(BL)これはきっと、恋じゃない。

えりな

  1. 6―成田side
  2. 10
  3. 11
  4. 12
  5. 13ー成田side
  6. 14

腹黒病みワンコ×性格男前ノンケ
幼馴染みの二人の関係が少しずつ変わっていくお話。
攻めが一方的に受けを狂愛しています。
性表現や乱暴なシーンは多々ありますがそんなには強くないと思います。

俺がまだ小学校の低学年だった頃の、とある日。



冬の寒い薄暗い放課後の教室の片隅で…クラスの男子共による度を越えた嫌がらせが行われていた。
最近転校してきたばかりの男子がターゲットにされているらしくそいつは数人の奴らに囲まれて履いているズボンを下されそうになっていて。
元々そーゆー類のコトもそーゆークソみたいな奴らも大嫌いだったから迷うことなく俺はそいつとアホ共の間に割って入ってボコり、ボコられながらの大乱闘を繰り広げた。
その結果…俺には“クラスで一番強いヤツ”というつまらん勲章が授けられそして…。


「ありがとう瀬能くん!このご恩は一生忘れません!」


……と。
どうやら一生物の忠犬を手に入れたようだった。


いつも俺の側から離れずどこへだってついてくるそいつ…成田洋介。
成田は背がすげー小さくて顔は女みたいに変に可愛かった。
だから…どうやらその…クラスのやつらにズボンを下されそうになっていた、らしい。
それを聞いて俺は軽く引いたのを覚えている。
そしてそれから季節は流れて。




「瀬能くーん!」


夏には一緒に学校のプールに入り浸り。




「瀬能ー!」


冬は成田の親父さんに連れて行ってもらってスキー三昧。




そして気付けば…。




「圭ちゃん!」


俺はこの成田洋介と同じ高校に入学して…名実共に“幼馴染み”という腐れ縁を繋がれてしまっていた。


しかも…何が許せないって…。


「…デカい声で呼ぶなよ成田。恥ずかしい。」
「ごめんごめん!ってかなんで俺の名前呼んでくれないの、圭ちゃん?」
「なんでお前を名前で呼ばなきゃなんねぇんだよ。」
「だってー俺と圭ちゃんの仲でしょ?」


ニコニコと笑う顔は…昔の面影をかろうじて残している程度。
可愛かったヤツの顔はこの数年ですっかり大人の顔付きになっていて…。


「…どんな仲だよ。」
「主従?」


俺の極近くにあったヤツの顔は…俺から離れてはるか上にいってしまっていた。
…要するに。
ガキの頃はあんなに小さくて可愛かったくせに今のヤツは長身のイケメン君とやらに変貌していて年中女子共に黄色い声で騒がれている。
一方の俺はといえば…成長期のくせに身長は中学の途中で止まってしまい今は標準チョイ上に乗るかどうかって程度。
外見だってお世辞にも大人顔とは言い難く…つまり、昔とあまり変わらずな感じだ。
だから、無性に…


「マジムカつくな、お前。」
「え!なんで!?」


デカい体をグッと折り曲げて顔を寄せる成田が相当ムカつく。
そのくせ長く長く付き合っているおかげで情も半端ないから困るんだ。


「ね、圭ちゃん?部活なんにするか決めた?」


ブーたれてる俺を気にせず話し出す成田を見上げて首を横に振る。


「んじゃ一緒にバスケ部入んない?」
「断る。」
「即答!?」
「お前とずっと一緒かと思うだけでウンザリだ。」
「えー愛されてるなぁ、俺!」
「なんでそうなる。」


距離を開けて歩いているのにいつの間にか隣にピッタリとくっついてくる成田。
今でさえこんななのに…。


「クラスも違ったことだし。楽しい学校生活が送れそうで俺は嬉しい。」
「お昼は一緒に食べようね!迎えにいくし。」
「断る。」
「いやいやこれだけは譲れないから!」


わふわふと尻尾を振り続けるヤツを新しい教室に突き飛ばしてバイバイと手を振る。
それでもまだ戻ってこようとしているヤツに背を向けて俺は足早にその場を去った。

…全く。

親離れならぬ“俺離れ”…って俺も上手いこと考えたな…なんて苦笑いが出る。
満更外れじゃないその言葉の通りにヤツはガキの頃にあったあの一件以来、俺の側を離れようとはしない。
そして…実のところそれ以外にも俺達が離れられないってことにはちょっとした理由もあったりするんだ。

「瀬能圭一くん…今日から高校生、なんだね…ん?」
「はい。…え?」


入学式が終わり各クラスでの顔合わせ的なHRのあと俺は、成田には声をかけず学校を出てその足で住まいの近所のスーパーにバイトの面接で訪れていた。


「今住んでいるのは…成田さん、という方の…?」
「はい、実は…自分の両親が海外に転勤になりましてですね…自分は一緒に行きたくなかったので無理を言って友人のお宅でしばらくお世話になることになりまして…。」
「ほうほう。で、この成田さんという方がキミの身元保証人ってことでいいのかい?」
「はい。あ、成田さんにはバイトを始めるということはちゃんと話して了解とってあります。」


産まれて初めて書いた俺の履歴書をしげしげと見ながら店長さんがチラとこっちに視線だけを向けてきて。


「せっかく海外に行けるチャンスだったのに行きたくなかったの?」


そう言って首を傾げた。

まあ…普通に考えたらそうだよな。
海外なんてみんな行けたら行きたいっては思うだろうし?
しかしそれよりなにより…親の転勤に子供がついて行かないってのが他人的には一番怪しいと思うところなのかもな。

ふう、と小さく溜め息をついて。


「実は………自分、飛行機に不信がありましてそれで行くとかホントに…。それとあと……英語が苦手で…」
「ははっ!それ新しいね!面白いから瀬能くん、採用。」
「え?」


ニヤニヤしながら店長はソファから身を起こして何やらの書類に判子を押した。
そしてそれをこっちによこして。


「明日から来れる?」
「え、あ、はい…」
「んじゃあ明日くる時に、この書類のこの丸してあるところに成田さんに判子押してもらって、直筆のサインしてもらって持ってきて。あとキミ名義の通帳と判子もね。」
「あ、はい…」
「明日きたら誰かにまた声掛けてくれればいいからさ。じゃあ明日、待ってるからね。」
「は、はい!よろしくお願いします。」


立ち上がった店長のあとに続いて事務所を出て裏口から外に促される。
“待ってるよ”という言葉と大きな手に見送られながら俺は浮足立つ気持ちでその場をあとにした。


正直…ダメかと思ってた。
だって今の俺は住所は“(仮)”だし未成年なのに身元保証人である親もいないし。
でもラッキーなことにこうしてここで拾ってもらえて…。


「よし!明日からがんばるぞ!」
「圭ちゃん何してんの。」


上がっていたテンションがグッと下がる。
深い溜め息をつきながらその下げてくれたヤツを振り返って…。


「何でお前がここにいる。」
「何でってここメチャ帰り道じゃん!ってか俺の質問に答えて。」


なぜかご機嫌ナナメな様子の成田に向けて更に深い溜め息をついてみせた。


「…別にいいだろ。」
「よくない!教室行ったら圭ちゃんもういないしさ!ケータイかけても繋がんないし!もう、学校中探し回っちゃったってのー!」
「一緒に帰る約束なんてしてねぇだろ。」
「同じ家に帰るのに別々になることないじゃんか!」
「あのなぁ…」


更に更に更ー…に深い溜め息を成田本人に吹きかけて。


「めんどくさい。」


一言だけそう答えて俺はヤツにくるりと背を向けた。


「ちょ…ちょっと待ってよ圭ちゃん!」
「お前うるさい。お前めんどくさい。お前は俺の母親か?」
「ワンコちゃんです。」
「俺はネコ派だから無理。」
「圭ちゃん!」


まとわりついてくる成田を手でシッシと払うけどヤツは一向に離れない。
やっと到着した仮住まいの成田家の門扉を開いてドアを開けてその中に身を滑り込ませる…と。


バタン!


背後で大きな音をたててドアが閉まった。


「ドア、壊れるだろ。」
「圭ちゃんってば!」


振り返らず言いながら先に廊下に上がってリビングに入る。
しつこいワンコは極々側で俺の名前を呼びながら追いかけてきてついにはグッと詰め寄ってきた。


「マジしつこいぞコラ!いい加減キレる……」
「圭ちゃんが言わないからだろ!」


壁に背を押し付けられ頭上からヤツの顔が近付いてくる。
くそ…この身長差が増々ムカつく!
沸々と沸いていた言い知れないイライラが一気に積もってMaxに達した。


「てめ…っ…」
「おやお帰り。圭一くん、洋介。」


怒鳴る寸前。
気の抜けるような、場に合わぬのんびりな声がしてハッと我に返った。


「父さん!」
「おじさん!」


キッチンから出てきた声同様にのんびりとした人は…俺達の、この今の状態を見て目をパチクリさせて。


「チューでもするつもりなのかい?」


そう言って楽しそうに笑った。


「はっ!?」
「圭ちゃんがいいなら…」
「はっ!?なにお前バカなの!?」
「洋介、お前は本当に圭一くんが好き過ぎるね。」
「いやぁ…それ程でも…」
「照れるとこじゃねぇだろ!」


いまだに極側からどかないヤツの鳩尾(みぞおち)にグーパンを一発入れてどかすと俺は成田の親父さんに向かって頭を下げた。


「ん?」
「おじさん今日バイトが決まりました。」
「え!?なにそれ俺聞いてな…」
「お、本当?よかったね。」
「明日からなんですけどすいません…記入して欲しい書類がちょっとありまして…」
「明日からって何、圭ちゃん!」
「いいよ。どれだい?」
「これなんですけど…」


割って入ってくる成田を無視して話を続ける。
だが諦めの悪いヤツは俺の手にある書類を覗き込んでそれを読んでいるらしく。
バイト先の場所がバレちまったな…と内心舌打ちをした俺を見てヤツはニヤリと笑った。


「わかった。じゃあこれは書いて明日の朝渡すね。」
「はい。よろしくお願いします。」


もう一度下げた頭をおじさんの温かい掌がそっと撫でてくれて。


「あんまり無理しちゃダメだからね?」
「はい、ありがとうございます。慣れるまでの間ちょっとご不便かけるかもですが…」
「晩ご飯の時間が遅くなるのはヤだからね!」


優しいおじさんとの話に文字通り割って入った成田は俺の顔をジッと見て…頬を膨らますとデカい体をグッと反らしてなぜかドヤ顔をした。
そして。

「バイト終わる時間に裏で待ってるから。」
「お前マジしつこいな。マジウザ。」
「洋介、あまりしつこいと本気で嫌われるよ?」


ははっと笑うおじさんに苦笑いを向けながら俺は、このしつこい一生物のアホワンコの足の甲を力一杯踏みつけてやった。

新しく始まった生活はなかなかに大変で思った以上に楽しかった。


部活に入ってない俺は本当は早起きなんてする必要はないんだが…女手がないこの家で家事がまともにできる俺はできない男共のために毎朝朝食と弁当の支度をすることになっている。
ぶっちゃけて言えば。
この家でお世話になるって話しがでた時に唯一出された親父さんからの要望がコレだったわけだ。

両親が共働きだった俺んちでは長男である俺が小さな弟と妹達のために飯を作るのが当たり前になっていたから炊事は俺的にはなんの苦労もない。
だが…とにかく一番面倒なのが。


「圭ちゃん!」


…コイツだ、コイツ。


「そう呼ぶな。」
「えー?」


朝から晩まで…っても多少離れている時間はあるにはあるが、一日の内のほとんどの時間をコイツの相手で終わってしまうってことだ。
俺の自由時間は風呂・トイレ、寝ている間と授業中、そしてバイトの時間だけ。
学校で別々のクラスになったにもかかわらず休憩時間の度にこのアホワンコは俺のクラスに現れるしまつ。
マジで…コイツがめんどうでめんどうでどうしようもない。


「圭ちゃんトコさっき数学だったよね?次は生物だよね?」
「なんでウチのクラスの時間割り覚えてんだよ。」


…全く。
最近は本心からコイツは俺のストーカーなんじゃねぇかとかって思う。


「圭…」
「おい、成田!」


ニコニコ顔の成田の表情が一瞬ピリッとなる。
初めて見るようなそんなヤツの顔は…俺の方に向く時にはいつもと変わらぬニコニコに戻っていて。


「じゃあ圭ちゃん、またあとで来るね!」
「あ、ああ…」


らしからぬ引き際の良さに拍子抜けする。
ヤツが向かっていった先には数人のデカい男共が立っていて、何やら話をしたあとその集団はそのまま廊下の先に消えて行った。


「なんだ…あれ。」
「あの大型犬、瀬能の前以外では闘犬らしいぜ?」


いきなり声をかけられ驚いてそっちを見る。
すると机の横にはいつの間にか……確か、俺の斜め前の席のヤツが立っていた。


「ああ。初めましてになっちまうのかな?何せお前さんに話しかけようにも自由時間はだいたい成田に独占されてて声もまともにかけらんないからな。」
「はは…。」


苦笑いを浮かべる俺にそいつはスッと手を出してきて。


「結城だ。よろしく。」
「瀬能だ。こっちこそよろしく。」


軽く手を握って離すと結城は俺の隣の机に寄りかかってさっき成田が出て行ったドアの方に視線を向けた。


「なにその闘犬って。」
「あ?ああ…俺のダチがアイツと同じバスケ部なんだがよ。入部初日にアイツ、先輩方と一悶着あったんだって言っててな。」
「は?なんだそれ?」
「暴力チョイ有りだが両成敗ってことでお咎めナシで一応カタはついたらしいんだが。」
「……なんだそれ。」


初めて聞く話に呆然。
…つーか…なんだそれ?
俺の前ではアイツいつもあんなだけど?


「…マジで?」
「らしいぜ?俺もお前とここで話してる姿しか見たことねぇから最初は信じらんなかったけどな。」
「いや俺はまだ信じらんねぇけど…」


初めて聞く成田の裏の顔?に疑惑の念が浮かぶ。
…なにアイツ。
俺の前でだけあんなニコニコ顔なのか?
いやいやそれは置いといて、じゃあ今の集団て…?


「結城、もしかして今の…」
「いやわかんねぇが、もしかしたらって気はする。」


サッと血の気が引く。

真相を確かめるべく立ち上がった俺が結城の制止を振り切って教室を飛び出すとそれを追うかのように授業開始のチャイムが鳴り出した。

廊下に散っていた生徒達が自分の教室に戻り始める中を逆走してさっきの…成田と共に消えたあの集団を探し始める。
…俺としたことが。
引き際の良さに呆然としちまってアイツにあの集団との関係とか聞くのを怠った。
俺の前ではいつもあんな感じだからまさか俺以外のヤツの前では…なんて夢にも思ってなかった。

駆けてる足を止め窓から身を乗り出して辺りを見渡す。


「…いない…」


上級生の呼び出しで…しかも同じ部ならやっぱ、だよな?
思い浮かんだバスケ部の部室の場所を脳裏に描いて走り出す。

確か体育会系の部室は…グラウンドのネットの裏にある第二グラウンドの奥、だったか?

上履きのまま外に出て体育の授業中の集団の横を走り抜ける。
途中でウチの担任に見つかって制止されたけど…そんなのはもちろんシカトだ。


土埃を巻き上げながら走り続けて目指す先の部室の棟に到着。
二階建てのプレハブが奥に向かって伸びていてそのドアの前に各部のプレートが貼り付けられている。
ズラリと並んだその中からバスケ部を探す…けど。


「どこだよ!」


数が多すぎてわかんねぇ!
バスケ部どこだよ!
焦る気持ちを押さえながら駆けて見回る…と。


ドンッ!


どこからか大きな音がしてワーワーと騒ぐ声ががうっすらと聞こえてきた。


「成田!?」


その音を頼りに建物の一番奥まで走り“バスケ部”と書かれたプレートを見つけた俺はそのドアを力一杯引き開けた。



ドカッ!



「え?」


開いたそこから飛び出したのは……ヒト?

慌てて駆け寄り倒れているヒトを見…て。


「なりた、じゃない…」


成田とは似ても似つかない白目をむいてるソイツを地面に戻してさっき開いたドアの方に歩いて行く。
うるさかった音はいつの間にか消えて静かになっていて…不安な思いでその中を覗き込んだ。


「…成田、いるのか…?」
「圭ちゃん?」


背後からの声に驚いて思わず後ずさる。
ん?
あれ…?


「なんでお前!?」
「圭ちゃんこんなトコで何してんの?」


きょとんとしてる成田を見上げて俺は目をパチクリ。
え…?
だって…あれ??


「コラーッ!お前らこんなところで何をしている!?」


混乱してる耳に聞き慣れた担任の怒鳴り声が聞こえて反射的にキョロキョロと見渡す。
すると突然手首が掴まれて。


「圭ちゃん、逃げよ?」
「はっ!?」


強く腕を引かれたかと思うと次の瞬間には俺の足は自分の限界を軽く越える動きを強要された。

日頃の運動不足がたたって…いや、あの人間離れした成田の脚力のおかげで俺は初めてなくらいに呼吸を乱している。


俺達が逃げ込んだのはどうやら第二グラウンドの体育用具倉庫のようだった。
薄暗いその中はなんか全体的にザラザラとした手触りで…ってこれ多分土とか砂とかなんかなんだろうな。
とにかく色んなもんが汚くて色んなもんがメチャクチャに突っ込まれてて……どうしようもなく汚ねぇ場所だった。


「…埃っぽいねここ。」
「ああ、全くだ……じゃねぇよ!成田、お前大丈夫なのか?」


狭い汚い倉庫の奥に向かっていくヤツの背中に声をかければ俺の声が聞こえないのかこのアホワンコはなんかをブツブツ言いながら更に奥に向かって進んで行く。
俺はそのあとを追ってヤツの後ろについて。


「おい!聞いてんのかよ!」
「ん?聞いてるよ。俺は平気だよ。」


くるりと振り向いたヤツは奥の小窓から差し込む光を浴びながらいつもの顔で笑った。
でも今日の俺はいつもみたいには流さない。
そのニコニコ顔には騙されない。


「お前、先輩らとなんかあったんだってな。」


少し低めの声で問うと倉庫内を見渡してた成田は一瞬動きを止めてからまたその続きを始めた。


「おい、聞いてんだろ。」
「別になんもないよ。」
「なんもないってことねぇだろ。でなきゃあんな風に上級生が来たりとかなんて…」
「だからー、なんもないし。」
「成田!」
「つーかさ!」


食い下がる俺の声を成田の強い声が遮る。


「前に俺が圭ちゃんにバイトのこと聞いた時、圭ちゃん答えてくれなかったよね?なのに俺は圭ちゃんの質問には言いたくないことも全部答えなきゃなんないの?」


こっちに背を向けたまま成田の声だけが倉庫の中に響く。
俺は…初めてのヤツからの言葉に返事を返すことが出来なかった。


「俺は圭ちゃんが好きだから圭ちゃんの言うことは全部聞いてきたよ。好きだからずっと側にもいたし。でもだからって…俺になんも教えてくれないとかそーゆーのは…ちょっと普通に傷付くよ。」
「……。」


いつも側にいるからそんな風に思ったこともなかった。
いつも俺の側から離れないから…そんなこと感じないだろうってどっかで勝手に思ってた。
でも…そう、だよな。


「…悪かった。」
「え?」


光に照らされてる成田は怒ったような顔付から急に目をまん丸く見開いて、謝った俺をガン見する。


「バイトのこと言わなかったのも聞かれても返事しなかったのも、悪かった。」
「え…ちょっと圭ちゃん??」
「お前に言うと絶対邪魔されると思ったし絶対毎日バイト先に入り浸るだろうしって思ったから言いたくなかった。」
「あの…ハッキリ言われた方が余計に傷付くんだけど…」
「は?だってお前が言ったんだろ!教えてくれなかったって、たった今!」
「いや、だからね…」


心底困ったような成田の顔が笑える。
自然に緩む俺の頬に気付いたのか成田は顔を赤くして頬を膨らまして…まるでガキの頃みたいな少し拗ねたような顔付きになった。


「意地悪いなぁ…圭ちゃんは。」
「なんで。俺はお前が言ったから譲歩して…」
「そういうことじゃなくて…」


言いながら戻ってきた成田は俺の真ん前にきて俺を見下ろして黙る。
何事かと思って何らかの言葉を待ってると…薄暗い中でヤツは苦笑いをして。


「俺のセリフ、聞き流したっしょ?」
「は?」


…と、わけのわからんことを言った。


「なんで。聞き流してねぇだろ。お前の要求通りにちゃんと答えただろうが。」
「いやだから…そこじゃないから。」
「は?どこだよ!」
「…あのねぇ…」


憤る俺に更に渇いた苦笑いを向ける成田。
増々わけがわかんなくなって俺は段々とイライラし始める。


「わっかんねぇよ!ハッキリ言えよ俺がなんだって…」
「好きって言ったでしょ。」
「は?」
「俺、圭ちゃんが好きって言ったでしょ。しかも二回も。」


真顔で言われて今度は俺が目をパチクリ。


「そんなん言葉の“アヤ”だろ?」
「言葉のアヤなんかで男が男に好きとか言わないっしょ?フツー。」
「言うだろうよそんくらい。」
「だからその好きとは違うんだってば!」


眉を寄せる俺に向かってガチな溜め息をつく成田。
なんだかそんな様子もムカつくな。


「つーかそんなことよりさっきの…」
「圭ちゃん、キスしていい?」
「は?」


聞き慣れない単語に脳ミソが固まった瞬間。
見上げていたヤツの顔がグンと近くなって…。


「…っ……」


俺の唇に…
成田の唇が…重なった。



初めてのキスが…男とだなんて。


しかもそれが…この成田だなんて。


これは…夢か?
しかもかなり残念な…



…じゃなくて!



「んっ、は…テメェ…なにしやがる!なんの嫌がらせだっつの!」
「え!?マジで言ってんの圭ちゃん!?」


怒る俺を見下ろして青ざめる成田。
ヤツは自分の顔を掌で隠して…のけ反って。


「キスしたのにこんな扱い!?」
「キスとか言うな!こんなのカウントに入るかよ!事故だろ!」
「だからぁ…」


掌を外した成田の顔は泣きそうだった。
すると……
眉を寄せる俺を見下ろすヤツの目が、段々とすわってきて…。


「こうなったら、実力行使だ!」
「おっ、おい!?ちょ…っ…!」



ボスッ!



背中への強い衝撃に一瞬息が止まった。


目を開け…る……と、
………ん?


「おい。」
「ん?」
「こら成田。お前一体なにし…っ!?」


いきなり股間が鷲掴みにされて驚いて身体を起こす。
…けど…。


「おい、マジで…っ…テメェ…」
「動けないっしょ?」
「やめろ…!」
「気付いてないわけじゃないよね?圭ちゃんはもう腕力で俺には勝てないよ。」
「っ……くっ…」


カチャカチャと音がしてすぐにそれがズボンのベルトのものだと気付く。

…って、コイツ…マジか!?

両手首が頭の上で一掴みにされて腕の動きは封じられてて下半身にはヤツの体が乗っかってる。
そのおかげで身動きひとつ出来やしねぇ!


「マジ…ってめ…」
「圭ちゃん…ホラ、わかる?俺の手の中、圭ちゃんのがビクビクしてるよ…」
「るせっ!だ、まれ…っ…!」
「すご…ぬるぬるしてきた…」


パンツの中に入ってきたヤツのデカい手が俺のモノを握って上下に扱き始める。
コンナ知識くらい俺にだってある…けど、実際誰かに触られるとか…ナイから…っ…。


「キモチいい?圭ちゃん…」
「んっ…く……やめろ…っなり、た…」
「俺の、わかる?」
「!」


太ももの辺りに硬いのが押し付けられてそれが成田のモノだって気付いて一気に体温が上がる。


「やめ…って、も…なりたっ…マジ…」
「俺の本気、わかってくれた?」
「わ、わかっ…で、出るっ、バカ、やめっ…!」


俺のを扱く手が早まり太ももに擦り付けられている成田のモノの滑る速度も早まっていく。
いつの間にか外されていた両腕をヤツの首に回して強くしがみついて…。


「ん!はぁ…っ!」
「けい…っ…!」


きつくつぶった瞼の中でチカチカといくつも星が弾けた。

同時にパンツの中が生暖かいぬるぬるとしたものでぬめり出して……即座に我に返る。


「くっそ!この…成田っ!テメェ!」
「え!そこはまだ余韻に浸るとこでしょ!?」


自由になった腕を振り回して上に乗ってるヤツを殴りつけるとデカい体がいい具合にぐらついた。


「どけ!」
「ちょっ、危な…っ!」


起き上がって突き飛ばし、後ろに倒れたヤツを睨みつけながらズボンとパンツを引き上げて出口に向かう。
グズグズになってるパンツの中が気持ち悪ぃけど…やっぱノーパンってのもなぁ……じゃなくて!


「おい成田!テメェなんのつもりだよ!こんな嫌がらせとかよ!」
「まだ言う!?どんだけ鈍いの圭ちゃん!」
「俺は確かにお前のコトうぜぇとか思うけどこんなことされるほど…」
「うぜぇとか言うなってー!だから、違う!嫌がらせじゃなくて…」


振り返ったすぐ前にきてた成田は俺を見下ろして苦い顔をした。


「嫌がらせじゃないよ。好きなの、わかる?」
「はぁ!?」
「好きなの、圭ちゃんが。圭ちゃんを俺だけのものにしたいの。圭ちゃんの身体中にキスしてコレしゃぶって、圭ちゃんのココに…俺のを挿れたいって思ってんの。」


俺の前とケツの穴を布越しに触りながら言って成田が抱きしめてくる。
熱い吐息と共に吐き出されたそのセリフにボツボツと鳥肌が立った。

コイツ…
何言ってんの!?

返事をしない俺をどう思ったのか成田はスッと腕を引いて体を屈めて。


「ごめんね圭ちゃん。言うつもりなかったんだけど…」
「言うつもりなかったら一生黙っとけよ…」
「その間に誰かに盗られちゃったら困るから無理。」
「あのなぁ…」
「圭。」


いきなり名前を呼ばれて身体がビクつく。
強く掴まれた腕が引かれてヤツの胸の中に引き込まれた。


「なん…」
「嫌なら本気で拒んでよね。俺は拒まれても告り続けるし拒まれてもやるけど。」
「なに言ってんだお前。ヤロー同士とかキメェよ。」
「そう?でもさっき圭ちゃんは俺の手でイッたんだよ?キモかったらまず勃たないんじゃない?」


耳元に寄せられたヤツの声が低くそう呟く。
言葉を失った俺を見下ろしたヤツは黒い笑みを浮かべると…口の端を上げながら俺の唇にキスをした。

結局。
成田が上級生に呼び出されてそれを見に?確認しに?行ったはずなのに。
なぜか俺は…
汚ねぇ用具倉庫の中で、いつも俺に纏わりついていたアホワンコに力づくで襲われてイカされて…挙げ句ストーカーチックな告白をされた。

…有り得ねぇ…

ファーストキスも初めて他人にされるエロいことも…全部がこのアホワンコだなんて。


悶々、モヤモヤとしている俺の視界の中にいるヤツはこっちを見て“いつもの”ワンコ顔で笑った。


「…圭ちゃん顔怖いよ。」
「なんでお前は笑ってられんだよ。」


そう言って…別にコイツは何も思うことなんてないんだな、と気付く。
コイツはいつもと変わらないんだ。
いつもと同じく俺の側から離れず俺といつものように過ごすだけだもんな。

…変わったのは…
コイツをアホワンコだと思い込んでた俺だけだ。
コイツはワンコなんて可愛いもんじゃねぇ。
コイツは…


「圭ちゃん…好き。」


コイツは…俺に発情してるエロワンコなんだ。


深い溜め息をついてフイッと顔を逸らす。
するとヤツは俺のアゴを指先で掴んで自分の方に向けて。


「可愛くないなぁ。」
「ああ、可愛くねぇよ。さっさと嫌いになってくれ、頼むから。」
「なるならとっくになってるよ。何年好きだったと思ってんのさ。」
「知らねぇよ。知りたくもねぇし。」


どこまで行っても平行線な俺とコイツの主張。
…てか当たり前だ。
コイツが俺をどう思ってるかは知らんが俺はコイツをただの金魚のフン程度にしか思ってねぇわけだし。
そいつに好きとか言われても…しかも男だし。

今日のコトを思い出して俺はまた身震いをした。


「とにかく、俺の断りなしに触んな。俺の許可なしに近付くな。」
「ヤダって言ってるでしょ。近付くし触るし。」
「マジコロス。」
「本気でヤならそのくらいして。でなきゃ俺は止まんないよ。」


テーブルに両肘をつき組んだ手の甲にアゴを乗せる成田。
その目はもう…俺の知ってる成田のじゃなくて…。


「お前が闘犬ってのはガチだったんだな。」


そう言って溜め息をついた視線の端でヤツは静かに笑った。




今日の学校でのナニガシのすぐあと。
職員室に呼び出された俺達とバスケ部の上級生達は揃ってその場で正座させられて…。


『今回のこの乱闘の…』
『首謀者はこの副部長ですよ!』
『なにを!?テメェ!』


生徒指導の先生の呆れ顔を見ながら俺は深い溜め息をついた。
…つーか。


『俺はカンケーないと思うんスけど。』
『いや、お前は微妙に関係してるんだな。』
『は????』


いきなりのわけわからん話にアホっぽい返事をしちまう。


『なんで!?俺はこの人達なんて会ったこともさ…』
『この乱闘の原因がどうやらお前さんだったらしいんでな。』
『はっ!?』


先生の言葉が俺には全く理解できない。
なんで?
…は?
つーか……。


『おい成田。この俺にことの全部を詳しく話せよ。』
『……いや。』
『その“いや”はなんの“いや”なんだ?話さねぇっつーなら俺はもう金輪際お前とは口利かねぇ…』
『バスケ部に入部した日にそこの副部長が圭ちゃんをマネージャーにするから連れて来いって言ったから。』
『はっ!?なんじゃそりゃ!?』


予想もしてなかった内容に思わず声が裏返る。
ムッとした顔で言ったきり口を噤んでしまった成田を横目にそのバスケ部のみなさんの方を向く。
すると奴らはバツの悪そうな顔をあちこちに向けて知らん顔を決めていた。


『…先生。この人達を尋問してもらってもいいッスか?』


俺のセリフに当の本人達は焦った様子に変わり互いに罪の擦り付け合いを始める。
そんで…自供した内容ってのが。


『…部の雑用…性処理込みの。』
『は?バカなのアンタ達。なんで男の俺が男のお前らの性処理しなきゃなんねぇんだよ。』
『本気で言ってんのか?ここは花のホモ校【白草学園】だぜ?』


なぜか胸を張って答えてる上級生達に本気で鳥肌が立った。


『…成田ん家から唯一の徒歩圏内だから選んだのに…ここがそんな学校だとは…』


深い溜め息をついた俺は横で先生に怒られてる奴らを見ながら更に深い溜め息をついた。



「圭ちゃん、三年の加賀さんって知ってる?」


学校でのショッキングな事件?を思い出してたところで成田がそんなことを聞いてきて…。


「加賀?加賀哲也さん?」


つい最近知った名前を返すと成田はなぜか渋い顔付きで眉を寄せた。


「知ってたんだ…。」
「つーかなんでお前が知ってんだ!」
「いやいやそれは俺のセリフ!」


テーブルに身を乗り出した俺のすぐ側に顔を近付けて成田が唇にキスをしてきた。
…だから…。


「テメェ…マジコロスって言っただろうが!」


ヤツの襟をグッと引き上げて力一杯絞めつける。
涼しい顔をしたままのヤツは俺の手を握ってそれを離させると懲りずにまたキスをして。


「そんなことよかなんで圭ちゃんが加賀さん知ってんのかが知りたい。」
「…なんかムカつくぜ。」
「もっかいキスするよ?」


すわった目を向けられて身の危険を感じた俺はヤツから離れて元いた席に座って加賀さんの日に焼けた男前の顔を思い出した。


「バイトの先輩。すっげ親切にしてもらってる。」
「マジで!?」


成田の驚きの表情を見ながらなんとなく…
マジで今日は初めてなくらいコイツの笑い顔以外を見てるな、と思ってなんか不思議な気持ちになった。


「実はね…部室で乱闘しようとしてたら加賀さんがきてさ。俺、飲み物買いに行かされてたんだよね。」
「は?なんで加賀さん…」
「ウチの部の主将だから。」
「はっ!?」


俺の知ってる加賀さんは…明らかに日サロで焼いてるチックな肌の色に明るい茶髪のチャラ男。
まさかそんな人が……?


「なんで!?あんなチャラ男が試合とか出れんの!?」
「いやいや…主将ってのは影のって意味らしい。なんかまとめ役的なかんじっぽかったな。」
「…それでまさか…俺の名前が出たからその上級生共を加賀さんが成敗してくれた…とか?」
「多分ね。」


言い終わって同時に黙る。



……結果的に。
今日と前回のバスケ部の件は今後一切、俺にかかわらないってのを奴らに誓わせて一応の決着がついた。
先生に目をつけられた奴らはもう成田に手は出せないだろう。
初日に乱闘騒ぎを起こしてブラックリストに載ってた成田もこの内容がちゃんと生徒指導の先生に伝わったおかげでお咎めナシの真っ白、まっさらに戻った。
なんかいいことばっかだな。

そう思いながら腕を組んでウンウンと頷いてると。



グッ。



いきなり腕が掴まれ引かれて立ち上がらせられた。


「んだよテメェ…」
「今日は父さん、出張で帰って来ないんだよね。」
「…だからなんだ。」
「だからさ…」


見慣れたヤツの、いやに大人びた知らない顔が近付いてきて…


「けい……っいてて!」
「ドアホ。調子に乗んな。」


その頬を抓って捻じり上げてやった。


「いって!マジいてーっ!」
「痛くしてんだから当たり前だ。…ったく懲りねぇな。」


赤くなった頬を涙目でさすってる成田はいつもの成田だ。
安心した俺はヤツに食後の片付けと明日の朝の飯炊きを命じて一人自室に戻った。

6―成田side

蛇口からジャージャーと流れ続ける水を見ながらぼんやりと考える。
…つっても考えるのは年がら年中圭ちゃんのことだけ。
朝から晩までこうして息をし文字通り“生きている”全ての時間に考えてるのは圭ちゃんのことだけだ。


「わかってんよ。俺はきっと頭がおかしいんだ。」


ぶっちゃけて言えば。
俺みたいなヤツが普通にその辺にいて誰かにこんな感じで絡んでたら相当キメェと思うしだいぶヤベェと思う。
“俺”を見知ってるヤツらは実際俺をそんな風な目で見てるんだろう。

だからどうした。
それがどうした。


「こんな開き直ってる時点でもう終わってると思うけどな。」


食器を洗い終わって明日の飯の炊飯予約も入れた。
全ての言いつけをし終わった俺は玄関の鍵を閉めてその足で風呂場に向かう。

薄暗い廊下を進み浴室のドアを開いて脱衣所で服を脱ぎ捨てる。
洗濯機の蓋を開けて自分の服を入れようとして…その中に圭ちゃんのパンツを見つけて迷わずそれを抜き出した。


「全く…もうちょっと気遣ってもらいたいもんだよね。」


風呂場のドアを押し開けて中に入りシャワーのコックを捻る。
お湯が温まるまでの間…手にした圭ちゃんのパンツに顔を埋めた。


「こんなとこ見られたら確実に引かれんな。」


勃起してる自分のモノを握って上下に扱きながら圭ちゃんのニオイを吸い込む。

ヤベェのはわかってるがやめらんねぇ。
こうして一緒に暮らすことになってから何度コレをおかずに抜いたことか。

硬いモノの先端から先走りがどくどくと溢れでてくる。
裏筋に這わせた親指の動きを速めながら…今日のことを思い出してみる。



柔らかかったな…圭ちゃんの唇。
想像してたよりずっと柔らかかった。

舌は熱かった。
想像してたよりキモチ良かった。

モノもちゃんと勃ったしちゃんとイッたしな。
想像してたより小さくて可愛かった。



「やっべ…やっぱナマ圭ちゃんは…スゲェ…」


思ってた以上に抵抗はされたけど…思ってた以上にシャットされたけど…。


「もう引けねぇや。」


限界間際にキた俺は顔を埋めていたパンツを外して自分のモノを包んでそのまま…射精。
ドクドクと脈打ちながら溢れ出るそれを…愛しい圭ちゃんのパンツに沁み込ませながら目を閉じた。



圭ちゃんを初めて見た時、その可愛さに心を奪われた。
あんな可愛いくせにやたらとケンカ慣れしてて強くて男っぽくて。
俺を助けてくれた圭ちゃんはとにかくカッコよくてとにかく可愛かった。

それから俺は圭ちゃんから離れなかった。
どこに行くにも何をするにも引っ付いていた。


出会ってすぐの夏に二人でプールに行った時、まだガキだったくせに俺は圭ちゃんの水着姿を見て初めて勃起した。
まだ“そーゆーこと”を知らなかったから、なんで勃ったのかわからなくて父さんに聞いた。
そしたらそれは“自然のことだよ”と言われてそれならいいかと思ってあんま気にしてなかったけど…なぜかソレは圭ちゃんと一緒の時にしかならなかった。


その冬、父さんと三人でスキーに行った。
白いスキーウェア姿の圭ちゃんは白銀に負けないくらいキラキラしてとても眩しかった。
とても可愛かった。
泊ってたホテルで一緒に風呂に入った時、初めて圭ちゃんの裸を見た。
俺と同じくらいの身長になってた彼の身体は見た目より細くて白くてしなやかで。
湯に浸かりほんのりとピンクに色付いた肌の上のピンクの乳首はたまらなく美味そうだった。
その夜俺は、一緒に寝ていた圭ちゃんの隣で初めて自分で抜いたんだ。


そして高校生になり俺の方が遥かに背も体もデカくなった今。
呼び方を“瀬能くん”から“圭ちゃん”に変え、その存在は更にまた俺に新たな刺激を与えてくる。


「…ヤベェ…触りてぇ…」


好き過ぎておかしくなってんだからしょうがねぇ。
いつだってどこでだって触りてぇよ。

さっきの…俺を見る圭ちゃんの冷たい視線を思い出して苦笑い。

無理矢理ヤるのは簡単だ。
学校でも…不本意ながら扱いちまえたからな。
力だけなら十分に勝てるが嫌われちまったら意味がない。
…俺は別に圭ちゃんに突っ込みたいってわけじゃない。
圭ちゃんを俺の物にしたいんだ。
だから無理矢理は、しない。


シャワーを終え体を拭き上げながら脱衣所に上がり圭ちゃんのパンツを洗濯機に入れる。
“自動”を選択した俺はスウェットの上下に着替えて浴室をあとにした。


階段を一歩一歩上がりながらゆっくり、じっくりと今後の作戦を考える。


「…って言ってもあの人俺が思ってる以上に鈍いからな。」


キスしたってのに嫌がらせとか。
俺にイかされたことだって……。

溜め息をついて圭ちゃんの部屋のドアの前に立ち…その場に座り込む。


「どうやったら…俺のこと、好きになってくれんのかな…」


ガキの頃からずっと考え続けていること。
圭ちゃんを好きになればなるほどその想いは強くなる一方で。


「圭ちゃん…マジで好きなんだよ…」


小さく呟きながら膝を抱き俺は深い深い溜め息をついた。

爽やかな朝。
少し冷たい空気を肺一杯に吸い込み大きく伸びをしながら校門をくぐって中へと進んでいく。


実に爽やかないい朝だ。
朝早く起きて飯の支度をしてやって弁当も作ってやったってのに…あのクソ野郎、部屋にいやしねぇ。
…連呼していた爽やかはどこへいったのやら。
くそムカつくイライラを募らせながら真っ直ぐ体育館へと向かった。

渡り廊下を進みスノコの敷いてあるコンクリの通路を渡って先にある体育館の前に立つ。
ホンの少し開いてる鉄製の引き戸から中を覗くと。



ガシュッ!!



その視界の先でタイミングよくクソ成田がダンクを決めた。


「…ただデカいだけじゃねぇんだな。」


リングから手を離して床に下りるなり投げられたボールに向かって駆け出すクソ成田。
ぐんぐんと上がっていくスピードはコートの中にいる誰よりも速く、アッと言う間にボールを奪うとヤツはまた敵軍に向かって走り出した。

そんなヤツの姿を見ながら俺は、さっきまでのムカつきも忘れてその場を離れ自分の教室に向かって歩き始める。

なんだか妙な気分だった。
俺の知ってる成田が日増しに知らない奴になっていく。
複雑な気持ちとヤツの分の弁当を抱えて教室に入り自分の席に座る。
腕を組んで目を閉じて…しばらくした後、授業開始のチャイムが鳴った。



一時間目が終わり…



二時間目が終わって三時間目になった。



四時間目に入ったってのにあの野郎!
休憩時間の間に来ねぇし弁当を取りに来いって俺のメールに返事もよこさねぇ!
どんどん募っていくイライラは授業終わりのチャイムと同時に爆発して。



「成田!テメェいい加減にしやがれよ!!」


まだチャイムが鳴り終わってもないのにヤツのクラスのドアを力任せに引き開け、勢いそのままにヤツに向けて怒鳴りつけた。
シンと静まり返る隣のクラス。
そんな中で苦笑いを浮かべながら立ち上がった成田は足早にこっちに向かってくるなり俺の手をとった。


「んだテメェ!気安く触んじゃねぇよ!」
「ハイハイ、行くよ圭ちゃん。」
「“ハイハイ”じゃねぇよ!」
「あーゴメンゴメン。」


怒鳴る俺に苦笑いを向ける成田に手を引かれて廊下の突き当りまでくる。
そのまま階段を上がろうとするヤツの手を振り払って俺は。


「なんなんだよテメェは!」


Maxの怒りを込めてヤツを睨みつけた。


「圭ちゃんここじゃまともに話せないでしょ?」
「はあ!?話なんてする…」
「とにかく腹減ったからお弁当食わせて欲しいんだけど。」
「テメェ!バカにしてんのかよ!?」


飄々としてるその姿と言い草がイチイチ癇に障る。
持っていた弁当箱を振り上げた俺はそれをヤツに向かって投げつけようとして…!



ガシッ!



その箱をヤツに奪われた。


「落ち着いて、圭ちゃん。」
「ふざ…」
「メチャ目立ってるから。」


言われてハッとして周りを見れば…遠巻きだけど確実に野次馬が群れを成しつつあって。


「行くよ。」


捕まれた腕を引かれて俺は早足で階段を駆け上がった。

前を駆ける成田の背中が微かに揺れてる。
クソ…
コイツ笑ってやがる。
なんだか無性に恥ずかしくて俺は言いたかった文句も全部噛み砕きながら階段を駆け、上がり切って。


「到着!」


屋上に通じる踊り場に到着するなり大きく息を吸い込んだ。


「テメ…」
「圭ちゃんきっと俺の顔なんて見たくないだろうと思ってさ。」
「はぁ!?」
「だって昨日はそんな勢いだったじゃん。」
「ったりめーだろうが!」
「だからさ、腹減ってたし圭ちゃんの顔も見たかったけど…我慢して先に来たんだよ。」


言い終わった成田はその場に座ってあぐらをかき足の上で弁当の包みを開いた。
カパッと開かれた蓋の中は…ものの見事に偏った俺の作った弁当で…。


「んなもん食うなよ…」
「なんで?俺、圭ちゃんの作ってくれる塩卵焼き好きだよ。」
「そういうんじゃなくて…」
「大好きな人が作ってくれたものを粗末にするとか無理だし。」
「だからそういうこと口にすんな。」


ガツガツと食ってたヤツはアッという間に平らげると元の通りに弁当の蓋を閉じ掌を合わせた。
いつもと変わらぬヤツを見ながら俺はなんとなく気が抜けて…短く溜め息をついてその場に腰を下ろした。
するとすぐに視線を感じてそっちを向けば極側に成田の顔が…。


「ちか…ッ…」


言い途中の言葉ごとヤツに奪われてしまった。
開いていた唇から舌が滑り込んできて俺のに絡みつく。
舌と唾液を吸ってくるヤツの舌からはほんのり卵の味がした。


「ん、クソ成田…」
「キスならいい?」
「わけねぇだろ!」
「キスするだけ!それ以上はしないから!」
「クソ!バカ!シね!」
「じゃなきゃ…もっと、するよ?」


ゆっくりと言った成田の低い声に嫌な予感を感じる。
昨日イヤって程わかっちまったからな…俺とコイツの力の差って奴を。
深い深い溜め息をついた俺は…ジッとみつめてくるクソ野郎を憎々し気に睨みつけて。


「キス、だけだ。」
「男に二言はない?」
「あ?当たり前だろ!だからお前も…」


言いかけた唇に噛みつくようなキスがされ意表を突かれた俺は成す術もなく床に押し倒されてしまった。


「やめ、…っ!」


必死に押し返すけどちくしょう!
ビクともしねぇ!
なんかこのパターン、覚えがあるな………じゃなくて!


「テメェ!調子に乗んじゃねぇよ!」
「キスならいいって言ったばっかっしょ?二言はないんでしょ?」
「は!?だからって…」
「キスしかできないんだから大目にみてよね。」
「なり…っ」


言い終わる前に再び唇が塞がれて言葉も息も全てが奪われる。
あまりの激しさに息もまともにできないまま俺は、ヤツが身体の上からどくまでずっと“キス”という名の拷問を受け続けた。

永遠続くと思われてた学校でのヤツからの拷問は昼休みだけで終わった。
昼終了のチャイムと同時に解放されてその足で教室まで送り届けられて。
そのあと、授業が終わって放課後になっても成田は俺の前に現れなかった。

…なんなんだ、一体。

現れないのは構わない。
てか一向に構わないしありがとうだ。
だが…
どうも裏があるようにしか思えないんだよな。

ブツブツと言いながら帰宅路につき、成田家の玄関のドアを開けた。


「ただいま…」


恐る恐る開けたドアを閉めて電気のついてる家の中に声を掛ける。
いやに静かで…なんか映画とかでよく見るような…ヤバそうな雰囲気に知らずに握った手に力を込めた。


「おい…いるのか?」


声を掛けながら靴を脱いで廊下に上がる。
リビングの前から中に向けてゆっくりと顔を出すと…。


「わっ!」
「うおっ!?」


背後からデカい声がかけられた。
振り向かなくてもわかるクソ成田。
怒りに震える拳をヤツに向かって繰り出し…て、さっくりと捕まりまたキスをされた。


「クソ、この…っ」
「“クソクソ”言わないの。圭ちゃんの可愛い声が穢れてヤダしー。」
「可愛くねぇし!つかとっとと嫌いになってくれよ、マジ!」


先にリビングに入ったヤツの後に続いて入る。
キッチンのテーブルに鞄を置いてる間に成田はリビングのソファに座りそのまま倒れ込んだ。
視界の端で見てた俺はその不自然な動きを気にしながらキッチンに向かう…けど。
やっぱり気になって。


「おい。飯の支度くらい手伝えよ。」


声をかけながらそっちに足を向けた。
俺の声に返事をしないヤツ。
近付いても…ピクリとも、しないとか…。


「おい…」


伸ばした手でヤツの肩に触れ…



ガシッ!



「捕まえた。」
「テメェ!騙しやがったな!?」


捕まれた腕が引かれてソファに押し倒された。
もがく腕が上に伸ばされ両手首を一掴みにされる。
昨日の体育用具倉庫でのことが脳裏に浮かび俺はそれこそ必死に抵抗した。
……が。


「クソ!テメェなんでこんな馬鹿力なんだよ!」
「俺だって必至だよ!圭ちゃん暴れすぎだから!」


揺すり続けてる身体がヤツのデカい体に押されて身動きが封じられる。
ならばと振り上げた足もヤツの長い足に押さえ込まれて。


「約束が、違うだろ…っ…!」
「ちゃんと守るよ。キスしかしないから。」


言ったすぐからヤツの右手は俺のシャツのボタンを外し始めた。


「この…っ!嘘つき、野郎!」


はらりと開いたシャツの中に成田が顔を埋めた。
そしていきなり、俺の乳首を舐めたかと思うとそれを唇で強く吸い上げて…。


「くぅ、う…!」
「ちょっとジッとしてて。キスするだけだから。」
「は!?なに言って…」
「圭ちゃんの可愛い乳首にキスするだけ。」
「なにっ、いぁ…っ!」


舌先で転がされたそれが唇で吸われて歯先で噛まれる。
初めての感覚に身体が震えた。
ヤツの舌はまるで生き物のように動きながら丁寧に乳首の根元から先端、突起の頂上までを余すところなく舐めまわしていく。


「やめろ、テメ、っ…やだ…!」
「ん…そんなこと言って…乳首、こんなに硬くしちゃってさ…?」
「ひぁ…っ!?」


ピンと張った粒が強く噛まれて変な声が出る。
それに気をよくしたのか成田はそればっかをずっと繰り返した。
…てか!


「テメ、同じトコばっか…、痛ぇよ!」
「ん、じゃコッチ…」
「わ…そうじゃなく…って、やめろ…ての!」


逆の乳首にスイッチしたヤツはさっきみたくまた舌と唇を使って行為を続ける。
ってか、だから…!
そうこうしてるうちに両手首を押さえてるヤツの手が少し緩み始めた。
その隙に逃げ出そうと全力で腕を動かして…!



ギュッ。



外れた、と思った腕はなぜか背中で一掴みにされた。
…ん?
なんで?
その経緯をなんとか思い出し…てると。


「ここも、キスするだけだから。」


成田の声がずいぶんと下で聞こえて…
クッと起こされた俺のモノが…根元から舐め上げられた。


「うわっ!?お、お前、なにして…!?」
「コレ、キスするだけだから。」
「はぁ!?ちょっ、とおまぇ…ぁ…っ!」


腹の下に見えるのは間違いなく勃ち上がってる俺のモノ。
それを、成田が…舌で舐め上げてはその口の中に入れ…て!?


「あぁっ!?あ、やだ、んっ、ぁ!」


じゅぶじゅぶと、今までの人生でまだ聞いたことないようなエロい音を立てながらフェラチオをし始めた。


「あっ、あっ、やだ、っ!やだ…ッ!」


首がもげそうな程に振りながら抵抗するけど成田はそんなのお構いなしに俺のをしゃぶり続ける。
こんなことまで、初めてコイツにされるなんて…!
嫌だ嫌だと抵抗してたはずなのに…気が付けば俺はバカみたいに上ずった声を上げながらされる行為に溺れていた。
気が付いたところで背後で腕を拘束されてるんだからどうもできねぇし。
そう…思ってたら。


「圭ちゃん、もうとっくにベルト外してるよ?」
「は…?」
「腕をちょっと縛ってたの。わかんなかった?」


そういえば…乳首をしゃぶられてる間、ヤツはずっと俺の腰の辺りをいじってたっけ。
その時にベルト外して背中で縛ってたのか。
……とか!
感心してる場合じゃねぇだろ、俺!
身体を起こそうとソファに腕をつく。


「もうイきそうなんじゃないの?」


視界に入った成田は張り詰めた俺のから口を外して先端の窪みをゆるゆると弄り始めた。


「このままで辛いのは圭だと思うよ?」


舌なめずりをしながら成田は時折その窪みに舌先を捩じ込んでは僅かに刺激を与えてくる。


ちきしょう…
こんな……


怒鳴ってやりたい!
ぶん殴ってやりたい!


ちきしょう!



ちきしょう!!



「どうする?」
「ん…くっ…」
「キモチよく、なりたいっしょ?」


俺を見上げる成田はムカつくくらいに余裕で…ムカつくくらいエロく舌を動かす。


グッと唇を噛み締めて、きつく目を瞑って…俺は。


「ち…きしょ!クソ!なりた、っ、イかせろっ!」
「はいよ。」


負けたようなムカつく気持ちは…ホンの数秒とかからず快感に変わった。
高められ、嬲られ、まさぐられて俺は…
意識がなくなるまでヤツにイかされ続けた。

「なあ。その後どうなんだ?」



数学の授業が自習に変わり担当から託されたという小テストが終わった今、教室の中は“自習”という名の自由時間になっていた。


「どう?とは?」


ざわざわどころか大騒ぎの教室の端で俺は、つるんでいる結城にそんな質問をされその意味がわからずそのまま質問を返した。


「“どう”ったら決まってんだろよ。闘犬のことだよ。」
「闘犬?ああ…成田か。生きてるよ。つーかさっきも来てただろ。」
「ああ、見たけど…そういうことじゃなくてよ。」
「…なんだよ。」


ニヤニヤしてる結城の顔付きが気になる。
コイツがこんな顔、してる時はだいたい。


「エロい話か。」
「わかってんじゃん。」


正解!と言わんばかりに親指を立てる結城にうんざりしながらその指を逆向きに曲げてやった。
なのにヤツはそれでもめげずに俺に超な笑顔を向けて。


「瀬能さ、成田とセックスしたの?」


…と、言った。


深い、
深ぁーい…溜め息をついてから俺は机に置いてるノートを丸めてそれでヤツの頭を思いっきりぶっ叩いて。


「するはずねぇだろ!アホか。」
「またまたー!」
「ヤロウ同士でセックスとか有り得ねぇだろ。キメェな。」


本気の俺の溜め息に結城は少し笑って…そっから急に真顔になって。


「マジで?」


そう言いながら顔を覗き込んできた。


「マジに決まってんだろ。」
「なんで?」
「“なんで”の意味がわかんねぇんだけど。」
「いや、だってさ…?」


伸ばされたヤツの指先がピッとこっちに向けられて。


「瀬能、最近お肌つやつやじゃんかよ。」


言うなりヤツは今日一番の笑顔をこっちによこした。


「は?お肌とかお前は女子か。」
「やや、そうじゃねぇよ!お多感な俺ら男子は定期的に抜かねぇとお肌が荒れたりデキモンできたりするんだぜ?」
「へぇ…」
「なのにお前、マジ肌艶もいいし血色もいいしさ?その顔色は絶対にお盛んなことを物語ってるんだってば!」


熱く語る結城を横目に俺は顔を窓の外に向ける。

まあ…
なんつーか…

セックスはしてねぇがほぼ毎晩、イかされはしてるわな。
そんなことを思いながら俺は夕べの行為を思い返してみる。


夕べは…何回イかされたっけ?
最初の数日間は屈辱でしかなかった行為も…回数を重ねるごとに慣れてくるっつーかなんつーか。


『圭…』


耳に響くヤツのやたらと甘ったるい声も聞き慣れたし、身体を這い回る指にも舌にも…まあつまりは“行為”そのもの全てにすっかり慣れてしまった自分がいるんだ。

嫌がらせだと思っていたがどうやらそれは逆でヤツは本気で俺が好きらしい。
それに気付いたのはつい最近なんだけど。
実際、そう言われたところでやっぱキメェって気持ちがほとんど。
だけど…
まあぶっちゃけ、キモチイイから別にいいかなとも思ってる。


相手がクソヤロウのクソ成田ってのが気に入らねぇが。


ヤツの愛撫はたまらなくキモチよくてヤツの甘えたような声はムダに心地好い。


風呂上がりに向かう俺の部屋の前で膝を抱えて座ってるヤツの姿はリアル大型犬だ。
俺の姿を見るなり立ち上がって背後につき、ドアを開けるのを待ってるヤツのさまが笑える。
…ドアを開けるなり俺の手を引き連れ込んでからはまるでオオカミだが。


風呂上がりの身体を喰らうように貪るヤツ。
どんだけ飢えてんだ?
そう思ってると急に顔を上げて不安げな顔をするヤツ。
よくわかんねぇうちにアイツのペースに巻かれて、乱されて喘がされて夜が更ける。
そんな毎日を、初めてのあの日からずっと続けてるんだ。


『圭…』



耳に残るヤツの声。
それを遮るように掌で覆い…深い溜め息を吐き出すのと同時に授業終了のチャイムが鳴った。

10

学校から真っ直ぐバイト先に向かってそのまま作業に没頭する。

だけど…ちょっとした合間に気付くとヤツのことを考えてる自分がいる。
違うな。
ヤツとする“エロいコト”だ。

思い浮かぶのは暗がりに浮かぶヤツの恍惚の顔付き。
ヤツは散々俺をイかしたあと、ぐったりとしている俺を見下ろしながら自分でやって、自分でイくんだ。
細められた目が俺の身体の隅々にまで向けられヤツは荒い息を吐き出しながら俺の名を呼び、自分のモノを扱いて俺の身体に自分のネツを吐き出す。
それを眺めながら俺は…ゆっくりと眠りにつくんだ。



『いらっしゃいませー!』



従業員の声にハッと我に返り俺も続いて声を出す。
ふいに人の気配を感じて品出し中の状態から顔を上げると…。


「…なんでテメェがいるんだよ。」


そこには。


「部活が早く終わったからお迎えにきたんだよ?」


今話題の?クソ成田が立っていた。

下から見上げるヤツはムカつくほどデカくてムカつくほどいい笑顔で。
立ち上がった俺は、立ち上がっても尚高いヤツの顔を見上げて舌打ちをした。
そんでもめげないヤツはニコリと笑って手近の飲料を取るとなぜかそれにキスをして。


「もう終わりの時間でしょ?裏で待ってるから一緒に帰ろ?」


そしてまたムダに笑ってから俺に背を向けレジへと向かって行った。
つーか…


「なんでアイツはいつもムダにフェロモン垂れ流してんだろな。」


呟いた俺は腕時計に目をやりバイト終了の時間を確認してから片付けを始めた。
出し切れなかった商品をバックヤードに戻し、事務所に入ってタイムカードを押す。
そっから更衣室に向かい着替えを終えると俺は足早に店を後にした。
薄暗い通路を進み従業員専用出口のドアを押し開け……



『まさかこんなところで会えるなんて!』



その先から聞こえたオンナの声に、ドアを開け途中の手を止めた。

…この声…聞いたことあるな。
あれだ、レジの女子だ。

いつもより高い声になんとなく自分のこのタイミングの悪さを感じたが…ここは出口なんだから仕方ないよな。
そう思って押し開けようとして。


『白草の成田クン、ですよね!?』


イヤという程知ってるヤツの名の登場に再び手を止めた。


『え…と?』
『先日の合同練習でお世話になった青蘭のバスケ部の者です!』
『ああ…青蘭女学院の?』
『ハイ!この前の練習で成田クン、メッチャかっこいいってウチの部で超注目でしたよ!』


キャッキャッとはしゃぐ声に軽く苛立つ。
つまりこのレジのダレソレさんは、先日のウチのガッコと自分とことでやった合同練習の時にアノ成田に目を付けて…こうして偶然会ったもんだからテンション上がりまくりってわけか。


『こうして会えるなんて思わなかったです!お家、この辺なんですか?』
『うん、まあ…』
『私もこの近くなんですけど、良かったら一緒に……』
「中野ぉ!お前んち隣の駅だろ!」


いきなりの背後からの声に驚いて振り向く。
するとそこには…先日どうやらお世話になったらしい、バスケ部の陰の主将・加賀さんが立っていた。
彼はパチンとウィンクをすると俺の手からドアノブを取って押し開けて。


「中野ぉ!早く帰んねぇと親父さんに怒られるんじゃねぇの?」
「えっ!あ!ホントだ!ヤバいこんな時間だ!」


スマホで時間を見たダレソレさん…中野さん?は成田に超イイ笑顔を向けてからペコンと頭を下げてヤツの手を握った。


「成田クン、次回の合同練習楽しみにしてますね!加賀さんお先に失礼しまぁす!」


名残惜し気に手を解くと彼女はバイバイと成田に手を振りながら駅に向かって走っていった。
その後ろ姿がみえなくなると…。


「瀬能、お前も早く帰れよ?」
「え!圭ちゃん!?」
「ハイ。お先に失礼します。」


加賀さんにペコンと頭を下げた俺は成田の横を素通りして何事もなかったかのように歩き出した。
するとすぐに隣にヤツが並んできて。


「圭ちゃん、今日の晩ご飯はなに?」


それこそ何事もなかったかのようにしゃべりだした。
短く息を吐いた俺はそんなヤツを見上げて。


「あの子に作ってもらえばいいじゃねぇかよ。」


低く言ってヤツの足の甲を力一杯、思いきり踏みつけてやった。

11

成田家に着いた俺は親父さんの留守をいいことに晩の飯の支度をバックレてそのまま風呂に入った。

もちろん腹は減ってる。
だけど…なんか成田の顔を見ながら飯なんぞ食う気にはならなかった。

さっきのあの、中野さん?
あの話を聞いてからなんかよくわかんねぇけどムカムカする。
ドア越しに聞いてたから成田の顔はわかんねぇけど…戸惑った声はしてたけど。


「なんだよ。ちゃっかりオンナにモテてんじゃねぇかよ!」


そういえば昔もそんな話し聞いたことあったな。
…誰かが言ってたっけ。


『成田も瀬能から離れりゃまともに彼女作れんじゃんか!』


その言い草がまるで俺が悪いみたいに聞こえて俺はそう言った奴をぶん殴った記憶がある。


「ありゃ、あながち間違いじゃなかったんだな。」


呟きながら俺はシャワーのコックを捻って湯を止めた。
バスタブに張った湯船に浸かって目を閉じて…なんか色々と考えてから上がって風呂を出る。
ガラスの折り戸を押し開けて脱衣所に上がり濡れた身体を拭きながらふと視線を上げる…と?


「…のヤロウ!」


鏡に映った俺の鎖骨のチョイ上辺りにうっすらと赤い痕があった。
朝は気付かなかったが…これは間違いなく、アレだろ。


「クッソ成田!マジでクソだなあいつ!」


舌打ちをして、拭き上げた身体にスウェットをまとう。
風呂場と脱衣所の電気を消してドアを開けると。


「…呼んだ?」


さっき罵ってたヤツが苦笑いをしながら立っていた。


「呼んでねぇよ。」
「聞こえたよ?クソクソ言ってたっしょ?」
「………」


それには答えずヤツを置いてその場をあとにする。
だけど案の定その後ろにはヤツがぴったりとついて来てて。


「ついてくんなよ。」
「だって俺の部屋、二階だし。」
「じゃあ先に行けよ。めんどくせぇな。」
「足が痛くて早く歩けないんだもんショーガナイっしょ!」


二階に上がり切ったところで言われてなんとなしに下をみると。


「なんだよその足。」
「んー?なんかがガンッって落ちてきた感じ?」


ヤツの足の甲が丸く青紫になっててほんのり腫れていた。


「ドジやらかしたんじゃねぇの?ダッセ!」


言い放って俺は開けたドアをヤツの目の前で力一杯に閉めた。
暗い部屋を歩いてベッドにつき、ばったりと倒れ落ちる。
そして…ふと。


「あれ…?」


帰り道でアイツの足の甲を思いっきり踏みつけたことを思い出した。

慌てて起き上がり部屋のドアを開ける。
だけど今日に限ってそこにヤツはいなくて。


「なんでいねぇんだよ!」


走り出した俺はそのままの勢いで階段を駆け下り中から音のする風呂場のドアを開けた。
電気が煌々と点いている脱衣所の奥にあるガラスの折り戸を強く押して中に入ると、そこには…頭を泡だらけにした成田がビックリ顔で座ってこっちを見てて。


「なに、どうしたの圭ちゃん?」
「なんだよ!お前、なんなんだよ!」
「は?いやそれ…俺が聞きたいんだけど?」


文句を言おうと口を開きかけた目の前でシャワーが出される。
反射的によけた俺をよそにヤツはお湯を頭から被って泡を洗い流し…。



キュッ。



コックを捻って湯を止めた。
そしてそのまま立ち上がると腕を伸ばして俺に触れ、引き寄せるなりびしょ濡れの懐に収めた。


「なにすんだよ!濡れるだろうが!」
「いやいや…そこは我慢してよ。」


目の前にあるヤツの胸がドキドキと音を立てている…ように感じる。
実際聞こえてるわけじゃないがなんとなくそう思った。


「圭ちゃん?」
「…んだよ。」
「足痛いからさ、晩ご飯作ってくんないかな?」
「は?なんだそれ!」


いつものように飄々としてる成田の声に、渦巻いてるモヤモヤが消えていくのを感じる。


「できればチャーハンがいいです。」
「なんで敬語?」


俺を離した成田はなぜだか物凄く嬉しそうな顔をしてよこして。


「そのあとで…圭ちゃんを腹一杯食わせてくれると嬉しいな。」


満面の笑みを浮かべた成田を見上げて俺は、青紫になってるヤツの足の甲を遠慮なく力一杯踏みつけてやった。

12

成田の風呂に怒鳴り込んだあと。
冷静になった俺は抱き締められて濡れたスウェットからパジャマに着替えてその足でキッチンに入った。
腕まくりをしながら冷蔵庫を開けて玉子と鮭の瓶詰を取り出し冷凍室から凍らせていたご飯を出してレンジで解凍。
ボウルに玉子を割りほぐしその中に解凍したご飯を入れて軽く混ぜ合わせ、熱していたフライパンにそれを流して……としていると。


「あれっ!?」
「…るせー。」


風呂を上がったヤツの嬉しそうな声に舌打ちをしながら作業に没頭。
そうしてる間も背後にぴったりとくっついたヤツは俺から離れようとはしなかった。


「成田、皿。」
「はいよ。」


出来上がったそれをヤツが持ってきた二人分の皿の一枚にだけ山盛り盛る。
ジッと見ていたヤツはそれをテーブルに持っていきすがら食器棚から小さめの皿一枚と銀のスプーンを二本取り出した。
…なんていうか…。
こういう時にアイツの中での“俺”の特別感ってのをイヤってほど感じてしまう。


「超ごちそう!激嬉しい!」
「はぁ?ただのチャーハンだろ。」


大皿から小皿に俺の分を分けながら成田はチラとだけ俺を見てから口元を緩めて。


「“俺”がリクエストした“大好物”の鮭チャーハン、だよ。」


どこか嬉しそうにそう言ってから正面の俺の席に小皿によそった“成田の大好物の鮭チャーハン”を置いた。
間違いではないが…なんとなく気に入らねぇ。
俺がこうしてわざわざチャーハンを作ったってことも…
それがヤツの大好物のモンだってのも…
それにヤツが気付いて…喜んでるってのも全部が、だ。

デカめの舌打ちをしながらその場を離れた俺はリビングに向かい電話台の下の棚から蓋つきのケースを取り出して戻り椅子に座る成田の横に立った。


「足、出せよ。」


言いながらその場にあぐらをかいて座り持ってきたケースのフタを開ける…が、椅子に座ってるヤツは微動だにしない。
訝しみながら見上げるとヤツは切れ長の目をまん丸に見開きその目で俺を凝視した状態でフリーズしていて。
“への字”に結んでる唇やらそんなん色々諸々があまりにも面白過ぎて。
不覚にも俺はプッと吹き出してしまった。


「ひどっ…なに…」
「お前の方がひでぇよ!なんだよそれ…その顔…」
「顔がひどいとか…」


笑いながらヤツの足に触れグッと引っ張りあぐらをかいてる腿の上に乗せる。
するとヤツは急に押し黙るとごくり、と喉を鳴らしてから俺の頬にそのデカい掌を添えた。


「…んだよ。」
「えっ…や、なんつぅか…」


言いながらゆっくりとヤツの顔が近付いてくる。


「…おい。」
「うん…」
「“うん”じゃねぇ…」


ヤツの鼻先が俺の鼻先に触れヤツの顔が少し傾く。
この…感じ、は。


「テメェ…キスしようとしてんだろ。」
「…あのねぇ。」


苦笑いをした成田はそれでもめげずに顔を近付けてきて…俺の唇に自分のを重ねた。
一度触れて…もう一度触れて離れる。
焦らすような動きにその作戦通りに焦れた俺は離れたヤツの唇に自分のを重ねて同じように離れてやった。
するとヤツは離れた俺の後頭部にそのデカい掌を添えるなりグッと引き寄せてきて。


「なにそれ…中途半端に引かないでよ…」
「はぁ?そりゃお前だろ…っ…」


文句を言い途中の唇にキスをしてきた。
触れるだけのキスを何度かしてからヤツは俺の腿に置いていた足を引き抜きその足を軸にしながら椅子から立ち上がるとキスをしながら器用に床に腰を下ろした。
更に近くなったヤツの顔は…なんつーか。


「テメェ…ムダにまつ毛長ぇんだよ…」
「はっ?」


久々に明るいところでみたヤツの顔は…なんつーかホントに“キレイ”だった。
今まで気にしてなかったし眼中にもなかったが…こうしてまじまじと見てみると色んな発見がある。
まつ毛は長ぇし、鼻は高ぇし目元は爽やか?だし。
アゴのラインなんかもすっきりしてるし…って。


「…なんなんだテメェは。」
「はっ?さっきから圭ちゃんなんか色々考えてる?」
「考えてはねぇ!ただお前の顔見てると色々ムカつくんだよ!」


そう、なんかわかんねぇけど色々ムカつくんだ。
なんでそう思うのかは全くわかんねぇ、それがまたムカつく。
ただ…
さっきのバイト先でのアノコト?
あれ以来…なんか気が収まらないとゆーか…なんというか。


ぐっ。


俺の腕に触れていたヤツの手に急に力がこもる。


「なんだよいきなり!」
「…圭。」


突然の“名呼び”にドキリとする。
ヤツがこう呼ぶのは…エロいことしてる時のどさくさ紛れの時だけだから。


「テメェ…」
「圭がイライラしてるのはさっきのバイトの裏口でのことが原因?」


ギクリ。

ん?
…なんで“ギクリ”?
自分の反応に“?”を投げかけてるとヤツは。


「もうさ、俺我慢するのやめるわ。」


と、短く言うなり立ち上がり俺の腕を掴んで強く引いた。


「いっ、てぇな!なにしやがんだ…」
「ほら立って。」


立ち上がらせられた俺は文句を言う間もなく持ち上げられ、あろうことかそのままヤツの肩に担ぎあげられた。
っつーか!


「テメェ!あぶねーじゃねぇか!」
「暴れんなって。」
「暴れるに決まってんだろ!この…っ!」


ヤツの肩の上でジタバタするがガッシリと抱えられてそれ以上の動きができない。
それよりも…
いつもより低めの声と俺のことを考えていないようなこの扱いに少なからず焦る自分がいる。
俺は…今日の今日までコイツに同じような扱いはしてもされたことはなかったから。


「成田っ、下ろせって…」


リビングを出たヤツは速度と雰囲気を変えずに廊下を歩き階段を上がり始める。


「本気で怒るぞっ、テメェ…」
「あんま暴れないでって言ってんだろ。落ちたらどーすんの。」
「だったら落とせ!今すぐ落とせ!」


わめく俺を無視して階段を上がり切ったヤツは俺の部屋…を素通りして自分の部屋の前に立ちドアを引いて中へ入った。


カチャン。


後ろ手にドアが閉められ鍵がかけられる。
初めて感じる身の危険?みたいなものを感じていると。


どさっ!


薄暗くてよくわからないけど多分、ベッドに下ろされたんだと思う。
やっと自由になった俺は即座に腕をついて起き上がりその場から逃げようと今きた方に身体を向けた。


シャッ!


同時にカーテンが開けられ薄暗かった部屋に月明かりが差し込み中の様子がわかるようになる。
ベッドから立ち上がった俺はドアに向けて走り出しノブに手をかけて鍵を外し…。


「圭?」


背後からの声にその手を止めた。

なんで…俺の手は動かないんだ?
もう鍵は開けたからこのノブを回すだけなのに?

自分で自分のことがわからず“?”が浮かぶ。
そうしてるうちに背後に立ったヤツの腕が俺の身体に回されて。


「逃げないの?」


低く言ったその唇が俺の首筋に触れた。
少し冷えた空気にヤツの熱い息が伝わりその舌が首筋に熱を落とす。
なんか…
なんだ?
いつもと違うこの感じ。


「さっき言ったよね?俺、もう我慢しないから…今こっから出ないと犯すよ?」
「テメェは…いつもそうやって俺を騙すんだな…」


絞り出すような声に反応してヤツの動きが止まる。
俺は小さく息を吐きながらその場で振り返って…月明りを背負ってるヤツの顔を見上げた。


「お前は…俺が“いい”って言うまで抱かないって言ってたよな?」
「……。」
「なのになんで急に犯すとか言ってんの。この嘘つきが。」
「圭…」
「最初ん時だってそうだろ?キスしかしないって言ったくせに結局フェラはするは俺にぶっかけるは…マジ信じらんねぇんだけど。」


言うだけ言ってヤツからの返事を待つ。
逆光で表情はわからないが成田は静かにひとつ息を吐いてから俺の身体に回してた腕を解いて。


「…好きなんだ。」


ひとことだけそう言った。


「はぁ?つーか好きならなにしてもいいのかよ。」
「だってしょうがないじゃん。」
「はぁ?なにが?なにがしょうがないんだよ。」
「だってそうでもしないと圭ちゃんは俺が言ってること本気にしないでしょ。」


さっきまでの感じがいつもの成田に変わり俺はホッと一安心。
だから…ってんじゃないけどこの際だから、と。


「だから何度も言ってるよな。俺はお前の気持ちなんか知らねぇし受けるつもりもねぇよ。だけど…お前が俺を本気で好きなんだってのは理解した。」
「“理解”はしたけどでもそれを真剣に考えてはくれないんでしょ?」
「当たり前だろ!俺もお前も男なんだぞ?わかってんのか?キメェし!」
「なに言っちゃってんだよ。もうキスもエロいコトも全然平気じゃんよ。」


呆れたような成田の声に苦笑いが出る。
図星、だからな。


「それにさ?」


ずいっ、と顔が寄せられヤツの唇からからかうような小さな笑いが出て。


「圭のそのイライラ、さっきの娘が原因だと思うよ。」
「あん?」


ヤツの言葉の意味がわからず瞬きを数回。
その間の沈黙の意味をわかってるのかヤツはからかい度を更に上げた様子で。


「それってヤキモチだよ?」


発せられた言葉に俺は一瞬言葉を失った。


「…………は?」
「自覚ないんだね?」


クスクスと笑ったヤツは離していた腕を再び俺に回しグッと抱き締めてきて。


「だからもう…我慢しなくてもいいかと思って。」


そう言った唇を寄せ俺の唇に重ねてきた。
何度か啄まれて止まっていた思考が動き出す。

ヤキモチだ?
なんだそりゃ?
それじゃまるで…?


「…っ、なんだよそれ…っ」
「なに…?」
「それじゃまるで…俺が…っ…」


“それじゃまるで、俺がお前を好きみたいじゃねぇか!”


そう言おうとした唇はヤツに塞がれ吐き出すための息は全てヤツに奪われてしまった。

13ー成田side

正直、半々だった。


さっき俺が言ったこと。
“圭ちゃんが俺を好き”ってやつ。

ぶっちゃけ当てずっぽう。
半ば賭けみたいなもんだった。



初めて圭ちゃんを襲って無理矢理イかせたあの日。
そこから始まった俺と圭ちゃんとの攻防戦。

あの時点で俺は彼にとってゴミ以下、クズ以下、人ではないキモい変質者くらいの存在だったろう。
まあ…そうだよな。
長年くっついていたオマケ的存在のヤツがイキナリ自分を好きだと言って断ったら襲ってきたんだもんな。
これが女子相手なら捕まってもおかしくないって内容だし。


そっから始まって次はキス。
“キスしかしないから”
そう言ったのは当然圭ちゃんに構えさせないため。
甘く見てる訳でもなめてるでもなく俺は圭ちゃんの性格をとっても良く理解してる。

こう言えばこう思う、
こう言えばこう考える。

長年付き合ってきたからこそ、圭ちゃんのことを把握してるからこそ俺はああ言った。

“キス”を了承してもらった俺は彼に触れられるというスペシャルな特権を駆使して彼に触れまくった。
触りたいと思っていた肌に唇で触れ、舌を這わせた。
“違う”と言われてもこれはキスだと言い張りとにかく彼の全てを余すところなく唇で味わった。


正直、もっと抵抗されると思ってた。
殴られ蹴られはたまた…なんてことも考えてたけどそれは意外なくらいにスムーズに進み面白いくらいに簡単にその先に進んだ。

“俺とスルエロいコト”

早々に順応した圭ちゃんはソレに慣れソレを受け入れて尚且つ楽しむようになっていた。
最初こそ屈辱的な行為と快感の狭間で苦しんでいるような様子で声を圧し殺していた。
それがあっという間に可愛らしい声で鳴き甘い喘ぎを溢すようになり…最近ではイかせまくった最後の方にはその潤んだ目で俺をみつめて恥ずかしそうに俺の名を呼んだりしている。

…これを言ったら“嘘をつくな!”と、ぶん殴られそうだから言わないけど。

つまりは…
今は圭ちゃんは俺に触れられることに抵抗はなくむしろ可でキスもエロいことも可。
俺が思ってる以上に俺に気を赦しているようだった。


そして今日。


圭ちゃんのバイト先での偶然の出来事。
あれはマジにラッキーだった。
それを圭ちゃんが聞いてたってのが最高の展開。
きっとあれは神様が俺にくれた人生最初で最後のご褒美だったんだと今も思ってる。
そのおかげで俺は今までなんとなく感じてた“圭ちゃんが俺をどう思っているか”ってことの確証を得た。

なんでそう思ったか。
答えはこの、俺の足の甲に出来たどす黒い圭ちゃんからのかかと落としのあと。

きっと昔の圭ちゃんなら俺とあの娘のあの話を聞いてても普通にドアを開けて出てきて尚且つ厄介払い的な感じで俺と彼女をくっつけようとしてただろう。
でも今回は…こうして俺に攻撃を加え、部屋に籠ってしまったのにそっから飛び出してきて風呂場に駆け込んできてまで俺に“ゴメン”を言いにきた。
…実際は言われてないけど。
そして俺の要望にこたえてチャーハンを作ってくれてしかもそれが俺の大好物の物とか。

それら全てを踏まえ、考えた結果。
俺の脳は“圭ちゃんは俺を好きなんだ”ってとこに落ち着いたんだ。



◇◆◇◆◇◆◇



「んぅ…っ…ぁ…」


ベッドに横たえた身体に覆い被さり唇を重ねる。
いつもしているこの行為も今日はなんか少し違うように感じる。
触れた唇を離して角度を変えてもう一度重ねて右手の親指を添える。
それを唇の隙間から滑らせ可愛い犬歯に当てて下にそっと下ろして口を開けさせた。


「舌、出して…」


言いながら自分のを滑り込ませて油断してた彼の口内に侵入。
すると圭はそれに自分のを寄せぎこちなく触れてきて…てか、こうして俺の声に素直に反応してくれるのが嬉しい。
いつもなら逆に口を閉じられ舌を噛まれたりするから。
嬉しさのあまり勃起してる股間をついつい彼のに刷り寄せてしまい、力一杯押し退けられてしまった。


「て、テメェ今…っ…」
「ああ…えっと、圭ちゃんに踏みつけられたとこが痛くてつい…ごめんね?」


苦笑いを浮かべながら言うと後ろ暗いところのある彼はグッと押し黙ってしまう。
見下ろすその様子があまりにも新鮮で俺はニヤニヤを圧し殺しながら屈み可愛い圭ちゃんの耳元に唇を寄せて。


「ねぇ?圭のしゃぶりたいんだけど…俺足痛いから脱いでもらっていい?」


耳たぶを甘噛みしながら言うと圭ちゃんは一瞬息を飲んだ。
そのまま甘噛みを続け右掌をパジャマ越しに彼の胸の上に置いて触れるか触れないかくらいの距離で動かす。
時折触れるそこは少しずつ小さな突起を現し始めて…。


「ねぇ?乳首、舐めてもいい?」


言いながら俺はパジャマの上着のボタンを外した。
圭ちゃんはいまだフリーズしたままズボンを脱ぐ気配はない。
仕方なしに俺は先に脱がせたシャツの中に顔を入れ可愛らしく尖った乳首に舌を這わせた。


「んくっ…」


ビクリと震えた身体がふるふると震え始め感じてることを表す。
俺はそれを舐め、軽く歯先を当てながらパンパンに張ってる圭ちゃんの股間を掌で包み込んだ。


「テメ、触るなぁ…」
「いい加減脱げって。もうびしょ濡れじゃんよ…」


包んだソレはパジャマを突き上げ尖った先端はすでにイヤラシい染みを作っている。
恥ずかしいんだか男としてのプライドなんだか…圭ちゃんは黙ったまま唇を噛み締めていて。


「全く…いてて……」
「!成田?」


足の甲を押さえながら顔を伏せると体の下から圭ちゃんが慌てたような声を上げた。
それにこたえず黙ってると。


する…


戸惑った様子の圭ちゃんはやっとお願い通りにパジャマのズボンとパンツを下ろしてくれた。
それに弾かれた完勃ちの可愛いモノがピンと彼の腹に戻る。
それだけ感じ勃起してる可愛い圭ちゃんを見下ろしながら俺は彼の両膝に両掌を添えそれを左右に割り開いた。


「すっげ勃起してるね…可愛い…」
「アホかテメェ…勃起が可愛いとか…っあぁ……っ!」


こぷこぷと溢れてくるモノの先端に舌を捩じ込み唇を寄せて先端を強く吸い上げると圭ちゃんはホンの数秒ともたずにイッてしまった。

14

なにがなんだかわからなかった。


わからないっていうか…なんていうか。
そんなことを考える間もなく俺は、いつものように“成田”という嵐に巻かれ翻弄されあっという間にヤツのペースに巻き込まれてしまった。

そして…
いつもと違うのは。


「圭…」


俺の身体を跨ぐように膝立ちしている成田が着てる物を脱ぎ捨てじっと見下ろしてくる。
窓を背負ってるもんだから顔の表情なんてわかんねぇけど…なんか緊張してるようなそんな空気が流れてきてて…。


「…好き。好き過ぎて…おかしくなりそう…」


小さく呟き成田がそのまま黙る。

“もうおかしくなってんじゃねぇか。”

いつもならそうつっこんでるとこだが…なんつーかそんな軽口叩けないようなそんな変な緊張感が漂ってる。


「圭…」


少し強張ったヤツの声に思わず構えてしまう。


「あ、ごめん。」
「あん?」
「俺スッゲ緊張し過ぎだわ。」


“ははっ”と笑ったヤツは小さく息を吐き出し…大きく息を吸って。


「…好きだよ…圭、…」


囁くように言いながら…俺の尻に指を這わせてきた。
…っつーか!


「おいおいおいおいおい!」
「うるさい。」
「お、お、おいって…!」


ジタバタしてる俺に構わずヤツは寄せた指先で穴を一撫でするとそのままソコをクッと開いた。
…ってか!!


「ちょっ、おいっ!テメェ、なにして…!」
「んなん決まってんだろ…」
「だから…っ…!」


ばたつかせてる足が取られグッと胸元まで押し上げられる。


「ちょっ、テメっなんだこの…っ」
「いいカッコ…」


割り開かれた足の間にはニヤけたヤツの顔。
それが見つめてる先ってのは…。


「かわいい…圭の穴、ピンク…」
「んなわけあるかっ!!」


必死に足を揺すりなんとか逃げ出そうと試みるが毎度のことながらそれは叶わず逆にヤツを興奮させてしまっているようだ。
ヤツはえらく酷いニヤけ顔になり。


「いいね。足振る度に圭の可愛いのが揺れて…なんかもう、めっちゃ可愛い。」
「…っ!?」


もう…
どうしたらいいんだか。


「…ってもう、いいよね?」
「はっ?」
「もう…焦らさないで。」


言われたすぐ後、返事をする間もなく尻にヤツの指が触れそして…その奥に…。


「て、テメ…っ…んん…!」
「大丈夫。もう入ってるから。」


言葉と同時にソコを襲う違和感。
開かれたソコから何やら太い長いモンがグッと押し込まれていくのがわかって。


「イっ!…ちょ、痛てぇ…ッ!」
「まだ一本目だよ。……暴れんなって。」
「はぁっ!?」



一本目!?


何だよ一本目って!?


何?


アイツって二本も生えてんの!?



イヤイヤ、落ち着け俺。
同じ人間なんだし何度もアイツのモノなんて見てるから……


…じゃなくて!!!!!!


「イテ、ェ……つってんだろーが!」


ドガッ!!!!



ぐちゃぐちゃな思考をなんとか戻しつつ必死に声を張り上げその名の通り“全身全霊”全ての力を振り絞って出した足がものの見事にヤツの顔面にヒットした。
前屈みになっていたデカい体がのけ反りそのまま後ろに倒れ落ちる。
それを確認した俺はソッコーベッドから起き上がると裸のまま駆け出し部屋のドアを力一杯押し開け転がるように廊下に飛び出した。

目の前には長く延びる廊下の木目。

床に突っ伏した格好の俺は首だけを背後に戻し開いたままのドアの先に目を凝らした。


しん…


真っ暗な部屋の中の様子は見えない。
けど…
中の気配?みたいなもんは全く感じられず。


…もしかして…?


「…まさか………死…」


不可抗力。
正当防衛。


そんな四文字熟語がぐるぐると頭の中を巡る。
すると。
ジッと見つめる先、真っ暗なそこでゆらり、と影が動いたと思った瞬間。



バサッ!



と!
身体に何かが投げつけられた。


「え、あ…パジャマ…」


俺がさっきまで着てたパジャマとシャツとパンツ。
それを見てた視線の先に人影が現れ瞬間身構える。
おそるおそる顔を上げると…まだ上げきらないってのにその人影…つまりはヤツなんだけど。
それはこっちには来ずそのまままた暗がりに戻っていった。
そして…


パタン。


ドアが閉じられ…
少なくとも俺が動けるようになり自分の部屋に戻るまでの間、一度も開くことはなかった。

(BL)これはきっと、恋じゃない。

(BL)これはきっと、恋じゃない。

♂×♂(BL) 幼馴染み同士の恋愛攻防戦。 受けを狂愛する攻めとそれを全力で拒否している… いた、受けとの色々な意味で変わっていく関係。 ※強い性的表現等はありませんが年齢制限を設けておりますのでこの要素となります。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 成人向け
  • 強い性的表現
更新日
登録日 2020-08-16

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted