CRAZYS ~障がい者が風の時代を生きる~
障がい者や、女性、高齢者。社会的弱者を応援する小説です。
保護室
照りつける真夏の太陽。迸る汗と勝利に対する熱い執着。
そのとき篠木の意識が朦朧とすっとびそうになる。
青春をとうに引退した男女6名が青春を取り戻しに本気にバスケをしている。そのなかにアメリカ系黒人と日本人、白人と日本人の血をひいた日本人が二人いた。幕ノ内将冴はリバウンドしたボールを取ると、まっしぐらに篠木ルーカスにボールを前線へパスした。
将冴は自分の前世がマイケル・ジョーダンとタッグを組むスーパースター
だというポジティブな妄想が奇跡を呼ぶことを確信していた。
タイムアウトまで残りわずか、1点差の競り合い。
篠木エイジはボールを取るとフロントコートまっしぐらにドリブルした。
病院のベッドで点滴を打ちながら横になっている自分の姿が見えた。
チームのエースストライカーの篠木エイジが過去の意識に朦朧としていたてきスティールが飛んでくるとそれをかわし、ボールをに渡した。
アメリカと日本。異文化で異なる世界を目の当たりにした日向ケンは日本は裕福に甘んじて、それを謳歌していることから、世界中から目の敵にされていることを知っていた。
ケンも失神しそうになりながら、パスを百目鬼七海に渡した。
七海は3Pをフェイクして、スクリーンをかわすと、ボールを碧井蒼空に渡した。
七海は失恋したりビールを飲んでいる自分の弱さを知っていた。
ボールが碧井に渡ると、碧井は今までの自分の人生が今という一瞬という瞬間に消えた。
タイムアウト残り僅か、碧井のシュートしたボールはリングに入るのだろうか?
幕ノ内将冴という男がいた。彼はとある仕事の帰りに大量に酒を飲み道端に寝転がって寝ているところを警官に見つかり警官と騒ぎになり、そのまま、気絶させられ、病院の保護室に担ぎ込まれてしまった。
将冴は瞬間沸騰湯沸し器のように暴れまくり保護室のドアをぶち壊そうとしたら、男5人位が保護室に入ってきて施錠をさせられ、「食事のとき暴れないでください」と看護師に言われた。
なんと将冴は力ずくでその施錠をぶち壊してしまったのであった。
そのまま、将冴は10人がかりで取り押さえられ再び施錠させられ、麻酔で眠らせられた。
寝息がけたたましくなり、花道は目を覚ますと「んっあれここどこだ」と初めて今牢獄にいることに気付き、自分が手足を拘束されて動けないことや、おとなしくしていないとそれらが外されないことを知った。しかし、ものすごいめまいのする空腹には勝てず暴れることをやめた。頭から低血糖で貧血をおこしそうに気持ち悪くなると、ただただ無言になり食事がだされるのをひたすらまった。食事を三食食べて7日目初めて施錠が外された。
将冴は身体をぐったりさせながら、余りの空腹で動けないことや、それゆえの怒りで満ちていた。
「暴力しないでくださいお願いします」
幕内は鋭い眼孔で看護師を睨んだ。
「静かにしてくださいね」
そう言って看護師は去って行った。
幕内は呆れた顔で鉄格子の外の光にあたると、顔を滲ませて歯ぎしりした。
「なぜだ!俺はあの日アメリカのNBAのオファーに行くつもりだったんだ。くっそーあの警官め!邪魔しやかって」
激しい怒りを腹にしまい、顔を真赤にしながら惨めさに睨みをきかせながら、黙って鉄格子の外を見ていた。
しかし、怒りが次から次に込み上げてくる。
自分はNBA選手になる為の男だという義を捨てきれずにいた。
(俺は前世、ジョーダンやオニールやコーヴィーらと杯を交わした仲なんだ。俺はふるさとの友に会うためだけにでもアメリカに行きたいんだ。なあ、江原さん)
将冴は涙が込み上げ、保護室からナースコールを呼んだ。
鉄格子のむこう側から女性の綺麗な看護師が現れた。
幕内は「よし、話のわかるやつがやってきた」と思い自分の話をした。
「俺はよう、今日アメリカに行く予定だったんだ、オファー来てないか」
看護婦は無言で去って行った。
「おい、人の話を聴け?」
幕内は首をかしげた。
Bリーグのプロ入団テストまで間近であったからであった。Bリーグで外国人選手と対等に渡り合ってNBAに行くという人生の設計図を思い描いていたのに、あの警官のせいで、それが、おじゃんになってしまった。まあ、マスコミに叩かれないだけマシかと思ったがよく自分の立場を振り替えってみると、叩かれない保証はどこにもないことに気がついた。
「やばい」
将冴は口を覆った。とたんに血の気がひき、全身から粟粒のような冷や汗が出た。
「はやくここから出せ」
(と喚きたいが今度騒いだら確実に警察がくる。そして俺はタイーホだ。どうする。こんなとき天才の俺だったらどうするんだ)
そのとき将冴によいお考えが浮かんだ。
「いま、わかったぞ。俺はターミネーターのサラコーナーのような立場の言わば人類にとって都合よく抹殺されなければならない特別な存在、うーむ、そうだ、こんなときは彼女のようにおりこうさんをよそおえば出してくれるかもしれぬ」
幕内は再びナースコールを呼んだ。
「アメリカに行くのをいましばらく考えようと思っている。なんでも話は聴く。だからここから出してくれ」
看護婦は言った。
「あのさっきからなんの話しているのかさっぱりわかりません」
とふてくされて出ていった。
「なんだと、このあま」
男の看護師が三人出てきた。
「少し静かにしましょう」
「おお、わーてら」
「ちょっとまて」
看護師が五人がかりで出てきて将冴を再び拘束した。
「どういうことだ、約束守ったぞ」
「暴れないで下さい、お願いします」
男性の看護師は威圧的に言うと将冴を置いてきぼりにした。
将冴は鉄格子の向うにマスコミが来てないか気になると、「おい、マスコミ来てないか。ちょっと取材受けないといけないんだ。この天才も忙しくてな」
「・・・」
虚をつかれたように、激怒した将冴は「聴いてんのか?取材きてねえのかよ?」
男性の看護師が来た。
「どうかしましたか?」
将冴はキレて言った。
「どうかしましたかじゃねえだろ?外を見てこい取材に答えなきゃいけねえんだ。いいかげん鎖を外してくれ」
男性の看護師は言った。
「取材は来ていません。」
将冴は言った。
「お前たちが国家機密でこの天才を封じ込めようとしているのを俺は知っているんだぞ。注射打ちたかったら打ってみろ」
看護師は言った。
「落ち着いてください。ここは病院です。誰もあなたを抹殺しようとなど思ってません。あなたを守る為にここにかくりしているのです」
将冴は耳をピクりとさせた。
「守られているとはこの天才も光栄だ。だがなぜ施錠をするのだ。わけがわからん」
看護師は言った。
「それは暴れるのを防ぐためです」
看護師は答えた。
「天才ならどうしたらいいかわかるはずでしょう。それでは」
そう言って看護師は去って行った。
CRAZYS ~障がい者が風の時代を生きる~