透過、ふたりだけの
むしが、はっているような感覚がして、目が覚めた。みぎうで、ひじのうえあたりを、ひだりてでふれると、むし、ではなく、それは、よしかわさんの、ゆび、だった。起こしてごめん、という声がきこえて、ぼくが、よしかわさんの方を向くと、よしかわさんは、ベッドにはいったときとおなじく、ぼくのみぎがわにいて、あいかわらず、はんぶん、透明だった。よしかわさんを透かして、ぼくの部屋の本棚がみえた。いいえ、といって、ぼくは、いま何時だろう、と思った。二時だよ。ぼくの考えていることがすこしわかるらしい、よしかわさんが、湖の底に沈んでいるような口調で答えて、ぼくのみぎうでの、さきほどからふれているひじのうえあたりから、さらに、そのうすく透きとおったゆびをはわせて、にのうでにふれた。ひとさしゆびで、くすぐるみたいに撫でて、いたずらっぽく、つまむ。ぼくの、心臓の鼓動が、次第に、大きくなってゆく。よしかわさんの、吐息や、心音なんてものは一切、きこえないで、部屋のなかも、そとも、夜にしたって、いやに静かである。つけっぱなしにしているはずの、冷房の音も、しない。けれども、部屋のなかは、不快でない程度には、涼やかである。
ねむってもいいよ。
うん。
起こしてごめんね。
いいよ。
さわっていてもいい?
どうぞ。
うなずいて、ぼくは、よしかわさんと向き合ったまま、目をつむった。まぶたが閉じる瞬間、やさしく微笑むよしかわさんと、そのうしろの、本棚の背表紙が、うすぼんやりとみえた。輪郭だけがはっきりしている、よしかわさんのからだが、ぼくにおおいかぶさってきて、重みのないそれに、ぼくは、いつも、幾ばくかの切なさを、かみしめている。
透過、ふたりだけの