遠い目の住人。

心を開いて考える。先人たちが何を考えたのか?エウゲの一部である私は考える。
二回のベッドの傍ら、クーラーで熱を飛ばして、うとうとと、漫画を読んでいた。

英雄たちは、火星の落ち着いて、発展した先の文明の中、モノで満たされたコロニーのなかで、人々に明るい生き方の見本を示した。
人々に、その性質や人のよさ、そのスター性を見込まれて、人々も彼等に憧れた。英雄たちは、火星の象徴になっていた。

エウゲはそんな彼等の感情の内部へとアクセスする機能を持っている。要するにテレパシーという奴だ。
私も、かつて彼等の心の内部を見た。彼等の心はなるほど確かに満たされていた、けれど、自由を謳歌し、自由と葛藤しながら、心の不安をもっていた。
(この生き方は、果たして正しいものなのか?)
 彼等は、自分の愛したものを本当に愛し、その一方で、それが持続する事で生まれる代償について考えていた。
呼吸、生命、筋肉、血。

 生命を維持するためには、楽しい事ばかりじゃない。人間が発展すればするほど、文明が発展すればするほど、
人間は便利な生活、豪華な生活に、代償など必要がないと考えはじめた。


 いつしか苦しい事や悲しい事は、それを考えることが、いつしか(ケガレ)のように扱われていたけれど、それが同じ感覚でなければ
英雄たちは、お互いを信頼できなかっただろう。英雄たちは悩んでいた。エウゲは隠しているが、多分、皆知っている。英雄は、エウゲだ。
エウゲである英雄は考える。地球をみたときに、地球の人類をみたときに、本当にそのまま好きでいられるのか。何があっても、その母星と人類を愛した。

エウゲは、そんな初めの想いとうらはらに、幽世をつくった。

幽世は、死との間の世界だった。

そこに入れば、何もかもが虚構になり、何もかもが、手の中にあるように感じる。
けれど、そうすると、現実に存在する自分が存在の意義や、感覚や、価値を忘れる。

その不安を、確かに、古来の人々は感じていたはずだが、少し違う不安が、自分(エウゲ)たちの心にはあった。

隔離世に線路、古びた都市、荒廃していく地球の、汚染された環境。
好きな思いと裏腹に存在する、人間によって汚染された地球そのもの、それがトランスカルチャーの原初の姿。
隠されているが、皆知っている。エウゲ達ははじめ、幽世をつくった。本質と真理がゆがむことのない、死後の世界だ。

きっと、私は、私の世界は、私のテレパシー(想像力)は、地球の人々とは違う。

けれど、神は神秘的な能力と、火星で生き抜く術を、地球人類の片割れに残した。

私は片割れ、地球人類と先人たちの片割れ、やがてこの地に息づいて、染みだして、地球の先人、先輩、同胞たちと、おなじ失敗と同じ成功を手にするかもしれない、けれど私は考える。

いつでも、どこでも、あの世界に逢える。そして、あの世界について考えられる。
トランスカルチャーと、現実のはざま、幽世の夢。
エウゲは毎日夢を見て、考える。

呼吸が止まる時のこと、思考が広がるときのこと、全てが分かる時のこと、何もしらない時のこと、悠久と交わる世界と、毎日対話
し、そして目覚める。

遠い目の住人。

遠い目の住人。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-08-19

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