烏鷺

書き足す傍から暈されていく

とりとめのない善悪の境で

誰の見方にもなれないことにようやく気づく

明確な境界線...観念...価値観、倫理観、死生観

最初から、そんなものは無かったのかもしれない

信じて疑わずに持っていたものも

いま思えば紛い物だったのかもしれない

誰の味方にもなれず、

誰も彼も、誰かの味方になどなれやしないだろうという諦めが

なけなしの良心の前を、当てつけのように横切る

その時の、心臓をアイスピックで突き刺されたような痛み

その時の、正義も悪も隣り合わせだということを失念していた絶望

その時の、過去のすべてが反転して途端に込み上げてくる強烈な嘔吐感

空想の悪意に袋叩きにされて、何も考えられなくなってしまう

もう何も、考えたくなくなってしまう...

過去という複眼の前に晒されつづけて、傷ついてきたことにまた傷つけられてしまう

烏鷺

烏鷺

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-08-09

Copyrighted
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