永遠の行方

 やさしさに、くびをしめられた。夏。
 ネットのニュースでは、ゆうめいなアイドルのスキャンダルが、ふわふわした感じで流れてゆく。はっきりしない、曖昧で、その不透明さが、あたりまえみたいに。ニアの薬指には、いつのまにか、小さな花が咲いていて、指輪のように、蔓は二重、三重にと巻かれて、花はどこかたよりなく、造花ではないというので、そのせいかもしれない。恋人との契約により、花は咲いたのだという。いつものぼんやりとした調子で、ニアはいって、ぼくのスマホの画面をのぞきこんだ。けっこう、わりと、どうでもいいニュースが、世の中にはあるよね。夜のスーパーの、仄暗い休憩所のベンチで、ぼくらはなにをするでもなく、これといってしたいことはないのに、家に帰る気にはなれなくて、ジュースを飲みながら座っている。ぼくは、オレンジジュースで、ニアは、メロンソーダ。いつも、まいかい、だいたい、それ。冒険心のない、ぼくら。
「契約って、つまり、結婚するってこと?」
「わからない。でも、これが咲けば、ぼくらは永遠らしい」
 左手、薬指に咲いた花を、ニアはスーパーの、いまにも消えそうな蛍光灯にかざす。青白く染まる、花弁の少ない小さな花。しっている。ニアの恋人は、やさしい。やさしすぎて、ちょっと、こわいくらい。
「永遠ってことは、やっぱり、結婚するってことじゃないの」
「そもそも、永遠と結婚って、イコールなのかな」
 わかんない。ぼくはいって、のこったオレンジジュースを飲みほした。永遠の証である、指輪を、ニアは、うっとりもせず、嬉しそうな様子もなく、みつめている。

永遠の行方

永遠の行方

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-08-17

CC BY-NC-ND
原著作者の表示・非営利・改変禁止の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC-ND