ちかちか

 雷鳴が街をつんざく。おなかがいたいのは、そのせいかも。視界の端でくりかえし散るひかりを、初めてきれいだって思った。
 雷は、最近、やっとこわくなくなって、でも、ずっと聴いていると、今度はぐらぐらしてくる。空では、今ごろ震度を測って大騒ぎ。散歩の帰りにであった白とグレーのしましま猫が、怯えていないかって、ふと考える。とらえきれないものに、とらえられないものに、あこがれとなまえをつけると、どうしたって落ち着いてしまうのは、よくないなって、思っている。なまえをつけることに、つけたなまえに、あまり寄りかかりたくない。
 ひかりが弾ける。マーブル模様の窓が、ひかりを割って、こういう時にじぶんにだけ都合のいいかたちを見出してしまうことが、憎らしいよ。触れられないもののなかで、いちばん触れられそうって感じるのは、でも、このひかりだった。
 いつまでも触れられないまま、制御できない感情を制御するふりだけは、すこしだけ、うまくなった。そうできないままで生きていかれるようなひとでありたかった。制御して、どうでもいいひととは、やっていけるようになった。そのことで、どうでもいいひとたちを責めるようなひとにならなかったことにだけ、安心している。
 それに恋と名づけてはいけなかった。名づけてはいけないと決めたのは、じぶんだった。
 雨が降りだして、雷鳴は続く。目をとじてもまぶたを揺らすつよいつよいひかりを、もうずっとまえから、知っている。

ちかちか

ちかちか

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-08-21

CC BY-NC-ND
原著作者の表示・非営利・改変禁止の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC-ND