女の姿態2️⃣

草也

女の姿態 2️⃣


-落書き-

 あの時、馴染んだ正常位の惰性で安逸に交わりながら、ふと思い付いて隆起を抜いた。怪訝気に笑む女に股がり、女の淫液で濡れ膨脹したままの肉塊を、熟れた桃の香りの狭隘な谷間に鎮座させた。阿吽で女が受容し、新たな欲情で血流の増した乳房を両の手で押し寄せて、気焔な亀頭から目を逸らさずに挟み込む。そうして熱い乳房で揉みあげる。初めての肉の触診が陰茎に快感を走らせる。乳房もそうなのか、まっ白い歯を溢していっそう女が喘ぐ。
 やがてフィラチオをせがみ、遂には男根を顔の付属の風情で頬擦りをした。

 訳もなくある事を聞くと女は見たと言う。男が紙とペンを枕元に用意した。腹這いになり強欲な臀部で息をする女に覆い被さり、挿入しながら耳元で指図する。
 女が口でなぞる、男が思いもしなかった女性用トイレの醜悪な落書きの記憶を、そのまま絵に描かせるのだ。女の恥辱は微かにためらいながらも、大胆に女陰を描き男根を挿入させ、陰毛を加える。描きながら、男の囁きや男根の動きに反応して、女はしばしば嬌声やため息を漏らして悶え、暫くペンを休め愉悦に囚われて尻を陰翳に揺らす。
 さらに、男に督促され、おぞましい赤裸裸な言葉を描き写す。やがて余白一杯に猥雑で汚濁にまみれた言葉が立ち現れた。二人の性愛が孕んだ一枚の戯れ描きが、猥褻にうごめく。


-放置-

 あの時、連れだった出先で、女の我執の言動との些細な葛藤で陰鬱な男は、あることを思いついた。帰りの車で平静を装い女と性交を約した。
 家に戻って男が黙ってウィスキーを飲んでいる間に、歯磨きを済ませた女は疲れたと言い置き二階の寝室に上がる。
 暫くして男が後を追うと寝室は厚手のカーテンが引かれ、夜だ。既に真裸でうつ伏せの女は痛ましい程寂寞とした佇まいだが、やはり潤沢なのだ。男はその矛盾に軽い目眩を感じながら女を抱き寄せた。男の平生ではない容態を感じながらも、自我に執着するあまり原因にさえ思い至らない女は、見知らぬ旅人に名前を告げる様でおずおず身体を開く。
 前戯もなしに猛猛しく挿入すると、意外にも膣は熱く潤っている。二人は鬱鬱とした情念を性器に仮託して、暫く互いの肉を執拗に摩擦する。男の意固地が氷解したと思うのか、或いは意思のない肉欲が反射するのか、女は微かに嬌声を漏らし、いつもの艶めく性戯の航路に回帰しようとし始める。
 すると、男がかねて企図したある提案を囁いた。疑念の詮索を忘れて蜜にまみれた女はたわいなく同意する。
 二人の極が写る角度をテレビの画像で確かめ、ビデオカメラの録画スイッチを男が押した。二人は横臥の姿態で性交しながら、進行のありのままを写し出すテレビを見つめる。女が変化し大きく喘ぎ、みるみるうちに淫蜜が氾濫し尻までを湿らす。
その最中に女は縛られる遊戯を提案した。ふしだらな痴態で両の手足を縛り上げると、女は歓喜の嬌声を憚らない。
 二人きりの共同謀議でパンティを破りバイブを突き入れ、目隠しをする。
 階下に降りウィスキーを飲み一五分ほど放置した。
 再生して二人で見ると女はテレビの中で悶絶していた。
 男の煩悶はいつもの様に、いつの間にか性愛の闇に沈殿した。女も連続して享受した法悦で自らに不可解な過去などすっかり棄却してしまった。


―防風林―

 あの時、無様に割れたガラスの破片の様な、女の無作法な呟きの一言が不意に男を切りつけ、男の神経に反作用して逆上させた。そして、その瞬間にただならぬ性欲が反応した。男根が逆鱗する。男自身が驚いたが触ると激しい勃起を確認出来たのだ。ほくそ笑んだ。男にとっては極めて希有な事だ。狂暴な援軍だ。
 今すぐにこの女を辱しめて甚だしい記憶を刻印しようと決意した。女という性を犯そうと初めて思った。
 防風林につながる海岸に人気は全くない。潮騒の晩秋の午後だけだ。
 男は無言で長いコートで背後から女を包み、乳房を両手で押し潰し、男根を押し付ける。スカートをたくしあげる。
 女は咄嗟に追憶から立ち返り、「ここで?」と、問いはしたが直ぐに自ら下着を下ろす。無言で挿入しながら男は女の言葉を反芻している。
 「この海岸は嫁いだ四国の小さな町の風景に似ている。寂しい町だった」
 この女は無造作なのか自然なのか、そもそも二人の間には性愛しか存在しないのか、或いは能天気な甘えなのか。
 男が許せないと怒る根拠が別にもあった。ある場所でここが初めてキスした所だと言った。ある場所では、あのホテルに来たことがあると指差して遠くを見た。
 女が濡れると男は復讐の勝利感に満足しながら、女の圧し殺したうめきを踏みにじり、膣の奥深くに思いっきり射精した。
 戻って車を走らせてもしばらく二人は無言だった。男はこの女とは別れてもいいと思った。女もそうだっろうと思う。


-小水-

 あの時、「小水をかけたい」と男が言うと、女は全身を泡立てながら、股間を洗っている手を止めて振り向いて、「して見せて。かけて」と、さほど驚きもせず、むしろ二人には初めての痴呆の様な遊戯を出迎える、津津とした笑顔で、「いっぱいでるの?」と応じた。
 「石鹸を洗い流してやる」と続けると、破顔し、「かけて」と、淫靡とは程遠い声をたてて笑う。乳房だと指示すると、男に向き直り対座した。男が乳房をめがけて放出すると、女は一瞬嬌声を発し、低い呻き声をあげながら、両手で受け止め、乳房や二段に割れた下腹に塗りたくる。目は男根から逸らさない。
 「私もしたくなった」と、男の正面で股を開き、女陰を曝して小水をした。
男は何気なく思い付いただけで、そんな事は初めてだった。女の経験を問うことはしなかった。実際にしてみるとさしたる快感もない。ただの排尿だ。おそらく女の趣味でもなかったのだろう。それ以来していない。


-マゾ-

 あの時、晩夏の女の休日の昼。花の好きな女が言い出し、季節の苗を買って戻った二人は、男の家の庭で、何事もなく長く連れ添った中年の清浄な夫婦の風情で、植え付けをしている。自然に任せて小さな森に繁った庭が呼び寄せる風に晒され、白樫の小陰で作業の手を休めた男はウィスキーを含んだ。楚楚と手を動かす女のジーンズの、男が執着する爛熟した尻を、蜂の鳴動と重ねて眺めていた男が、情火の思い付きを告白した。
 うなじに健勝な汗を浮かせた女は、些かの屈託もなく嬉々として瞳を煌めかせて破顔した。そして、まるでこのままピクニックにでも行く様に同意して、乱れ咲くバラのアーチの下で舌を絡めた。
 二人は、夕べ一〇日ぶりに会い、夜半まで互いの蓄積した貪欲な肉を餓鬼の様に飽くなく貪った。女が休日の今朝から昼までも、はち切れんばかりに充足したその実存を互いに捕縛している。
 情欲の陰部を鬱蒼と盛り上げた青いパンティだけの裸で、芳醇に熟成した乳房を露にむき出しの柱を背にすると、女の性情の一切は男に隷従する。変化した女にはもう笑みはない、どころか朦朧と眉間にシワを刻み、神経を震わせて享楽の襲来を劣情の姿態で待つのである。
 普段は女はむしろ攻撃的だ。少なくとも防御に徹している。出勤の服に着替えて、職場は戦場、女の戦闘服よと、精気をほとばらして言うのが口癖だ。
 しかし、情交の時は打って変わって密やかに無警戒になる。隷従する奴婢の有態に激変する。無造作に、と言う以上にふしだらに紊乱に変容した身体を開くのである。貢ぎ物にでもなったかの様に、性器そのものと化した裸体を惜し気もなく放り出す。どんな露悪な欲求にも、自身もそれを渇望している様で応える。それは男が対象で、男によって変容したからなのか、元よりの女の性状でそうした遍歴を辿って来たのか、男は皆目認識できずにいる。
 そして、ふとしたある契機で、男が迷路の果ての女の秘奥の扉を開けると、そこには被虐を好んで貪欲に食み、快楽の源泉にたちどころに変換する淫慾な獣が棲みついていた。女は正真正銘のマゾヒストだと、男は自らの疑念に解を与えた。
 男の性は被虐でも加虐でもなかった。精神を融合する解放を求めていた。異常な遊戯は極めて稀にしかしない。確かに億劫なのだ。だから、女の被虐を引き出そうとする時は、男の精神も軽い倒錯に陥っているに違いない。しかし、その行為そのもので愉悦を得る事は全くない。

 この日、女の性癖のまたひとつを探り当てた男は、厳正な調書を作る卑猥な官吏の様に尋問する。
 本当に縛られたいのか、何故か、どの様に縛られたいのか、軟らかくかきつくか。
 女が息を乱して自供すると、女の生理はみるみるうちに革命されパンティに染みが浮く。その懺悔そのものが女の快楽なのだ。
 やがて、縛られると憚らずに痴情の声で漂流する。我慢できないと情念を絞り出す。自ら望んでハンカチを噛む。自我を忘失して色情の終末の様にあらん限りに悶え続ける。

 男は性以外にも、この女の極端な二面性にしばしば遭遇した。守銭奴の危険な臭いも嗅いだが、未だ言い出せない。時おりのいさかいの原因はそこにあるのではないか。その根元は自己中心主義ではないか、男はほぼその解を確信している。
 男は女の資質の半ばには満足していたが、自己中心が垣間見える性向が耐えられなかった。だから、性愛から倫理への昇華を目指したいと切に思った。利自愛の原罪を女に自覚させるのは無謀な希求かもしれない。そして、男は性愛の俘虜でもある。その為に、理知の弾丸を発射する機会を窺いながら、無為に身体を重ねるのであった。


-電話-

 あの時、遠距離の毎朝の電話で、女が時間が空いたからゆっくり出勤すると言った。
 とりとめのない会話に続けて、ためらいながらも、夕べ男の夢をみて想像を絶する様な性交をしたと言うのだ。暫く夢の話をしているうちに、男が書いた性愛小説を聞きたいと声を掠れさせた。男がパソコンを開けて読み始めて暫くすると、女の息が乱れてきた。 質すと自慰をしていると、事も無げに自白した。女は矢継ぎ早な男の問いに答える。
 素裸になり、ベットに仰向けで指を入れている。股は大きく開き膣は驚くほど濡れている、と言う。ソーセージはあるかと聞くと、暫くしてサラミを入れていると答えた。
 すぐに、女は電話の彼方で男を呼びながら完熟して落ちた。
 性愛というのは厄介なものだ。こんな錯乱した行為ですら、強靭な絆の発露だと誤算してしまう時があるのだ。


-エプロン-

 あの時、失われた一〇年だと意味のない陳腐な意味付けがされた怠惰な状況のただ中の僅かな一時、男は性愛小説を書こうと、ふと考えた。秘本の一品の「家畜人ヤフー」が下敷きにある。性愛から見る倫理がテーマだ。新たにその種の本を買い求め描写の傾向を研究した。
 盛夏のある日、半月ぶりの女にある懇請をした。
 男のある種の特異な肉感を堪能させる身体を持った女の、四十半ばの熟柿の様な裸体に、ブラジャーとパンティの上に形ばかりの淡紅色のエプロンをまとわせた。女はウィスキーの氷を揺らす男の眼前に立ち、こわばった笑みで披露した。
男は、「本当に書くのか」と戸惑う女を説き伏せて下着を剥がさせた。
 性向に合わないのか、気分が乗らなかったのか、さして肉欲の刺激の渦中にあるとも見えない女をキッチンに立たせる。女は遊戯に馴染めないのか、あるいは男の脚色に信憑性を付与するのか、シンクに残った食器を洗い始めた。
 後背から独特の昂揚神経が集中する乳首を探り当て、男の指が柔らかく蹂躙する。
 間をあけずに卑猥な饗宴の病に伝染し、嬌声の主となった女はシンクの縁に手をかけ、剥き出しの、もはや放埒な猛禽に変貌した尻を突きだして、男根の横暴を求めた。

女の姿態2️⃣

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