カムイの儚7️⃣

草也

カムイの儚 7️⃣


-草也の秘密-

 草也は典子や丸子、巴都とも連絡を絶やさない。時折、交合もした。多恵子は高校を卒業すると音信不通になった。

 一九五六年。
草也が高校三年の冬にトキが病を得て急逝した。弁護士から財産の目録と遺書を渡された。
 草也は実家の父の実子ではなかった。若い日の母はある大学近くの食堂で働いていて、ある学生と交際していた。その男が事件を起こして服役する直前に妊娠がわかった。母は実家に連れ戻されて、事情を承知した上の親戚の父と結婚させられたのであった。そして、草也を出産したのである。 草也という名は母がつけた。作家を目指していたその学生、即ち初代草也ののペンネームなのである。
 二年後に母が妹を産むと、そのあまりに違う容貌からただならぬ異変に気づいた父は、さすがに激怒した。姦淫を問い詰められ苛められた母は、秘密を守ったまま自裁したのだった。だが、心を許したトキにだけはある程度の事情を打ち明けて、子供達を託していたのだ。しかし、トキは草也の実父の名や、妹の懐妊の真相までは聞かされてはいなかった。
 草也はその出自は闇に包まれながら、トキの莫大な遺産を全て相続したのである。


-トキと初代草也-

 トキの葬儀の次の夜に草也と北子は二人きりになった。ウィスキーを飲みながら、「母はどんな生き方をしてきたんだろう?」「どんなことでもいい。教えて欲しい」と、呟いた。
 北子が話し始める。
 「亡くなった会長の法事の時よ」

 一九五一年の盛夏。トキは亡夫の一回忌の法要を密やかに行った。倫宗の実質的な指導者の初代草也がただ一人、臨席している。
 初代草也が教祖の夏と共に教団を設立して間もなく、教団に主府の土地を売却したのはトキだったのである。
 トキは夏の説教にいたく感銘して宗派の教義こそが求めていたものだと、強く共鳴した。トキはある小さい新興宗教を脱会したばかりだったのである。
 倫宗の施設に熱心に通い、その度に入会希望者を同行した。その中には優れた者も多く、トキは教団の草創に多いに寄与したのであった。
 この時、トキは四〇歳の豊満な女だった。

 初代草也が読経を始めた。低く力のある声が朗々と流れる。静かだ。男の声だけが響く。しばらくすると、トキを不思議な感覚が襲った。全身の神経が優しく痺れる感覚だ。意識が朦朧としてくる。そして下半身が妖しく疼き始めた。ほてっている。まるで、亡夫と交わした情交の有り様だと、トキは思っている。
 静寂が蘇った。蝉時雨がかまびすしい。長い読経が終わったのだ。しかし、トキの身体にはあの感覚が未だ渦巻いている。
 トキが口を開いた。「寂しくて堪らないのです」「煩悩ばかりが駆け巡って。救われるのかしら?」「…楽になれるのかしら?」女の瞳が草也にすがる。
 草也が、「金蛇法というものがあります」と、言う。「施行しましょうか?」「お願い致します」「その前に喉を湿したい」トキが手を打った。
 「だから、私。戸を開けたの」北子が話を続ける。
 引き戸が開いて北子がウィスキーを運んできた。
 北子が作った二杯目のオンザロックを草也がこぼした。僧衣の股関が少しばかり濡れた。
 狼狽える北子にトキが下がる様に命じた。

 「でも、何だか気になって引き戸の隙間から覗いていたの」

 立ち上がった男の股間を女が拭いている。男はウィスキーを飲んでいる。女は手を離さない。暫くして、女の手の中で陰茎が固くなり始めた。
 「そろそろ始めますか?」女が頷いた。男が立ったままで再び読経を始めた。女は男根を撫で続ける。やがて、読経を続けながら裾をまくって褌の脇から男根を出した。巨根を数回しごくと、たちまち硬直して男の手を離れてそそり立った。男は経を唱え続けている。
 座って見上げる女の視線が見た事もない勃起に釘ずけになっている。程なくして、促されて女が男の足元に座した。巨根に手を添えた男が大きく開けた女の口に触れる事なく、その口の中に射精した。女が大量の精液をすべて飲み込んだ。女の裾は乱れて太股の肉があらわだった。
 短い説法を済ませると、股間に手を落とし呆然と座るトキをを残して、初代草也はうやうやしく辞したのだった。

 北子が、「あなたのこれに瓜二つだったの」と、言った。


-アメリカ-

 実父は誰なのか。今、どこにいるのか。草也は父の事を何一つも知らないのだった。
 そして、幼い頃から抱いていた数々の疑念の背景が次第に明らかになっていく。
 誰とも会いたくなかった。何もかも嫌になった。
 信頼していた、幅広く事業を展開する高校の理事長に相談した。アメリカ留学を勧められて草也は決心した。そして、訳もなく、生涯、結婚はしないと決めた。
 華津は日咲惠と父、初代草也の子なのだった。即ち、華津と草也は異母兄妹なのだったのである。
 二人は既に情交のただ中にいる。忌むべき関係なのだ。しかし、日咲惠と父草也の事件が明らかになる事は永遠にない。果たして、日咲惠自身が華津の子種を初代草也と認識していたのか、それすら不明なのだ。
 華津と草也はこの不条理な関係を何も知らないままに続けるだろう。父草也と母日咲惠の業の果ての荒野を生きるのだ。


-草也の夢-

 次の年の初春。草也はアメリカの大学に留学が決まった。
 岩田は主府大に合格した。
 典子も華津も主府の大学に進んだ。
 巴都は美容師の資格をとっている。
 丸子は相変わらず小さな薬局の店主だ。
 北子はトキが死んでも住み続けていて、帰るまでは家を守ると言っている。

 一九五九年に岩田からアメリカの草也に連絡があった。岩田が仕手戦に勝ち、草也が預けていた投資資金が五〇億になったと言うのである。草也は岩田を信頼している。そのまま預け続ける事にした。
 数日考えた草也は岩田に連絡し、巴都と丸子が希望するなら店を持たせたい、その一切を託したいと言った。そして、実父の探索を依頼した。

 一九六三年に草也は帰国した。二五歳だ。  この国は高度成長の真っ只中だ。こんな状況がいつまで続くのかと草也の疑念が深まった。草也はあの青柳を訪ねた。

 岩田は今や投資会社の辣腕社長である。岩田が運用する草也の投資資金は五〇〇億になっていた。
 北子は草也が会長の不動産会社を守って奮闘している。
 典子は出版会社に勤務してフランス文学の翻訳もしている。 華津は同時通訳だ。仲間を集めて会社組織にしたばかりだ。 巴都は美容院を二店舗経営している。
 主府に出た丸子も薬局を五店舗に拡大していた。
 多恵子はある新興宗教に入っている事が判明した。専従役員だという。
 多恵子は高校を出ると地元の協同組合に就職した。仕事に慣れた頃、上司と恋に落ちた。男には妻子があった。
 二人は出奔して主府に出た。暫くして男と別れた多恵子はホステスになった。そして、あの紀夫と巡りあったのである。多恵子が二三、紀夫が三五の時であった。

 草也はアメリカで温めていた構想を進め始めた。あるシンクタンクの研究員に名を連ねた。そして、留学中に親交を深めた大陸人の友人と貿易会社を設立した。草也の夢はまだ始まったばかりだ。


-継子-

 「こんな事、ほんとに初めてなんだもの」余りの快楽に意識を忘失したのだと、女の声が粘りつく。遮る声に、「厭。嘘じゃないわ」と、亀頭を再び強く吸い上げた。喜悦の最中に啜り泣き、未だ濡れた瞳で上目を作りながら、「真髄の法悦よ」と野放図に口遊む。桃色の淫奔な肉が熟した二五だという女は、「まだ膣の肉が痺れてる」などとも呟く。
 ふしだらな痙攣も引き始め、汗で淫らに光る割れた尻を、男に示して劣情露に揺する。時おり赤紫の陰茎を、「ああ、まだ出てくる。私に入ったあなたの精液よ」と、喘ぎながら、まるでトマトを切り裂いた陰唇の姉妹の様な紅い唇から外す。
 一九八五年の盛夏。この時、あの典子の一人娘の継子は二五歳だ。相手は四七歳のあの二代目草也だ。

-終章の始まり-

 参議院議員の類が死んで、典子がその議席とカムイ党を継承した。継子は母の議員秘書だ。

 梅島が死去した。宮子も既に逝去している。
 翔子の仲立ちで、紀夫の「東日本本願寺派」と典子の「カムイ党」が共闘を確認し、「田山派」と連携している。

 一九八五年の年末。田山派が激動した。田山は総理を退陣後も、十年に渡って派閥を実質に支配したばかりか、与党に強い影響力を与え続けていた。派閥の長を禅譲された竹山は総理の座を目指したが、田山は自らの実権を保つためにそれを許さなかった。業を煮やした竹山は強引に派閥を割り、田山の宿敵だった福元派などと連携して、終に総理の座を手に入れたばかりだ。
 田山は激怒した。そして、竹山派内は竹山子飼いのグループと、少数派だが田山に近いグループが暗闘を続けている。その領袖は田山二世と言われる、若いが豪腕な実力者の山沢だ。田山の権力の踏襲を争う熾烈な暗闘だ。腹芸に抜きん出た副総理の金木が仲裁するがままならない。
 田山の意を受けた、あの青柳が配下に命じて、国会周辺の街宣で褒め殺しを展開した。震え上がった竹山は、青柳の提示を受け入れて謝罪のために田山邸を訪れたが、閉ざされた門扉が開く事はなかった。竹山は天下衆知の大恥に晒された。田山は一時の溜飲を下げたが、もはや体制からは離れたのである。
 孤立し憤怒した田山は翔子や典子、紀夫などと結託して、僅かに残った子飼いの議員とカムイ党の議員で「独立党」を結成した。そして北東州構想を打ち上げた。今また、北東独立の政治的機運が高まったのである。


(続く)

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