シャッフルゲーム前編
そう、あれは昨日の出来事だったか。それとも一昨日だったか、ひょっとしたら一週間前であり、一年前かもしれない。日にちなどという概念は俺の中ではとうの昔に消え去ってしまったのかもしれない。それほど長い時間俺らは監禁され続けて来た。
もう、みんな気が狂っていた。俺の隣のやつは尻を出して監視カメラに向けて叩き続け、向こう側にいる女は男がいるにもかかわらず自慰を行いオーガズムに達して涎を垂らしていた。酷い臭いだ。俺もひょっとしたら無意識に何か痴態をさらしているのかもしれない。
永遠の生を授かった人間。細胞学の実験台となった人間だ。俺は体中の細胞が高速で生まれ変わる体なのだ。アメリカの生物学者とやらのジョージ.へーレスは俺らのような人間を"超人類"と名付けた。
そうそう、俺のことはNo.24とでも呼んでくれ。ここでの呼び名はそうなっている。俺にも昔は名前とやらがあったもんだ。最も、もう何年前のことだったか覚えてないがな。体だけでなく、脳の細胞も急速に入れ替わるのでとても秀でた記憶力があるらしいがどうしても俺は名前だけは思い出せないんだ。
超人類になった日のことは未だに忘れることはない。光る注射器。怪しげに浮かぶ液体や培養物。俺は当時二十三歳だったのだが、今でもその時の容姿を維持している。まず、症状は体中の皮膚に出た。普通に生活していると垢がボロボロとこぼれ出た。急速に皮膚の細胞が入れ替わることで起こる現象だった。次に疲れなくなった。どれだけ過度なスケジュールをこなしても疲れることはない。このような現象に当時は驚き、喜んだものだ。
しかし、そんな思いは時間の経過と共に薄れて行った。度重なる友人の死が俺の心に深い傷をつけた。そして、あるとき。俺を知る人は一人残らず死んでしまった。俺は泣いた。泣き続けた。体の水分が少なくなって涙が出なくなった時は水を大量に飲み、その分の涙を流し続けた。そして俺は思った。
「死にたい。死んでしまいたい……。永遠の命なんていらない」
そんな時この団体に出会った。この団体は人間を殺してショーを行うという非現実的な団体だった。そこには、ケンドと呼ばれる奴隷がいて彼らが金持ちのお遊びのために犠牲になるのだ。
自殺が怖くてできなかった俺は藁にもすがる思いでこの団体のケンドになったのだ。
団体のリーダーである阿倍野 正一は俺が超人類だと知ると喜んでケンドへの加入を認めた。恐らく彼にとって俺は珍しいモルモットのようなイメージなのだろう。
ゲームの内容はひどいものだった。中でも一番恐ろしいのがシャッフルゲームというものらしい。
おっと、誰か来たようだ。その瞬間あれほど狂っていたケンドたちがはっと我にかえったようにして、祈りを始めた。みんな怖いのだ。
死ぬのが。
俺を除いて。
この時間は宗教ごとの合唱パーティみたいなものだった。あちこちから念仏を唱える音が聞こえる。壁に手を当てて何かブツブツつぶやく人もいる。
俺は見慣れた光景をどうでもよくぼんやりと見ていた。
しばらくして、ガタイの良い男がやって来て言った
「担当の熊田だ。今から明後日に行われるシャッフルゲームのメンバーを発表する」
「嫌だ」
「死にたくない」
マイナスな言葉ばかりが所々聞こえる。みんなもっとポジティブにいこうぜ。死のう!ってね。
シャッフルゲームは八人のケンドを必要としている。その中で死ぬことになるのは半分の四人
「No.35。前に来い」
少し小太りな男の表情が青ざめていくのがわかった。小太りは泣きながら熊田の元に向かった。
その後次々と名前が呼ばれていき、ついに最後の一人となっ
「最後はNo.24」
俺の名前が呼ばれた。俺は言葉にできないくらい嬉しかった。やっと死ねる。この長き生の苦しみから解き放たれるんだ。俺にもツキがまわってきたんだな。
「以上の八名だ。この代表者たちに拍手」
大勢の人間の疎らな拍手で見送られ俺たちは別の部屋に通された。
シャッフルゲーム前編