週末の指先
おぼれること
どれほどの間、呼吸を忘れていたんだろう。
実際はたいした時間じゃないことはわかる。
五秒から六秒。
でもそれはあなたの指先がわたしの躰を舐めるたびに何度も起こる。
そう、微弱な電気を帯びた羽で皮膚の薄い部分をなぞられる感じ。
そしていつも、いちばん敏感な部分には触れてくれない。
それがあなたの指先。
外から聞こえる雨の音。
粒の小さい霧雨のような雨だと音でもわかった。
まだ午後の二時なのに薄暗い日曜の部屋。
その薄暗い部屋をオレンジ色に照らす反射式ストーブの灯油の匂いが心地よかった。
あなたの冷静な呼吸とわたしの躰を這う指先がまるで別人のようで、その不思議な感覚がわたしの秘部を余計に湿らせた。
時間なんて忘れてしまいたい。
いや、時間がわたしたちのことを忘れてほしい。
そうしたらいつまでもあなたの指先を感じていられるのに。
ものを書くあなたの指先。
何かを掴むあなたの指先。
本の頁を捲るあなたの指先。
料理をするあなたの指先。
わたしを触るあなたの指先。
どれもわたしには近くにあって遠くにあるもの。
火曜日が休みのあなたは週末にわたしの部屋にやって来る。
そう、わたしはあなたの指先を愛しただけ。
あとは何もいらない。
週末の指先