紫萬と磐城の儚7️⃣

紫萬と磐城の儚7️⃣


-皇太子-

 陸奥が責め続けた。司喜子は抗う。「皇室の事は私ひとりの裁量を越えているんだもの」「あなたには、もう、私のすべてを明かしたわ。わかるでしょ?」「あなた?こんなに繋がっているのよ。これ以上の男女の秘密はないわ」「「伊勢とも同じ事をしてるだろ?」「こんな風にはあからさまにした事などないわ」「私の身体をこんなにまで曝しているのよ」「あなたが望むなら、この身体でどんな事にでも応えるわ」
 だが、やがて、司喜子は諦念した。「それを話すのが、私達の同盟の条件なのかしら?」「そうだ」「話さなければ、私のあのお願いは聞き届けてもらえないのね?」「話しさえすれば、望み通り、伊勢を殺してやる」

 「したわ」「いつ?」「二五の時だわ」「御門は?」「一五よ。未だ皇太子の時よ」「あなた?信じられないの?」「特段に珍奇な事ではないわ」
 「皇室に春耕祭という儀礼があるの。万物の生成の始めを祝して、豊穣を祈願する行事だわ。若さの象徴の皇太子が祭祀するのが習わしなの」「祭祀の巫女が皇室にゆかりの家門から選ばれるのよ。一〇人ばかりよ」「伯母から連絡があって、その年の巫女に選ばれたと言われたわ」「そして、儀式の内容を教えられたの」
 「どんな風にしたんだ?」「祭祀が終わって小一時間もしたら、私だけが呼び出されたの」「庭の奥の東屋よ。皇太子と乳母の女官と三人だけよ」「女官から散策される殿下の供を命じられたわ」「歩き始めて暫くしたら、皇太子が小水をしたの」「終わると、乳母が始末をする様にと言うのよ」「私が戸惑っていると声を尖らせて言ったわ」「何て?」「貴子さまから何もかも聞いている筈よねって。貴子というのは私の叔母の事よ」「生娘でもあるまいし、って」「私が深く頷いたら、だったら早くなさいって、強い口調で命じられたわ」「それで?」「くわえたわ」
 「皇太子の、これだわ」「どんなだった」「未だ子供だもの」「どうだったんだ?」「凄く小さかったわ。縮こまって」「臭っていたわ」「白檀の香りよ。匂い袋を下げていたのよ」「陰嚢が大きかったの」「異様だったわ」「玉が大きいの。赤紫で。陰毛がちらほら生えているの」
 「乳母に叱りつけられたわ」「どうして?」「もっと技巧を凝らせって」「夫のは忘れられないほどしゃぶったに違いないとも言ったわ」


-伊勢-

 「伊勢はあなたを拉致してソ連に送致するつもりなのよ」「ソ連に?」「そう」「どんな風にして?」「麻酔で眠らせて。日本海の洋上でであちらの船に乗せるって言ってたわ」「どうして一思いに殺さないんだ?」「あなたの持っている機密情報と能力は利用価値がある、抹殺するには勿体ないっても言ってたわ。洗脳してあちらで活用するんですって」「それを信じたのか?」「違うの?」「俺以外にも、機関には彼らをマークしている俺の同士がいるんだ。そんな面倒な危険を犯すんだろうか?」
 「最終的には、ソ連は参戦して戦勝国になる。この国を分割統治する時の貴重な人材だとも言っていたわ」「どこを統治すると言うんだ?」「北の国よ。あの人は十一戸族の子孫なの」「十一戸族?」「知らない?」「誰なんだ?」
 「豊臣秀吉がこの国を平定した時の話だわ」「関東の北条を征討したわね」「あの時に遅れて参陣した伊達政宗は危うく秀吉に殺されそうになって、死に装束で恭順したのは有名な話だけど」「正宗の領地のその北の奥に、もう一人、秀吉の侵略を許さない猛将がいたの」「北条を陥落させた後に、徳川と蒲生を主力部隊、伊達を先鋒とした秀吉軍は、苦闘の果てに十一戸を滅ぼしはしたんだけど。さんざんな目に遭ったのよ。だから、この部族の存在そのものを歴史から抹殺したの。でも、北の奥では正宗は今でも忌み嫌われていると言う話よ」「それにしても、なぜ、伊勢などというと紛らわしい姓なんだ?」「当然に十一戸の直系は断絶させられたわ。でも、北の国の統治に腐心した秀吉が融和を画策して、この国は御門の元に平等だという事で、傍系にあの神宮由来の伊勢の姓を与えたと聞いたわ」「伊勢は、秀吉が関白を名乗ったのも、その理由だと言っていたわ」「伊勢は、自分の先祖が治めた土地の復権を図っているのよ」「それが北の国の独立なの」「驚いた?」
 「カールの知恵かも知れないな。伊勢はまだしも、あの男なら、あるいは、考えそうな策謀かも知れない」「どうして?」「伊勢にそんな理念も知恵もない。あの男は単なる俗物だ」「違いないわ」 「随分な物言いだな。あいつのがここに入っていたのはいつの話なんだ?」「意地悪な人ね」「言うんだ」「厭よ。今はあなたのこれだけなんだもの」「信じて?何でもするわ」
 「あなた?伊勢が来たらどうするの?」「伊勢は一人なのか?」「そうよ。カールと通じているのはあの人だけだもの。他
にもいるかもしれないけど、横の連携はさせないんだわ。カールも自分の身を守っているんだわ。伊勢は一人よ。だから、あなたと性交していろと命じられたんだもの。身動きできないようにしておけとも言われたわ。どうする?」
 「逆に逮捕してやる」「一人で大丈夫なの?」「場合によってはその場で射殺してもいいんだ」「ピストル?」「そうだ」「いっその事、有無を言わさずに殺して欲しいわ」「伊勢をか?」「そうよ」
「拷問してでも聞き出すことが山ほどあるんだ。殺すのはいつでも出来る」 
 「未だたっぷり時間がある。確証が欲しいんだ。あなたの心底が真実かどうかを確かめたいんだ?」「どうしたいの?」「あなたの陰毛を剃りたい」「そんなのが心の確認になるのかしら?契りには形はないのよ」「その通りだ。ならないかもしれない」「ならないわよ」「ならないだろう。でも、約束の言葉の裏付けが欲しいんだ」「そんなのあるわけがないわ。でも…」
 「剃るのはいいのよ。あなたが言うならどんな事でも服従します。だから、あの男を必ず殺して欲しいの?」

 陸奥は浴室で司喜子の陰毛を剃った。「あなたのも剃りたくなったわ。いい?」そして、女が男の陰毛を剃った。そのままで交わった。その時、雷鳴が轟いた。「雷だわ。怖いの」


(続く)

紫萬と磐城の儚7️⃣

紫萬と磐城の儚7️⃣

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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-08-25

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