恋した瞬間、世界が終わる -第23話「ハンドメイド」-

hougen

恋した瞬間、世界が終わる -第23話「ハンドメイド」-

-第4部 早川真知子編「第23話 ハンドメイド」-

編み物を編む


「メトロポリス」が返却されているか
またレンタルショップに行きました
札が掛かっており、まだ返却されていませんでした
また後日になるようです


せんぱいのことを好きになったのは
わたしの独特な声を「良い声だね」と発見して
好んでくれたからでした

子供の頃の自分の「声」を覚えていません
わたしはずっと無自覚に子供の頃を過ごしていました
「声」だけではなく、成長して「生活・生存」に必要なスキル
それらを自覚することがなかったのです
例えば、「どうすれば人に好かれるのか」
    「誰に気を遣えば良いのか」
    「誰に注意すれば良いのか」
    「誰と話してはいけないのか」
    「どこで気を抜き、どこに力を注ぐのか」
    「要領の良い学び方(ショートカット)」
(周りの子たちはわたしよりもずっと、考えて生きていたのでしょうか?)
わたしは無邪気に、近所の行動範囲を大切にして
自然を、虫や花を
鏡のような田んぼに映える太陽、カエルの合唱隊
夕方の報せ、電柱に灯る明かり、家の台所に灯る母のシルエット
何よりもずっと大切なことでした
何を自分の武器にするのか? どんなわたしなのか?
そんなことを考える必要性を感じて生きていませんでした


思春期を迎えた頃、ある女子から言われた言葉がずっとわたしを傷つけました
「真知子って、大した顔じゃないよね」
見た目に関して自信があったわけではありませんが
それまで周りの子と何も困らず接していました
思春期だったわたしにその言葉は重く、
そう、その時、心に黒い種子を蒔かれたのです
(黒い種子を蒔く人から身を守る術を知っていれば良かったのですが、
思春期の子供には、あまりにも高度な技術で不可能だと言いたいです)

それからのわたしは、必要以上に自分の顔を気にしてしまい
周りの子と不自由なく接していたことが、ぎこちない動作になり
髪を伸ばし、自分の顔を前髪で隠そうともしました
(例のホラー映画を知ってからは、ほどほどにしましたが)
わたしは、「自分」という存在を隠すことに必死になったわけです

そして引きこもりました

漫画は一時期のわたしの背中をさすってくれる友達でした


そんな時に、せんぱいと会いました

もともと、せんぱいは近所に住んでいました
わたしが小学5年生の頃に少し離れた場所に引っ越し
それからは中学生になるまで会うことがありませんでした

場所は図書館でした
わたしは漫画をよく借りに行っていました
子供の頃から漫画が好きで、小学校では漫画クラブにも入っていました
ただその時は、いつも眺めるはずの漫画の棚ではなく
たまたま気が向いて、小説を読んでみようと思いました
それまでのわたしは小説を読んだことがありませんでした
本当になぜか、たまたま気が向いたのです

小説の棚を眺めながら、何を手にとって良いのか分からず
棚から棚へと横歩きに横断していました
立ち止まる場所が分からないという不安がありました
諦めて通り過ぎようとしたそのときーー
 棚と棚との隙間に何かが挟まっているのが見えました

「ひゃっっ!」
わたしが思わず上げた声に
せんぱいはわたしを読み取って、気づいてくれた
「マイマイガだね」
不自然な軌道で天井へと羽ばたいてゆく蛾を見上げながら
「真知子の声は蝶のようだね」
天井から窓へと軌道を敷いて、消え入ろうとする蛾の姿
「すぐわかった」
その時、わたしの声が何か特別なものであるように思えました
「良い声だね、真知子の声」

蛾が消え入り、蝶が顔を出す
わたしは自分の「声」に対して無自覚でした

「声」そのものが、わたしに蒔かれた黒い種子をきっと取り除いてくれるものになるだろうと、何となく思いもしました


それからのわたしは、意識して声を出してみようと思いました

せんぱいに会いに行くために図書館へと通いました
(わたしとせんぱいを導いたのが蛾の姿だったのは皮肉ですが)
せんぱいが借りた小説をわたしも読みました
会うたびに感想を伝えました
会うたび、会うたび、声を
たくさん、意識して

いつの間にか、少しばかり話しすぎる性格になったのかもしれません
せんぱいはわたしの声に耳を傾けてくれました
ただ、ただ、せんぱいの前では考えていることを言葉にしようと
うまく結ばれない言葉を補うために
パントマイムのように身振り手振りも交えながら
羽を広げた姿を見てほしかったのです

一年続き
せんぱいと同じ高校へと通いました
高校生活は辛かったです
校舎の異なるせんぱいの姿を追いかけていたかったです
でも、周りの人たちとうまく馴染むことができなかったわたしは
高校を中退しました


わたしにとって、声は大切なものになりました

でも、高校生活で傷ついた羽を広げる場所がなく
声を出す場所を求めて
文字に表された言葉ならと、漫画の吹き出しに見つけて
平面な紙の上で無声映画のように、パントマイムで
自分の気持ちを
自分の内面を
自分の人生を現わすものを
羽を広げるための手段がほしかったのです


わたしの「生存戦略」として必要なことを
少しずつの手作業のように、機械任せではなく
手作業の職人技のように、心に、編んでゆく作業を始めたのです

そこに、パソコンやコンピュータは必要ありませんでした

恋した瞬間、世界が終わる -第23話「ハンドメイド」-

これまでは「各章(部)」ごとに、まとめて掲載していました。ただ、更新頻度が遅くなっており、久しぶりに更新をしても「各章(部)」でまとめている限りは最新の検索に上がってこないので、新しい閲覧者は増えないだろうと察しました。
これからは、各「話」と、各「章」と両方に更新を残していこうと思います。次回は…来月10月の更新かもしれません。

恋した瞬間、世界が終わる -第23話「ハンドメイド」-

地上の上 路上 ログアウト マニュアル ビートニク 恋した瞬間、世界が終わる

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-09-03

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted