妖精国の大エネルギー革命

虚文学 純

信越地方の、一部地域の地底に、妖精の小国家がある。起源はヨーロッパで、数百年前に勢力争いに破れて海を渡ってきて、この地に定着した。
狩野泰典は、四十三歳で妖精国に帰還した。彼は、赤子の時に人間の赤ん坊とすり替えられた。妖精がよくやる“取り替えっ子”である。
妖精であることがバレず、泰典と名づけられて人間に育てられた彼は、大人になってかなり社会的に成功したエリートとなった。
しかし、老化のスピードが人間と異なることなど、色々と無理が出てきて、妖精国からの迎えに応じて故国に帰ったのだった。
泰典は、妖精の宮廷で高い地位を与えられた。人間界で成功を収めた彼には、国家の疲弊状態を打開する新政策が期待された。
そこで泰典は妖精の女王に革新的な提案をした。
「原子力発電を導入しましょう。エネルギー問題が一気に解決します!」
だが、泰典と同じく人間界で育った経歴を持つ大臣が猛反対した。
「事故が起きたら長野、新潟が吹き飛びかねん!原子力は危険過ぎる!手を出すべきではない!」
泰典は反論する。
「無論、事故を防ぐ万全の態勢を整えて運用します。リスクを恐れて豊かな生活を放棄するのは愚かです!」
大臣は反抗の矛先を収めない。
「我ら一世代の暮らしが豊かになっても、事故が発生したら子々孫々全てが消え去り、先祖代々の歴史も消滅し、中部地方全体に猛毒が広まるというのでは、リスクとリターンが釣り合っておりませんな!」
泰典は鋭く大臣の誤りを指摘した。
「今おっしゃられたようなリスクは、事故が起きた場合のこと。事故を起こさなければよいのです!そして、事故を防ぐ方法はわかっている!しっかりと管理すればよい、ただそれだけのことです!あなたは万が一を無闇に恐れ、進歩のチャンスをドブに捨てている!そのような発想では国家はゆっくりと破滅してゆくだけですぞ!」
大臣は激昂して声高らかに叫んだ。
「何と甘えた考え方だ!一歩間違えれば世界が犠牲になるなどという魔性のエネルギーを簡単に制御出来るとは!陛下、よくよくお考え下され!幾ら豊かになれるとも、そのような恐ろしいエネルギーを用いていたら、いつ滅亡が来るかと怯えて暮らさねばならず、幸福にはなれませぬ。もし、心から幸せでいられたとしたら、それは魔性エネルギーへの恐れをなくしてしまったということ。恐れが無くば、扱いはいい加減になり、それはすなわち必ず事故が起きるということです。かく考えれば、原子力にはリスクしかない!」
居並ぶ文武百官の大勢は、大臣の意見に賛同する空気になった。
だが、女王はそうではなかった。彼女は大臣のことが嫌いだったからである。
美しい声で、女王は言った。
「大臣、あなたの申すことは極論ですね。わらわは原子力導入をしたく思います。」
鶴の一声で、原子力発電に踏み切ることが決定された。
危険性を懸念する向きに対し女王は告げた。
「わらわの信頼する者を集めて管理委員会を作りましょう。それを、わらわ自信が一日と欠かさず監督します。大臣、あなたも委員会に参加するよう。ささいな間違いも起こらぬよう、目を光らせなさい。」
この結果に、泰典は大満足した。原発実現の為のプロジェクトチームの責任者となった彼は、人間界への留学者を中心とした優秀なメンバーと、国家の全面的支援を与えられ、数多の技術的困難を乗り越えて、数年後には原発稼働へとこぎ着けた。
その間に、泰典は結婚していた。若く美しい妻は、王族に連なり人間界の科学に通じた素晴らしい女性であった。
ある日、夫妻は宮廷からの招待を受けた。忙しい日々の中で、足が遠のいていた宮廷に、泰典は久しぶりに訪れた。
妖精の民衆の暮らしも、原子力の恩恵でだいぶ良くなったが、宮廷は格別豪奢になっていた。
女王は昼間から酒を飲み、美男子を幾人も侍らせて遊びに興じていた。
「貧困に起因する社会問題がそなたのおかげで全て解決したゆえ、わらわは楽しく過ごせておる。礼を言うぞ。」
泰典は女王に尋ねた。
「ところで管理委員会を監督するお仕事は毎日何時頃に為されておられるのでありましょうか?」
女王はアルコール臭のするゲップをしてから答えた。
「管理委員会は解散した。しかし案ずることはない、死刑囚に刑を免ずる替わりに原発管理をやらせておる。ささいな怠惰にも厳罰を与えるようにしてな。その監督は大臣に一任しておる。大臣よ、不備はあるまいな。」
問われた大臣も酔っぱらいながら報告。
「いつも通り、問題ありませぬ。近頃では死刑囚の者共に情がわいてきて、ミスした際の罰をいささか手加減しておりますが、すると大変なつかれましてなあ。あやつらはそれがしをガッカリさせるような仕事は決してしますまい。」
次の日、泰典夫妻は再び女王に招かれた。だが、謁見の場には妻しか来なかった。
「わらわはそなたの夫も呼んだのじゃが。」
泰典夫人は女王にうやうやしく答えた。
「夫は、急に引っ越すと言い出しまして、パスポートを持って遠くへ行ってしまいました。わたくしめは国を離れたくないのでついて行かなかったのでございます。」

妖精国の大エネルギー革命

妖精国の大エネルギー革命

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-08-31

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