サッカリンについて

サッカリンについて

部屋を一歩出たら、切り立った崖だった。海じゃなくて、アメリカ西部の荒野にありそうなまっ赤な土の地面がちょっとだけ眼下に見える。うん、ぼくの脳味噌は今日も何かを間違えている、まったくもって役立たずだ。ぼくはだまって部屋にもどった。
むみかんそう、だよ。
体毛がタンポポの綿毛みたいに一本一本抜けて、白昼夢の中に吸収されていく。若いからか知らないけど、薄毛の心配をすることはなくて、むしろ、ヘアスタイルに気をつかう必要がなくなるとかいってよろこんでいた。いたみを伴ったかもしれないけど、それも白昼夢の中に吸収されていった。いや、たぶん、いたみなんて最初からなかったな。抜け方がいたくないもん。白昼夢の中に吸収されなかったぼくの本体は重力にしたがってどこか深いところに落下していくけど、空気抵抗がすごい、やがてはどこかで糸のようなものに受け止められる。はなはだ遺憾ですがその他大勢はみんな繊維になりました。
愛を切り取ってよ。切り取って売ってよ。白昼夢の中で、冴えない脳味噌の中で、そこだけははっきりと赤い色をしているんだろう。どうせ暇だろ、なら愛しましょうよ。血液が不健康そうにどろどろになっていくから、涙までもが粘着質だ。こんな執着的なからだならもういらない。蛍光灯みたいに人工的な白さになればいいよ、八方ふさがりになっている情動を、なんとか甘やかすために。人工的に白い白昼夢の中で、愛だけがぽつんと赤い色をしているから、ぼくは大きく深呼吸をしてしまった。永遠が、ばっと覆いかぶさってさっと消えた。自棄になってるのが自分でもよくわかるけど、ちょっとくらいいじめられている方がいとおしいような気がしないこともない。

サッカリンについて

サッカリンについて

愛を切り取ってよ。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-08-22

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