夏の夜をあるく

 よろこびのつぎには、あいがきた。
 なんだかもう、すべてをあいすることにしようと決めた日が、あったのだ。じぶんのなかで、これはあいさない、これはあいする、ではなく、みえるもの、きこえるもの、ふれるもの、ぜんぶをあいそうと。
 氷河期のつぎには、四季がうまれた。わたしたちは、みんな、船に乗って、かなしみを乗り越えてゆくのだとおしえてくれたのは、なまえもしらない神さまだった。だれかのために生きようと思った瞬間に、だれかに裏切られたのは、残酷なくらいに暑い夏の午後で、あらゆる肉を焼きつくすかのごとくふりそそぐ太陽の光に、めまいしかしなかった。あしたになったら冬になればいいのに。そうひそかに祈りながら、わたしはかき氷をしゃくしゃくたべていた。いちごシロップの。
 ネムのとなりには、いつも、あいつがいて、わたしは、いるようで、いなかった。
 こいびと、などということばで、あいつはネムをしばりつけていて、わたしは、しんゆう、という立場で、ネムのよわさにつけこんでいた。よく行くコンビニのレジのおねえさんが、コンビニの裏で、たばこを吸っているのをみた。おねえさんとたばこが、まるで結びつかなかったので、びっくりしたし、でも、意外と似合っていた。ネムがあいつと、コンビニでコンドームを買っているのをみたときは、ひたすらに吐き気がしたのに。ぼんやりと、冬になったらかき氷はたべれないのか、と思いながら、わたしは、夏の夜をはだしであるいた。

夏の夜をあるく

夏の夜をあるく

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-08-19

CC BY-NC-ND
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