告白
気付いた時には、祈りと呪いに板挟みにされたような状態になっていた。祈りは時に呪いの顔をし、呪いもまた、時に祈りの顔をして、まるで共謀しているかのように俺を誑かした。俺はそのどちらもが忌々しくて、然し、どうすることもできずに、ただ黙って魘されているしかなかった。初めから共謀などしておらず、たった一つの怪異の犯行であったことも知らずに。そして傍から見たらそれは悪行でも、犯人にとっては善行であり、当の犯人は自分を善人だと信じて疑わない例だってあるということも知らずに。剥き出しの悪意が滲み出ていて、狂人じみた顔をしているのが悪夢だと思っていたが、想像に反して悪夢は大抵ポーカーフェイスで、時々優しく微笑みかけてくることがあり、そのせいで真実の方がでたらめのように感じられた。真実は真実であるがゆえに姿形を変えることはなく、いつ見ても無表情を決め込んでいた。笑える話だが、悪夢の方がまだ人間味があった。歩いていながら、自分がどこにいるのかわからなかった。気付けば辺りは恒常的に、中途半端に薄暗くて、足元も進行方向も中途半端に不鮮明だった。そして今日、遂に目も開けられなくなり、足も動かなくなり、魂を抜かれたようにその場に倒れ込んだ。ああ、ようやく死ねるのか。ようやく。思えば、俺を本当に死への欲動へと導いていたのは、数多の不幸や過ちではなく、無上の幸せ一つだった。俺を今日まで生かしてきたのは、無上のよろこび一つだった。そして、これほど無様に衰弱しきった俺を明日も生かそうとし、また、死にたくさせる怪異の正体はやはり、無上の想い出一つだった。勝手に悪夢と呼んでいたが、それほど悪いやつではなかった。夢も現実も一緒くたにした長い走馬灯は賑やかだったが、それは自身の体温に馴染んだような賑やかさだった。「明日も生かそうとしてくれて、ありがとう。そして、さよなら」。満ち足りた思いで虚空に呟く。同時に張り詰めていたものが弛緩し、酸欠に喘ぎながら小さくなっていく蝋燭の灯のように、緩慢と意識が遠のいていく。二度と明日の来ない俺は、二度と覚めない幸福な眠りについた。
告白