恋路の果て

初恋は一枚の磨りガラス
曖昧なものごとだけを眺めることの
はてのない心地よさを
あなたが教えてくれた
それからすぐに
わたしは家中の鏡を残らず割った
砕けていびつな世界を映すようになった
百枚分の鏡の欠片は
磨りガラスなんか霞んで見えるくらい
一つ一つが愛おしかった
けれど鏡を愛でるために血を流しすぎ
今度は家中のグラスをぎゅうぎゅうに詰め込んだ
棺桶の中でわたしは眠る
眼球をどの方向に向けてもくにゃくにゃになった
ばかみたいに面白い世界がわたしを覗いていて
棺の中で立てるには大きすぎる笑い声を
何度も何度も響かせたのだが
そのたびにほっぺたにのうでふとももあしのうらおなか
にぴたりとくっついたグラスが
声を拾って共鳴した
その鳴き声のあまりの可笑しさに堪えきれず
涙を流して笑ったわたしを
怒ったグラスが
串刺しに
して
ん、
と噛み締めた唇はホッチキス
閉じそこねた瞼はプールの授業
なんにもできなかった耳は
耳は
耳だけが
残って
磨りガラスの向こうにあるはずの
ほんものたちの気配が
いつまでも囁かれ続けるという
恋路の果てを
わたしは迷わず罰と呼ぶ

恋路の果て

恋路の果て

  • 自由詩
  • 掌編
  • 恋愛
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-08-26

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