生 / 性 / 聖
うみに、だれかのやさしさがながれて、慈愛、魚となって、はねる。
うわべだけが、青い星。
浴室がつめたいのは、きみのせいで、吐く息は、冬の朝をおもわせる。指の熱だけが、鮮烈に、ぼくのはだを、すべってゆく。あい、というものを、すこしばかり軽んじていた、きみが、いつからか、あいについて、おおげさな神秘と、信仰と、無垢さなんてものをみいだし、傾倒し、なんだかまるで、不確かなものに取り憑かれたかのように、ぼくのことを、あいするようになった。それは、うれしいはんめん、ちょっとしたこわさもあって、にんげんみを失ったみたいな、インプットされた任務を完遂するための、ロボットにも似ている。機械のからだに、にんげんの皮をかぶった、きみ。
湿った黒い土からは、たくさんのいきもののにおいがする。
夏になると、そのにおいがいっそう濃密になる。ぼくは、なんらかのいきもののいきているにおいが、好きだ。それは、性的な欲をかきたてる好きと、同列で、そんなぼくを、きみはときどき、変態だと罵る。いじわるく微笑む、きみに、心臓を喰い破られそうな感覚に、ぼくはいつも、くらくらする。かおも、なまえも、しゅるいもわからないいきものの息につつまれて、ねむる瞬間は、ささやかな幸福だ。
生 / 性 / 聖