り、ホタ川に街の灯りが揺れ始め、夜の帳が下りてきた。
寒い北欧の一人旅やドイツ・デュッセルドルフで深夜「城公園ホーフガル
テン」を横切り一人で帰宅していた頃の淋しい日々とは全く違い、優しさ
と暖かさに包まれ、思わずお姉ちゃんの肩をそっと抱くと、にっこりとほほ
笑んだ口元から可愛い八重歯がこぼれた。

世界テクテク旅 ヨーロッパ青春編 『トレドの夕暮れ』

世界テクテク旅 ヨーロッパ青春編 『トレドの夕暮れ』

今蘇る40年前の思い出

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 青春
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-11-15

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted