不忍池、池見草
ああ、なんて眩しい
空は凪ぎ 陽は水粒をきらめかす
首を伸ばした池見草 浅緑は水面を隠し
紅色の花弁は すっかり綻びはじめてる
橋の向こうに遠く聞こゆ
あれは黒白襟巻きの猿の声
ひとつ吠えれば輪唱がはじまる
家族みなで空高く うたうように 笑うように
ちいさな風が吹き抜ける
葉がよろめいて 丸い水粒はころがって
ゆらゆら ゆらり するん ぽろん
向こうのちいさなバオバブは
輪っか尾っぽの隣人を
ずっとじっと眺めいる
この池はきっと
ほんとうの指猿の森とも
大昔の蓮池とも ずいぶん違うのだろうけれど
ずっとすました顔でいた 淡い紅色の包みの中に
サフラン色の花托が 忍ぶように顔をのぞかせる
真白な鷺が 空をすーいと飛んでゆく
ああ、なんて眩しい
不忍池、池見草