いつかふたりで液体になる
氷になって、溶けだせば、暑さから逃れられる?
ばかみたいな質問。脳みそがつかいものになっていない証拠で、きみは、からからと笑って、蒸発するだけだよと断じた。空気になったら、もしかして、完全にひとつになれるかもしれない。液体になるより、完全に、完璧に。
またへんなことかんがえてるだろ。扇風機のまえでアイスをたべるとすぐに溶けるってわかっててもやめられないきみが、室温計をぱきりと割りながら言う。だって、かんがえずには、いられなかった。
三十七度。ちょっとずつ、おかしくなってゆくな、と感じる。いや、でも、まわりのひとたちは、そういえばぼくときみを、狂っている、と評したんだっけ。冷房が悲鳴をあげている。ひるまの浴室が三百六十五日とくべつだったむかしに、ちょっと、戻りたくなる。
あのころは、みんな、笑ってた。ぼくらはただの仲良しだった。つくった氷をたべながら、きんと痛むこめかみに停滞する、まぶしい季節をかんがえる。あのころ笑ってたみんなはいま、わらっている。
でもいとおしさは、いまが、圧倒的。
空気になって、きみに吸われるのもいいなとかんがえてみる。吐かれるまえに、永住してみせる。あばらの、すきまあたりが、いいなあ。
差しだされたアイスに頬をすり寄せると、かわいくないぞときみが笑う。もう、ぼくのまわりで笑ってるのは、きみだけ。
せめてぼくときみのふたりくらいは、はやくこの暴力的な熱から逃れられたらいい。多くは望まないよ。望みすぎたら、きっといまの完璧からなにかをとりこぼすって、(そのときとりこぼすのはきみだって、なぜか確信している)わかっている。
人類液状化、は、ちょっと、過激。
だから、ふたり、と、それでも勝手に、望む。
いつかふたりで液体になる