あくまで比喩的な

「じゃあ、飲み物でも買ってくるよ」
部屋の扉が閉まるのを見届けると、緊張が一気に溶けた。
時計を確認する。針は16時を指している。一緒に帰ってきたのが15時20分頃、気づけば窓の外はうっすら橙色に染まっている。ひどく長い時間に感じた。
枕の隣に落ちたトランクスを拾い、意味もなく履き直して浴室に向かう。少し頭をスッキリさせたい。
シャワーを頭からかぶる。湯加減はちょうどいい。
シャンプーの容器を手に取る。余談だが、私は体を洗う時上から洗っていくタイプだ。
いつも通りシャンプーヘッドを押し込んで掌に出したところで固まった。
勢いのままに手に散った白濁液を見ながら、先程の光景が頭に走る。
「こういうの、初めてだった?」
心配も混じりながらも楽しんでいるような目、悪戯っぽく上がった口角。
私は追い出すようにいつも以上に入念に髪を洗った。

体を拭き、着替え終わったところで部屋のインターホンが鳴る。
せっかくさっぱりしたのに背中に一筋汗が流れる感じがした。一度唾を飲んでからドアノブに手をかける。

あくまで比喩的な

あくまで比喩的な

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2020-08-21

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted