玉子 総集編

草也

玉子 総集編
 
柴萬と磐城の儚
第二部


-二葉-

 F町の町長選挙は史上初めての激戦のままに、終盤戦に突入して行ったのである。
 原発立地六市町村のリーダーといわれる現職町長の二葉は若い頃から豪胆な男だった。大男である。中農の跡取りで、青年団や農業改革運動で名を馳せた。二八の時に県議の補欠選挙があり、押されて進歩党から立候補して当選する。議会でも派手な言動で、直ぐ様に頭角を現した。原発には誘致当初から一貫して反対した。三期目の最中に突然に離党して、無所属で町長選に立候補して当選した。すると、矢庭に原発推進に転向したのである。沸騰する批判や保守派の怪訝に対して、「状況によって君子は豹変する。革命より改良。夢想から現実への賢明で大胆な転身だ」と、言い放って憚らないのであった。
 F町はいうに及ばず原発立地自治体の政治地図に激震が走った。進歩党はもちろん保守勢力も分裂した。とりわけ、F町の原発を巡る世情はいっそう複雑なモザイク模様を描く事となったのだった。
 こうした情勢で、常に公認候補を出す改革党が、初めて無所属の候補を推薦した。進歩党の大半と保守の一部も推薦したから稀に見る激突の構造となったのである。


-広野と巴女子-

 広野と巴女子の二人もその渦中にいるのである。
 広野はタクシー運転手で四六歳。首府でF町出身の妻と廻り合って結婚。数年前に妻の実家のF町に都落ちした。そのわけも以前の経歴も一切が不明だ。妻は四七。子供はいない。
 タクシー運転手でつくる革新系の労働組合の専従役員である。原発反対がその組合の方針だ。過激派ではないかという噂も秘かに付きまとう男なのである。長身でやさ面。どことなく虚無めいた風情を漂わせている。
 巴女子は四二。夫は五年前に事故死している。補償金で住宅ローン完済した。子供は独立。スーパーに勤務している。豊潤な女だ。


-玉子-

 こうした情勢にあって、町長選の候補に名前の上がった町議会議長の動向が注目されていた。この地域のボスの一人だ。そして、この男の婦人後援会の役員をしているある女がいた。玉子という。

 蒸し暑い昼下がりである。玄関口で、四〇半ばの長身の男が口上を始めた。神主姿だ。特徴のある鼻。虚無の風情を漂わせている。「喜濡キヌさんの要請で参りました広野です。途中で事故がありまして遅れました」続けて、巫女の装束をまとった豊潤な女が、「巴女子と申します」と、恭しく頭を下げた。四〇回りだろう。いちいちの仕草に色香がこぼれ落ちる。
 「お待ちしておりました。どうぞお上がりください」と、二人を招き入れた豊満な女は玉子という。若作りだが五〇に近い。この暑さには不似合いな完熟した肉の薫りをふんぷんと発散させている。

 風のない居間で玉子が茶を勧めた。巴女子が、「今般のご事情は喜濡さんから詳しく伺っております」と、意味ありげに微笑むと、玉子が「本日は宜しくお願い致します」と、深々と頭を下げる。
 その女の瞳を見据えたままに広野がおもむろに話を切り出した。
 「大皇オオキミ教は国学を極めた曽我先生が、もちろんあの悲惨な戦争推進の根元となった国家神道の反省の上にですが、我が国の建国理念である御門制を礎にして、天下万民の幸せと世界平和を実現するために創設されました」玉子が深く頷くのを見定めながら、男が息を継ぐ。
 茶を含んだ男が、「御門の御縁戚の六条宮の彩子様を名誉巫女総代に推戴しております」すると、余韻を玉子が引き取って、「曽我先生の奥様があの高名な細河運子カズコ先生なんでしょ?」巴女子が、「曽我先生は先の奥さまを亡くされまして。世間には秘していますが実質的にはご夫婦です」と、挟んだ。
 「巴女子さんは細河先生の直々のお弟子さんだそうですね?」「ご縁がありまして末席を汚しております」「ご謙遜だこと。凄く当たるって。喜濡さんもべた褒めだったもの」「占いの知識だけではできる業ではない。天性の霊力が備わっているんだと、おっしゃっていたもの」巴女子が、「あなたの御事情は喜濡さんから詳しく伺っておりますので…」と
、怪しげに微笑んだ。


-結界-

 広野と巴女子が簡易な祭壇をしつらえ始めた。台のついた竹筒に挿した篠竹を四隅に配して、随所に半紙を差し込んだ縄を張って二畳程の結界を作る。その中に組立式の祭壇をしつらえた。玉子が用意していた米や野菜、魚を供えると雰囲気が一変した。女が酒瓶の封を切って四隅を浄める。男がウィスキーでも同じ事をする。蝋燭に火を点す。そして、香に着火した。紫の煙が立ち上り、たちまちの内に怪しい香りが満ちてくる。この香には大麻や得体の知れない媚欲植物などが練り込まれているのだ。その煙に包まれながら、結界の中で、浄化と称して巴女子と広野がウィスキーを飲む。勧められて玉子も飲んだ。

 「早速、鑑定させていただきます」と、広野が仰々しく巴女子を促す。
 祭壇に向き合い恭しく御幣を振りながら、巴女子が祝詞をあげ始めたが、突然に中断してしまった。振り向いた女が、「失礼ですが、この部屋には邪気が満ちています」と、いかにも冷厳に宣託するのである。
 後ろに控えていた玉子が眉間に皺を刻んで、「どういう事なんでしょう?」

 深刻な視線で辺りを探る様子の巴女子が、「あれは何ですか?」と、壁に掛かった額を指摘した。「おわかりになりませんか?」「香師の鑑札ですけど」「そういうことではありません」「わかりませんか?」「どういうことでしょうか?」「あの名前です」「名前?」「あれはなんと読むのですか?」「魂胡タマコです。私がやっている香の仕事で使っている名前です」「本名ではないでしょう?」「違います」「あなたがつけたのですか?」「はい」「いけませんね。名前を勝手にいじるのは災いの大本なのですよ。あなたほどの人が。おわかりになりませんでしたか?」「あなたの本名は?」「玉子です」巴女子が言い放つ。
 「大陸の古代に玉ギョクという説話があります。王君オオキミの妾に玉という異国の姫がいた。戦争に負けて俘虜になったのです。王君は玉の容色に溺れて。二人は政務をないがしろにして桃源郷に耽溺したのです。この隙をついて玉の生国が攻め入り王君は戦場に向かいます。その留守に玉は宰相の金膨大と性交して、王君を挟み撃ちにして政権を奪取してしまった。中国で初めての革命と言われています。 そこで、この玉。王に付いている『、』は、王にまとわりついて災厄を為すものとして忌み嫌われたのです。しかし、後には、転じて、王が権力と権威の象徴として玉を身に付ける様になりました。即ち、玉を完全に支配する者が王だと言われる様になったのです」
 「でも、帝政が定着すると新しい解釈がされるようになりました」「玉は王に『、テン』が付きます。そうですね?」「はい」「この意は何ですか?」「わかりませんか?」「王は男です。だから、『、テン』は?」「男にぶら下がっているものですよ」「まあ」「そうです」「金玉…ですか?」
 「はい。だから、あなたの名前の玉は、即ち陽根に通じていて、極めて強い陽の気なんです。おわかりですね?」玉子が頷く。「一方、魂は鬼ですから、鬼女の意です。女、即ち陰の極の気、女陰の気なんです。わかりますか?」「はい」「まるで相反するものが一人の人間を表すなんて出来るわけがないし、してはいけないんです。必ず矛盾を生じて害悪が及びます」「はい」「勝手な改名は細河先生が強く戒めているのはおわかりですね?」


-堕胎-

 玉子の姓名と生年月日を聞き、顔相と手相を丹念に見た巴女子が、思わせ振りに眉間に縦皺を寄せた。
 「男がいますね?」「あなたは甘美な恋愛と思っているんでしょうが…」「たぐいまれな悪縁です」「これは動物の縁、仏教でいう畜生の因縁です。恨みやつらみで往生できなかった性悪な男女の悪霊同士が輪廻を越えて廻り合い、互いを貪りあっているのです」「貪婪な情欲だけで結ばれた悪因悪果を絆だと盲信しているのです。いかがですか?」

 「あなたは流産か、中絶した事がありますね?」「堕胎ですね?」「二度ですね?」「正直に答えなさい」「はい。その通りです」「はっきりと言いなさい」「中絶を二度、してしまいました」「とりわけて二度目の水子の霊が祟っています。男の子です。凄まじい悪霊です。この子は未だ往生出来ていません。よほど因縁の深い水子なんでしょう。可愛そうに。でも、これは悪霊です。あなたをその邪気が覆って様々な悪さをしているのです。思い当たる事はありませんか?」「偏頭痛が酷いし生理も不順で…」「男運は?」玉子は答えない。「この悪霊は絶対に成仏させなければなりませんよ?」「お願い致します」 「あなたは仏教を標榜してお香の販売をしていますが、本当の仏心がないからです。真の信心を得て悪霊を供養しなければならないのです。おわかりですね?」「良く解りました。宜しくお願いします」「先ずは、この悪霊を産み出した根元の祈祷をしなければなりません」「根元?」「女陰の事です」

 玉子は、巴女子に命じられた通りに風呂に入り、敬愛する細河運子が製造に関わったという塩で、とりわけて陰部や尻を丹念に洗うこととなった。
 玉子は身勝手で脳天気な女だ。自らの軽薄は棚にあげて、もはや二度の堕胎をすべてそれぞれの男たちのせいにして、巴女子の除霊によって全てがリセットできると信じているのだ。
 この女は怪しげな栄養剤や香の販売で人々を騙してきた。しかし、単純に騙しただけではない。この女そのものがこれらの効能を信じきっていたのだ。騙して利益を得るために、罪悪感を消す作業として、最初に自らを騙すのである。詐欺師の心理である。同時に、こうした執着の強い者は騙されやすいのだ。この腐肉をまとったような放埒な女は巴女子の宣託をすっかり信じきっているのである。


-姦淫-

 まとわりつく香の薫りに陶然としながら、玉子は数日前の性交を思い起こしている。
 半年前から続いている好色で絶倫なその男は、町役場の労働組合の役員だ。会計を担当していて、組合費を株や商品取引に流用している。女にも見境なく使う。いずれは破綻するだろうが、守銭奴の玉子にとっては極めて都合のいい男である。五〇歳で妻子がある。
 「明日はあなたの誕生日なのに。会えないんだもの」「仕方ないだろ?」「わかってはいるの」「だから、何でも好きな事をしてあげるわ」「どんな?」「私の身体の全てを晒したプレゼントよ」

 

-巴女子ハメコ-


 巴女子の身体も玉子と同様に、その性歴に似た淫靡な脂肪がまとわりついて奔放に豊満なのである。玉子があからさまに尻を揺らして浴室に消えるや否や、その猥雑な下腹を歪めて、巴女子が男にしがみついた。「どうしたんだ?」「だって。もう、心底、耐まらないんだもの」焦がれる声音でキスをせがむ。邪悪な紅い舌で男の情欲に点火しようというのか。息が詰まるほどに口を吸い、濡れた舌を散々に絡める。唇を舐めながら男の手を乳房に誘い、「今日の私って、とっても変でしょ?」と、男の股間を淫靡に探るのである。
 「朝からだ」「違うわ。喜濡さんからあの女の話を聞いた夕べからだわ。不意に媚薬を盛られたみたいなんだもの。身体中が変に痺れてるの。神経が、何だか、酷くうわずってるんだもの」と、淫らにはみ出た乳房を委ねながら熱い息を垂れ流す。「来る途中の神社でも、したろ?」「そうだったわ」

 玉子の家に向かう車中で、女は運転中の広野の陰茎を引き出して口淫を始めたのだ。
 「どうしたんだ?」「厭なの?」誰から教えられたのか、危険な遊戯がこの女をさらに淫乱に変幻させるのである。
 そして、道沿いの寂れた神社の死角に隠れ込んだ二人は、慌ただしく交接に及ぶのだった。 「あまり長くなると遅れるぞ?」「いいのよ。あんな女。喜濡さんだけの頼みだったら、即座に断っていたわ。でも、あんな人が裏にいるんだもの。それが、たっての頼みだからって。だから、断れ切れなかったけど。あなた?どうしてなの?たかがこんな町長選のために、私達がなんでこんなことをしてるのよ。あんな女。待たせるだけ待たせるがいいんだわ。それより、あなたがあの女とする前に、することがあるでしょ?」「夕べもしただろ?しかも…」「しかも?何よ?いくら何をしたって、済んだことでしょ?夕べは夕べ、今は今なの」
 「嫉妬しているのか?」「当たり前でしょ?良人が初めて会う女と今にも、しかも眼前で交わろうというのに、嫉妬しない女がいるかしら?」「そうよ。あの頃の生娘みたいに嫉妬に狂っているわよ」
 巴女子は錯乱しながらも、初めて味わう異様な挿入を堪能するのである。その耽溺はいつ果てるとも知れない。巴女子が許すまで広野は射精できないのだ。これは、最も切実な二人の性癖なのである。

 「でも、とんだ邪魔が入って射精は出来なかったでしょ?」「不可抗力だよ」「あれは事故だったのかしら?それとも?」「忌まわしい事件の序章だったのか?それとも?」「終幕だっのか?いずれにしても、あんなに惨めな思いをしたのは初めてだわ。まるで生殺しにあってるみたいだったんだもの。あなたはどうだった?」「今までにあんなに陳腐な交接などしたことはなかったでしょ?」「そうだな」
 「それというのも、みんなこの町長選のせいじゃないの?」「それとこれは別だろ?」「随分と落ち着いているのね?」「それとも、すぐにあの女抱けるから平気なのかしら?」「馬鹿な…」「そうなのよ。あの女もただならぬ気配を感じているわ」「だって、あの媚態は尋常じゃないもの。そうでしょ?」「いちいちあなたを誘惑してるのよ。いかにも艶かしく演じているんだわ。欲情をあからさまにして隠そうともしないんだもの。違うかしら?」「あなたを見つめる目だってすっかり湿ってるわ。それとも、私のいつもの嫉妬だとでも言いたいの?」「あの女は私達の淫らな思惑をすっかり見透かしているのよ。違う?」「きっと、陰毛だって汗ばむほどに濡れているに違いないんだわ」「あなたもそうなんでしょ?」男は何も答えずに乳房を揉み続ける。
 「あなたのこれだって。いつもとはいずまいが違うんだもの」「ほら、すっかり硬いわ。鋼みたい」
 男のベルトを外しにかかる。「これをあの女に見せてやりたいんでしょ?」「そうじゃないが。どうせ見せるんだろ?お前だって納得したんじゃないか?」「まあ。ぬけぬけと」
 「ねえ?どうなの?」「あの女のあの尻。あなた?すっかり気に入ったんじゃないの?」答えない男が乳房を吸いながら身体をずらして、袴の脇から手を差し込んだ。「尻を開いて舐め回したいんでしょ?」女は下穿きは着けていない。「痣が残るほどに吸いたいんでしょ?」指で膣を探る。
 乳首をなぶられながら、「そこよ。私のその奥が狂ったように疼いてるんだわ」男が秘密に指を入れると、「濡れてるでしょ?」「尋常じゃない。そんなにやりたいのか?」「とっても。だって、あの愚鈍で吝嗇な女を良いように騙して。この後にあなたがあの女とするかと思うと。憎らしいやら。訳のわからない愉悦も込み上げるんだもの」と、女が力を込めて股間を握った。「ほら。あなただってこんなに猛ってるわ」「憎らしいわ。そうだ。こうしてやる」女が男根を吸い始めた。
 「したくなったんでしょ?」
「でも、ここでは駄目よ。あの女がいつ風呂から出るかもしれないわ」「じゃあ?便所にしましょ?出てきて見つかっても何とでも言い訳が出来るわ」

 二人は便所に閉じ籠った。女が爛熟した尻をつき出して赤裸々にせがむ。強欲な獣のようなつがいは瞬く間に繋がってしまうのであった。


-金剛力-

 玉子が風呂から出ると、巴女子は晒し木綿の長襦袢を着させて、結界の中に敷いた布団に仰臥させた。シーツは極彩色の大輪の花柄だ。崩れた豊満な身体を包んだ白装束の玉子は、人身御供の如くに神妙である。
 広野は結界の外で玉子の尻の絶景を捉えながら、ソファで煙草を燻らしてウィスキーを含む。
 巴女子が仰々しく拝礼を済ますと、玉子の裾を捲りあげて、ゆるゆると開闢た。はち切れんばかりの桃色の太股が露になって、未だ湿り気のとれない恥毛の森の濃密な佇まいが僅かに覗いた。
 その股間に巴女子が静静と玉串を捧げて、再び礼拝して、恭しく祝詞をあげ始める。最早、獲物を完璧に捕獲したと確信した広野は、その陳腐だが異様に淫乱な光景を眺めながら、ウィスキーを飲み続ける。

 すると、長い祝詞の後に、巴女子がただならぬ様子で長い息を吐くのであった。起き上がって対座した玉子に、「これはいけません。滅多にない極めて因業な悪霊です。私の祝詞だけでは容易く退散するものではありません」告げられた玉子が、すぐさま、眉間に深い皺を走らせて、「どうしたらいいんでしょう?」
 巴女子がおもむろに言うのである。「あなたの名前の玉は、即ち陽の極端な表れなんです。陽は陽根に通じます」「陽根?」「男根です。大好きでしょ?。正直に…。どうなんです?」「はい」「大好きなんですね?」「大好きです」
 「あなたの本性は男性の気なのです。煩悩のうちでもとりわけて征服欲、即ち我執が勝って強いのです。それでいながら、男根への執着も人一倍に強欲だ。男根に貫かれたい欲。絶頂を極めたい法悦欲に支配されているのです」
 「それに、色欲の中でも質の良くない被虐願望、平たく言えばマゾヒズムの性なのです。余すところなく射精を堪能したいという膣本位欲が人一倍強いのです」「即ち、自らが男根でありながら、他の男根との交わりを待望するという、実に不可思議な人格なのです」
 「雌雄同根、或いは性別矛盾ともいえる現象があなたには現れているのです。下世話に言うなら、いわゆる「男を食い殺す」相です。「カマキリ女」ともいいます」
 「この場合の処方は極めて難しいのです。その上に、あなたの場合は仏教を商いにしたり、躊躇いもなく改名をするなど、謙虚や畏れの感覚が異様な程に欠落している」「喜濡さんのご紹介ではありますが、残念ながら、所詮は女の私、修行の足りない非力な陰の妙法のみでは、到底太刀打ちもできないのです。このままに、強力で禊ミソぎを続けるなら、私の心身は困憊、破断の極みに至るでしょう。本日はこれまでと致します。ご了承ください」
 「しかと、わかりましたか?」

 そもそもは短慮な性の玉子が血相を変えて、「わかりました。そしたら?」と、身仕舞いを始めた。
 「お待ちなさい」と、巴女子が慌てるが、「でも?」「お待ちなさい。あなたの、それがいけないのです。静まりなさい」玉子が座り直した。
 「いいですね?それでは、改めまして。しかし、あなたが望むなら必ずしも方途がないわけではないのですよ」「あるんですか?」「あります。どうしますか?一切をお任せ頂けますか?」「お願いします」「一切を?ですね?」「はい。一切をお任せいたします。何卒、必ずお救いください」
 「わかりました」居住まいを正した巴女子が御幣を激しく振る。「それでは申し上げます。この災厄を取り除く唯一の手だては、もっと強い陽、即ち真正の男根であなたの悪性を根絶しなければなりません。よろしいですか?」「男根で?ですか?」「そうです。しかし、並みの男根では決してなりません。神聖な金剛力でなければなりません。汚れたその膣をたぐいまれな聖なる男根で浄化して、再生させるのです。お分かりですね?」


-浄化-

 やはり晒し木綿に着替えた広野が、巴女子に命じられて玉子の前に立った。すでに股間が盛り上がっている。仰ぎ見ている玉子が息を殺した。膝まずいた巴女子が、「ご覧なさい。たぐいまれな金剛力のあらたかですよ」と、裾を開くと、広野の隆起が真裸で現れた。片手で男根を包みながら、「浄化します」と巴女子が言って、口に含んだウィスキーを振りかけたのである。広野が低く呻く。
 巴女子がおもむろに亀頭を含んで舐めあげる。男根がみるみる膨張し始めた。玉子が音をたてて唾を飲んだ。

 やがて茫茫とした玉子の耳に巴女子の声が届く。「いよいよ聖なるお清めを執り行います。いいですね?」玉子が深く頷く。「裾を捲るのです」玉子が裾を捲った。股間が曝されて陰湿に脈打っている。淫靡な食肉の獣の有り様だ。 凝視する広野が喉を鳴らした。巴女子の指がひんやりと膣に侵入した。「思った通り随分と汚れている」
 いつの間にか、巴女子の指が広野の指に入れ替わった。玉子は気付いているのだろうか。男の指の怪しげな動きに呼応しながら、巴女子が玉子の陰核にウィスキーを吹き掛ける。玉子が嬌声をあげた。

 巴女子と広野が戯れ言に溺れながら交合している。眼前には、二人の企てで余りの悦楽に悶絶した玉子のふしだらな全裸が腹這いになっている。
 「この女のはどうだった?」「良かった」「私のとどっちがいいの?」「玉子だ」「まあ。悔しい。ぬけぬけと名前を呼ぶなんて。憎らしい。こうしてやる」女が力んで、「どう?絞まってる?」「きつい」「気持ちいい?」「いい」「あなたのも動かして?」「こうか?」「そうよ。いつもより淫らに動いてるわ」


-黒子-

 巴女子が風呂に行った。広野が玉子の尻にキスをした。
 気付いた女が、「私。どうしちゃったのかしら?」目の前に広野が座っている。「夢を見ていたわ」「どんな夢?」「雲の中を漂って花畑にいるの股間に花束が添えてあって。蜜蜂が飛んできて。おびただしいのよ。女王蜂が子供を産んだわ。私のによ。そう。私の膣によ」

 「あの人が言うように、私のは汚れてるのかしら?」と、呟く様に玉子が言った。男が神妙な面持ちで答える。「外見はすこぶる綺麗です。中身もまんざらでもなさそうだ。ただ、問題はこれが、即ちあなたがどんないきさつを経てきたのか、なんです」「いきさつ?」「この器官の、即ち性の履歴が重要なのです」「それこそが実に、人としての品格に関わっているからです。わかりますか?」膣を緊迫させた女が頷いた。
 「それを解明するためには、こういう触診の前にまず問診をしなければなりません」「問診?」「あなたの混迷する心理の真相を解明する為には是非にも必要なのです。ですから正直に答えてください」「わかったわ」「今まで何人と交接しましたか?」男の指が催促する。「正直に答えなさい」その指に劣情の肉を絡ませながら、女が、「…八人」「絶頂は感じますか??」「絶頂って?」「満足感です」女が小さく頷く。「根っから交接が好きなんですね?」「あなたは生まれついての淫乱なんですよ」
 「ここに黒子が三つありますね?」男が股間のすぐ脇の黒子を指摘した。「これは狂い黒子と言って、色淫の典型的な相です」女が怯む。「獣欲の相とも言います」「そうなの?」「かの北条政子や日野富子、西太后にもあったと言われています。男を利用して食い殺す、究極の我欲の悪相です」「私ってそんな風なの?」「そうです。あなたはたぐいまれな利自欲の強い我なんです。我執の塊。それがあなたの災難の根源なんです。あなたのよってきたる災いと汚れを浄化して、健全な利他心を取り戻すためには、その履歴を全部消さなければなりません」「そんな事ができるの?」「この金剛には霊力が宿っています。一〇〇〇回の交接で汚辱にまみれた悪性を金剛力のたった一発で根絶する事が出来るのです。あなたの履歴なら三発で、あなたは再生できるのです」「再生って?」「無垢だった処女の時代に戻るのです。初めてはいつですか?」「一八だったわ」「だったら、心身ともにその頃に戻れるのです」

 玉子が仰臥して太股を開いた。広野が祝詞を唱える。唱えながら挿入した。
 玉子が広野に抱きつき濡れた舌でキスを求める。長い戯れ事の後にようやく唇を離した女が、「あなた。キスが上手いのね」「あなたこそ」女が股間に手を伸ばして、「厭だわ。こんなことになったのに他人行儀でしょ?」と、強く握りしめる。「名前で呼んで」男が女の名前を呼ぶと、女は身悶えする。「そんな生易しいんじゃ厭よ」「もっときつく噛んで」「キスマークをつけて」「あの女がどう思おうといいじゃない?知ったことじゃないわ」「いったい、あの女とあなたはどんな関係なの?」「どうせ爛れた肉欲だけで繋がってるんでしょ?」

 「喜濡とも嵌めたの?」「やった」「どんな風にして?」「あの女の身体はどうだった?」「あいつは肉の塊だ。それも熟れすぎて。腐肉だ」「やり過ぎたんだわ」「所詮は淫乱女よ。」広野の声音が変わった。「お前だって相当なもんだ。議長とは寝たのか?」


(続く)

玉子 総集編

玉子 総集編

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • ミステリー
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-09-05

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted