イキルリユウ

 美味しそうに水を飲んでいた君が、明日になれば死んでいるかもしれない。なんて、考えるのは馬鹿馬鹿しい。だって君はすでに死んでいるんだ。
 水を飲もうが飲まないが、僕には関係がない。どうでもいい。とにかく君はもう僕のそばにはいないから。隣にいなければ君は死んだも同然だ。僕以外の誰かと笑っているのなら、君はやはり死ぬべきだ。
 独占欲が強いとあんたは嗤うか。
 寂しいのはあんたの方だな。
 コーヒーでも飲んで頭を少し覚ましたら?寝ぼけてもいなければ、僕を嗤うことはできないはずだろ。
 だってさ、僕に執着していたのはあんただろう。今の僕と同じように、いやそれよりも激しく僕を縛り付けた。物理的に縄でも縛られたし、心までもきつく縛ろうとしたよね。
 あのとき逃げ出せてよかったと思うんだ。僕はあの人と会うことができたし、幸せを享受した。
 ああ、あんたといた日々はつらくて仕方がなかったよ。内心では何度もあんたを殺していた。首だって何度も絞めた。悪夢にうなされては、上辺だけあんたに着飾られる屈辱を味わって。
 死にたいとは思わなかった。
 死んであんたに魂まで縛られたらたまったものじゃないよ。天国にも行けないし、ずっとあんたの箱庭で遊ぶのは絶対に嫌だった。誰があんたに可愛がられるものか。そうされるくらいなら自害したほうがまだマシ。
 …それで、何であんたは生きてるんだ?
 僕が逃げたとき、あんたは僕の前で自害したはずだろう。僕は目に焼き付けた。それなのに何で、あんたはまだ。
 それも執着なのかい?魂までもが僕を縛りに来た?
 あはは、ははは!面白い冗談だ。あんた、冗談とか言えたんだな。案外純な性格してるじゃんか。
 でもさ、もう遅いから、早く還りなよ。僕はあんたのこと、昔みたいに恨んじゃいない。何にも思わない。これまでの話は、ただの回想さ。昔話は楽しかった?
 興味がなくなったんだ。あんたに。名前も思い出せないよ。だからずっとあんたって言ってるじゃないか。
 なあ、消えてくれよ。あんたのこと忘れてやったんだから、今度こそあんたが消えて。もう苦しめないでくれ。…ほら!
 あぁ、もう、何で。
 君に会いたいのに何で君はここにいなくて、二度と顔も見たくないあんたが死んでまで…。
 あははっ。
 嗤っちゃうよな。コーヒーでも淹れてくれよ。

イキルリユウ

イキルリユウ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-09-03

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