七年目の夏
終わりはないと思っていた、夏に、すでに七年と三か月、季節はひとつとなり、そして、もう、永遠にひとつだけになったのだと、誰もが諦めていた頃に、とつぜん、秋の気配が忍び寄ってきたのだ。ノアは、その美しい銀色の髪をかきあげ、呆れたように笑った。きまぐれにもほどがある。われわれ人類はすでに、春のあたたかさも、秋のおだやかさも、冬のつめたさも、忘れたというのに。僕はノアの、腰まである長い髪を指にからめとり、そっとくちづけた。ノアへの行為はすべて、愛故のものであり、儀式的だった。いよいよ夏も終わるのかと、それは少し寂しくもあり、けれどやはり、うんざりするほどの暑さに悩まされていた生命体にとって、秋の訪れは喜ばしいことなのだ。ノアが、白いシャツの釦を、静かに外してゆく。僕はノアの、開けた襟元の、喉仏の下あたりから、胸の中心までをまっすぐ、指でなぞる。愚かしいとぼやきながらも、快楽に耽るノアはおそらく宇宙でいちばん美しい生きものである。秋のあとにはちゃんと、冬がやってくるのだろうか。春は。秋が来たと思ったら夏に逆戻り、ということも考えられる。そんな予測不能な、漠然とした季節のことを思いめぐらせながら、ノアの胸の上で指を彷徨わせていると、する気がないならするなと怒られた。
七年目の夏