ラムール
電燈の光が眩しい、夜の散歩道。
そろそろだろうと思い立って、ふと足を止めた。
まだ緊張で震えている身体を、別の身体が横切っていくのを風で感じ、決心をした。
「君を。」
恋人の背中に向かって、思いっきり大声を張り上げた。
そんな言葉が飛んでくるなんて思ってもいなかった、というような顔。
突然の告白に、どう返せばいいか迷っているようだった。
「答えは・・・?」
恐る恐る、恋人に念を押すように言葉を紡ぎだした。
しばらくの沈黙が恋人との空気に溶け込んだ。
そして、こう答えが返ってきた。
「!」
印象、花。
金管楽器の音が、コンサートホールの隅々まで鳴り響いた。
みな、歓喜と恍惚を胸いっぱいに抱き合わせているような顔をしている。
皆とは裏腹に、僕はすぐさま両耳を塞いだ。
楽器の音が、遠くでぼんやり響いているかのように聞こえた。
どくどくと、自分の心臓の音が身体中に伝わっているのを感じた。
金管楽器の音を聞くよりも、その鼓動を聞く方が、心地よかった。
「きれかったね~!最高だった!!」
コンサートが終わってからそんな風にいう彼女に、僕は嫌気がさしていた。
「キレかったね。」
彼女との会話を無理やり終わらせるように、他愛無い一言を投げかけた。
冬。
2月3日、夜18時30分。
駅周辺の商店街に灯りが溢れていた。
ヨロヨロと歩くサラリーマンの集団や、イケイケの大学生たちを追い越して、家へと足を進めた。
大きな通りの信号機で足止めを食らった。
マフラーを巻きなおし、学校指定の革靴の靴ひもを結びなおしてから、吐く息が白いのを楽しんで時間を潰した。
直ぐ後ろでは人の騒ぐ声が聞こえる。
横断歩道の先には、空き地が少し広がっている。
「よかった」と感じた。
信号は、ずっと赤のまま。
ラムール