初秋譚
草いきれの烈しさは損なわれ
地面には 短命を全うした蝉が横たわり
子供らの けたたましい叫び声ももう聞こえない
この街からも 夏は去ってしまったのである
季節に棲んでいる人間にとって
その季節が終わる事、それは
よるべを、よすがを失ってしまった
待ち人になる事を意味するのである
過去に縋らずに、どうして生きる事が出来よう?
萎んだ向日葵が風にそよいでいる
雨に濡れた街が妖しく耀いている
聞こえるはずのないものが聞こえ
見えるはずのないものさえ見える
時に、始まる事は終わる事よりも感傷的である
葉陰が、葉ずれが、木漏れ日が
また次の感傷を運んでくる
この頼りない体躯にも それは緩慢と浸透していく
あてどなく歩く 昨日とはまた違う風を感じながら
あてなど、求めるものではない
気附かぬだけで、最初からそこにあるものなのだ
茫漠とつづく並木道で 不意に霄を仰ぐ
私は、
私は確かに、この街で息をしていた
初秋譚