エクリプス・オブ・イクリプス

太刃幸太郎

  1. 序章
  2. 山道

あなたはもし突然超人的な力を手に入れたらどうしますか?
正義の為に使うのか? 組織や他人の為に使うのか? それとも自分の為に使うのか?
これは主人公のルイが自身を救ってくれた謎の力を使うお話し、世界に対してどう力を行使するのか? 
これは彼の物語、そして彼と関わりを持つ者達の物語

序章


 人々の記憶に残るにはどうしたら良いのだろう? 僕は疑問だった。

 そもそも彼らの記憶に何かを残す事が可能なのか? 人は記憶する事が出来るが忘却する、そんな者達の記憶に————。

 おそらく永遠に人々の記憶に残る方法は一つを除いて無いだろう。

 英雄になる事? それは違う、英雄になれる資格を持つ奴は死んだ奴だけだ、実に下らない。

 勇者になる事? それも違う、勇者とは他人から自身を搾取さて続ける道具だ。道具はいずれ壊れる。

 悪事をする事? それもハズレ、悪は永遠に記録されるが永遠に記憶される程ではない、例えどんな悪魔だろうと全ての人には記憶されない。

 答えは簡単、『——を————事』

 ・ ・ ・
 
 その石造り部屋の雰囲気は薄暗くじめじめしているというのが一番合うだろう。部屋の所々には蝋燭がか細い火を灯し、室内の様子をかろうじて視認する事ができた。

 部屋には様々な道具があるが、その全ては人に苦痛と絶望を与える為の道具でありその形状とこの部屋のあらゆる場所についているおびただしい染みを見れば誰もが察してしまうだろう。

 天井からいくつもの鎖が垂れ下がっておりそのいくつかは哀れな奴隷達の四肢を拘束している。

 いわゆる拷問部屋。希望から最も遠く、苦痛と絶望しか存在しない世界。

 そんな世界に乾いた炸裂音が響く。

 その音はどうやら人体から発せられたいた。

 そこには鎖で天井から吊るされた少年とその少年に鞭を振るう初老の男がいた。  

 少年の瞳には生気は無く、身体の至るところにあるみみず腫がより痛々しさを感じさせる。少年はそれでも男の振るう鞭を一身に受けている。何度も鞭を振るっては少年の顔を覗き込み少年の反応を見て楽しもうとしていた。

 やがて男はようやく満足したのか、少年を吊り下げている鎖を緩め少年を地面に落とすと、部屋の扉を閉めた。

 少年は動けなかった、動く体力も気力も無いからだ、幾度と繰り返された拷問に、多数の男達に慰み者にされ続けた結果、少年の心は死にかけていた。

 ――今日で死ぬかもしれない

 少年は思った、最後の時なんて意外とあっけない、周りにいる奴隷達も生きてるのか死んでるのかそれすら怪しい。

 身体から熱が抜けていく感覚を味わいながら少年は呟く。その思い、その言葉は誰にも届かずこの地獄で人知れず消える………………はずだった。

 ――この貌はずいぶんとまぁボロボロだな。そんなに死にたくないなら生きれば良いじゃないか。

 返ってくるはずがなかった答え、少年は僅かに頭を動かして言葉の主を探した。

 ――違う違う、もし貌を探しているならお前の目の前だ。

 少年は定まらない視点を自身の横たわる地面の向こうへと向ける、そこには石で出来た何かがあった。

 ——ようやく見つけたか、それが貌だ、情けない事この上ないがな。

 皮肉めいた言葉が少年に届く。

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 ——そうかお前喋れないのか、まぁ俺には関係ないからな。
  
 その石の存在は静かに、しかし何か恐ろしい吸い込まれそうな声でボロ雑巾のようになった少年に囁く。

 ——なぁ、俺と一緒にこの世界を道連れにしないか?

山道

今日も朝から雨が降っていた、おそらくはお昼時はとうに過ぎてるはずなのだが雨雲のせいで森全体は薄暗く雨の影響もあり視界が悪い。

 そんな雨の降っている森の中、うっすらと揺れる灯火が見える。

 その灯火は森の中にある洞窟の中から漏れだしていた。

 洞窟の中には焚き火をしている一人の人物がいた。どうやらこの雨の中で服が濡れてしまったのだろう、ほぼ下着姿の状態で濡れた服を乾かしている、洞窟の壁に写し出された影が焚き火の炎によって揺らめいている。

その人物には特徴があった、首には奴隷の証である首輪をついており、露出している部分だけでも至るところに痛々しい傷痕があり、中でも顔にある大きな十字傷は彼の顔を台無しにしている。    


「さっきまでは順調に王都に向かって歩いていたはずなのに……」

 そう言ってちらりと傷だらけの少年は後ろに視線を向ける。

「……むにゃ………むにゃ……」

 そこには人の寝袋で寝る女性がいた、ついさっきまで傷だらけの少年に「寒い!」や「お腹が空いた!」等など人を散々小間使い扱いした挙句、結果的に傷だらけの少年の食料全てと寝袋を生け贄に捧げなんとか眠ってもらった。

「はぁ、これは野宿確定だなぁ……」

 そう言って傷だらけの彼はもう一度深いため息をつき火に薪をくべつつ再び雨が降る外の景色を見るのだった。

*   *   *

 時間を巻き戻すこと数時間程前、『ルイ』は山道を歩いていた。王都へ向かう為の山道は生憎の雨による土砂崩れのため通れない為にルイは仕方なく遠回りすることになった。

「とりあえずこの道を行けばあと数日くらいで王都への道に出れそうだ」

 雨に濡れないようにしながら地図と数分間にらめっこしたあとに、ルイは王都へと続く山道を歩きだした。

「確かこの辺りって野盗とか化け物とか出るって話だけど大丈夫か? 流石に面倒事は勘弁だぞ」

 しばらく歩いていたが、ふとルイは足を止めた、嫌な予感は的中してしまったらしい、数メートル先に馬車だったものを見つけた、立派な馬車だったのだろうが今では見る影もない。

 ルイは慎重に馬車に近づく、近づくにつれ匂いが強くなり、雨の音の中でもその音ははっきりと聞こえてくる。

 喰われていたのは御者だった者と、複数名の騎士と思われる男達の残骸と馬だ。

 地面には骨やら武具の破片やらが落ちている、幸いな事に相手はこちらに気づいてない。このままやり過ごすかと思案していると少し離れた所で悲鳴が聞こえた、声のした方に視線を向けると華美なドレスを着た女性がいた。

 雨の中で把握は出来ないがこの惨状の唯一の生存者だ。

『ちょうど良いですね、あそこにいる女を捕まえて一緒に馬車で送ってもらいましょうか』

「お前悪党か何かか? そもそも馬車壊れて使いもんにならんし、見えてないのか?」

 まるで誰かと会話するようにルイは独り言を呟くと地面に荷物を置くと深呼吸を一つして呼吸を整え身体の力を抜く。その間にも化け物は哀れな獲物に近づいていく、奴らからすれば丸腰の相手はただのオモチャに等しい。女性は来るはずのない者に必死に助けを求めている。

『お、早速使うんですね』

 ルイは「やかましい」と自分の胸の中央を押した。その瞬間、黒い影が地面を蹴る音と同時にルイの姿は消えお姫様の触れようと近づいた怪物の一頭が谷底へと落下していく、その様子を見た黒い人は一言だけ呟いた。

「ヤッベ、勢いつけ過ぎた⋯⋯」

 フィムリアは王女である、王女でも武芸の類いを教わっており、そこら辺のチンピラ程度の
相手には遅れはとらない、しかし今フィムリアの目の前にいるのは町のゴロツキやチンピラの類いではない、人類を主食にし悪意を持って襲って来る正真正銘の怪物なのだ。

 持っていたレイピアは怪物の皮膚の前で折れ警護の騎士達もことごとく怪物達のオモチャにされ最後は殺された。屈強な騎士達も死ぬ間際には助けを懇願しているのを見てフィムリアは心の芯が折れてしまったのだろう、自分の悲鳴を聞いた怪物達がいやらしくニヤリと嗤った気がした。

 フィムリアは必死に叫ぶ。

 ――――助けて、誰か私を助けて…………と。

 嗤う怪物の一頭がフィムリアに手を伸ばし彼女のドレスを引き裂く、フィムリアの悲鳴に怪物達は下卑た嗤い声を上げる。

 ――この女は孕み袋として上等だ。怪物達の肉体が熱くなる、人間からしたら怪物の中でも外道の部類に入るトロールと言う種族だ。

 トロール達はフィムリアをその強靭な腕で押さえつけると、自身の袋からガサゴソと複数匹のおぞましい蟲を取り出す、その光景を見たフィムリアは恐怖のあまり身体を激しく動かし必死になって逃げようとする。

 しかしそんな簡単に事は運ばない怪物達そんな様子に嗤い声を上げる、それも当然だ奴らからすれば今自分達が強者で目の前の女は弱者。

 それの意味する所は蹂躙しても良いという事、弱いからいけない、強いから何をしても良いという子供が考える原始的な考え方。

 身体におぞましい蟲が触れようとした瞬間フィムリアは心がついに限界に達した、だから彼女は知らない、その後の結末を。

エクリプス・オブ・イクリプス

エクリプス・オブ・イクリプス

  • 小説
  • 掌編
  • 青年向け
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CC BY-NC-ND
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