カムイの儚6️⃣
カムイの儚 6️⃣
-華津-
高校二年の初夏。草也は登山で全治ニヶ月の怪我を負った。部活である稜線を踏破している時に岩田が滑落したのである。助けるために草也も滑り降りて、すんでのところで岩田の腕を掴んだのであった。
二人とも骨折して入院した。草也は肋骨と足を折った。腕も随分と捻挫した。病院のベットで並んだ岩田は、「お前に助けられたのはこれで二度目だ。今度はすんでのところで死んでいた。どんな事をしてもこの借りは返す」と、頭を下げた。
退院して完治するまで、岩田と共に家から通学していた。
ある日の放課後に、学校の門前で待っていた豊満な女子生徒が、松葉杖の草也に手紙を渡しかと思うと足早に立ち去って行く。豊かな尻が印象の少女は華津という。系列の女子部の同学年の生徒だ。
四日後の日曜に、草也は手紙で指定された近所の公園で華津と会った。少女の気持ちは長い手紙に書かれていたから、草也は生い立ちを短く話した。街に出て映画を見て食事をした。そして、帰路に再び公園に戻り、傷の癒えぬ身体でぎこちなくキスをした。
一ヶ月後の日曜。暑い昼下がりだ。華津の家は母親の日咲惠が仕事で留守だった。
居間でキスをした後に、「不自由でしょ?」「風呂で洗ってあげるわ」と、華津が思いついた様に言った。
自然な仕草で裸になった女は、当たり前の様に草也の服を脱がせて、乳房を揺らせながら松葉杖の手を引く。
男を湯船に浸からせて少女が身体を洗っている。豊満な眺めだ。石鹸を泡立てるのが上手い女だと思った。
草也は初めて会った時から、この少女に今までに味わった事のない、言え知れぬ安堵を感じていた。確たる理由は皆目わからない。華津の裸を眺めながらその思いがますます募った。この親和感は男の我儘をどこまで許すのだろうか。
ふと思い付いて、「小水をかけたい」と、草也が言うと、華津は全身を泡立てながら、股間を洗っている手を止めて振り向き、「かけて?」と、さほど驚きもせずに言うのである。むしろ、初めての痴呆の様な遊戯を出迎ようと、津津とした笑顔で、「いっぱい出るの?」と応じた。「石鹸をみんな洗い流してやる」と、言うと、破顔して、「いっぱいかけて?」と、淫靡とは程遠い声をたてて笑った。
泡だらけの身体で甲斐甲斐しく草也をパイプ椅子に座らせて、「出したくなったら言ってね」と、草也の身体を丹念に洗い始めた。
忽ちに隆起した草也の眼を見ながら、「舐めていい?」と、瞳を煌めかせる。
「乳房にかける」と、指示すると、少女は男に対座した。乳房をめがけて放出すると、一瞬、嬌声を発しながら両手で受け止めて乳房や下腹に塗りたくる。目は放尿から逸らさない。
「私もしたくなったわ」と、男の正面で太股を開く。女陰を曝して小水をしたのだった。
-日咲恵-
華津の母の日咲恵は小さな書店の経営者だ。五一歳である。
高校三年の夏休みの蒸し暑い夜。約束通りに草也が訪ねると、華津は留守だった。「友人が交通事故にあって病院に駆けつけたのよ」と、母親の日咲恵が言う。風呂上がりの香りがした。薄いワンピースに乳首が突起している。帰ろうとする草也を、「すぐに戻るからって出掛けたのよ」「だから待っててみて」と、コーヒーを奨めて引き留めた。しゃがむと胸元に豊満な乳房が覗いた。
ソファで向き合いコーヒーを飲んだ。日咲恵は豊満な女だ。華津からは五〇だと聞いていたが、草也には四〇位にしか思えない。丸子の爛熟した身体に馴染んでいた草也は懐かしさすら感じた。
大輪の花柄のワンピースの足を組み換える度に、太股の奥に紫の下着が覗くのである。日咲恵は幾度もその姿態を繰り返した。
暫くして電話が鳴った。草也が電話を変わると、華津が、「友達が危篤だから病院に泊まる」と言って、謝った。
帰ろうとする草也の手をとって、「大切な話があるの」と、女が再び引き留める。
「喉が乾いたわ」と、女がウィスキーを作り始めた。「飲めるんでしょ?」と、赤い唇を濡らした。草也が頷くと、「昔ならすっかり元服だものね」「もう大人よ」「娘も帰らないし」と、怪しげに言うのである。最初の一口を喉に通して、「今夜の事はみんな二人きりの秘密ね」ウィスキーを飲み干しながら、「昼間に凄く厭な事があったの」「今夜は思いっきり酔いたいわ」と、女の太股が開く。「付き合ってくれる?」「うるさい娘も帰らないし」女の瞳が潤んでいた。「今夜は泊まっていけばいいんだわ」
「話があるって?」草也が切り出すと、「あら。そうだったわね」と、続けて、「あなた達、避妊はしてるんでしょうね?」男を凝視した。「いいのよ」「それを咎めるんじゃないの」「もう立派な身体だもの」「若いんだもの。欲情が湧くのは当たり前だわ」「私がそうだったから良く解るの」「でも、子供だけは未だ駄目よ」草也が頷くと、「しっかり避妊してね」「いくら女が求めたって、結局は男の責任になるんだもの」女が男のウィスキーを作った。喉を通して、何でそう思ったのか、と聞くと、「娘の部屋を掃除してたら違う陰毛があったの」「何本もよ」と、乳房を揺らして笑った。「とってあるわよ」と、また笑う。「だって、若い人のって陰毛まで元気なんだもの」「羨ましいわ」「私のなんか白髪混じりなのよ」
草也にただならぬ情欲が湧いた。熟れた女が明らかに挑んでいるのではないか。丸子のあの時と同じだ。前戯のゲームが始まったのだ。そして、このゲームに敗けはないと、男は確信した。
女の話が展開した。「夕方にとっても厭な事があったの」「だから、さっき風呂に入って、すっかり洗い流したのよ」「痛くなるほどゴシゴシ擦ったわ」「恥ずかしいけど聞いてくれる?」
「痴漢にあったのよ」「驚いたわ」「あんな事ってあるんだわ」「つい、さっきのことよ」
「帰りの電車で。小学校の生徒たちが大勢乗り込んできて」「身動きが取れなくなってしまったの」「そしたら、私のお尻に男のが当たって。ぴったり。いつの間にかスカートが捲れていたのね」「薄いコートだけを着た若い男なの」「コートの下は裸なのよ」「男のがお尻の割れ目に食い込んで」「形がはっきり判るの」「その内にそれが熱くなったのよ」「電車の中であんな事になるなんて」「私。たしなめるつもりでそれを握ったのよ」「そしたら、おっきいんだもの」「思わず強く握りしめてしまったの」「形を確かめてしまったんだわ」「とっても熱いんだもの」「だから、もっと握りしめて。撫でて。確かめてしまったんだわ」「あなた。男って電車の中でもどうしてあんなにおっきくなれるのかしら?」「自分でも何が起きたかわからなかったの」「自然に尻を揺らしてたのね」「男のに押し付けて」「あんな事。初めて」
草也が日咲恵の隙を見てわざとウィスキーをこぼして、「あっ」と、叫んだ。聞き付けた日咲恵が、「どうしたの」と、振り向き、「あら。大変」
日咲恵がタオルを取ってきて、立たせた草也の足元にしゃがんで股間を拭き始めた。隆起している。
「あら。本当に大変だわ」「これじゃ、拭いたくらいじゃ間に合わないわね」「染みになるから洗わなきゃ」女の声が掠れる。草也はわざと何もしない。「脱がなきゃ」と、ズボンを脱がせた。勃起が邪魔をする。ウィスキーはパンツにも染みていた。「これも脱がなきゃね?」女がパンツを引き下ろした。
若い巨根が女の眼前に現れた。完璧に勃起している。女がその猛りに指を添えて拭き始めた。丹念に拭く。ゲームは佳境だ。「あら、大変だわ」「先が濡れてるのよ」「火傷したのかしら?」「どうしましょう」と、顔をあげて男と視線を絡める。 草也が、「病院に行かなきゃいけませんか?」と、言うと、「応急措置をしてあげようかしら?」「どうするんですか?」「口で治療するのよ」「舐めるんですか?」「唾が一番の特効薬なのよ」「そんな事をしてもいいんですか?」「娘を気にしてるの?」「事故なんだもの仕方ないんだわ。でも、二人きりの秘密よ」と、すぐさま亀頭を口に含んだのである。
、そして、ある既視感が女を襲った。それを確かめる様に丹念に舐め回すのであった。
「ウィスキーで消毒してあげようかしら?」どう?」
草也が、「横になりたい」と、言い、ソファに横たわると、股間にうずくまった女が改めて隆起に指を添えて、ウィスキーを口に含んだ。 「凄い勃起ね?」「元に戻るんですか?」「こんなになったら射精しないと戻らないわよ。このままじゃ困るでしょ?射精したい?」「言う通りにする?」
さて、日咲恵は謎で彩られた女であった。その名前からして、日咲恵は通称で本名は満なのであった。
そう。読者諸氏よ。驚くなかれ。この女は、誰あろう。あの満だったのである。
満は一八歳で結婚して、初代草也の義姉のあの魔性の絹枝を産み、夫が逝去すると地主と再婚した。三五歳の盛夏に旅の色事師と出奔したが直に捨てられた。
その頃に、二〇歳の初代草也と、ある公園で一度だけ交わり、懐妊して華津を産んだ。この公園の凄まじい情交は執筆済みだが、いずれ掲載の機会があるかも知れない。 敗戦時は三八。二三のあの紀夫と知り合って妾になったのである。文具店は紀夫が出資して支援したものであった。当然にあの教団とも深く関わっていたのである。
初代草也の子華津を産んだ満が、初代草也の実子かも知れない、かつ、娘華津の恋人の二代目草也とも、たった今、交接してしまったのである。
読者諸氏よ。何という綺談であろうか。華津と二代目草也は異母兄妹の疑念すらあるのだ。
御門制と性の禁忌に挑んで駄筆を研いできた者としては実に本懐の極みである。
(続く)
カムイの儚6️⃣