ただ、生きること
らくえんには、ほどとおく。
白い花の群れが、ぼくたちに寄生し、養分とし、花を咲かせている世界で、ぼくたちの肉体、人間性、自我、というものは種子と茎と花弁に喰い破られて、そう、もう、きみを好きになった記憶も、薄れている。にんげん、とは、なんと儚く、脆い。きみに書いた手紙は、宇宙で燃えて塵となったはずだ。くだらないことで、だれかが、だれかを傷つけている瞬間を目の当たりにするのは、すこしだけ、地獄を見ている気分である。
ふつうがいい。
へいぼん。
平和的に、穏やかに、朝食にトーストと、スクランブルエッグをたべたいと思ったとき、ぼくの手の甲で、血管、ではなく、白い花の茎が、かすかにうごめく。いまの、この意識が、果たして正常といえるのか、すでになまえもしらない植物に侵されて、ぼくは、ぼくだと思っている、ぼくが、ほんとうはぼくじゃないのかもしれない、という不安におびえることが、もしかしたら、滑稽なのかもしれない。思い出からも消失される、きみ。ひとではなくなってゆく、ぼく。星は欠けたところから、腐っている。
ただ、生きること