烏鷺
書き足す傍から暈されていく
とりとめのない善悪の境で
誰の見方にもなれないことにようやく気づく
明確な境界線...観念...価値観、倫理観、死生観
最初から、そんなものは無かったのかもしれない
信じて疑わずに持っていたものも
いま思えば紛い物だったのかもしれない
誰の味方にもなれず、
誰も彼も、誰かの味方になどなれやしないだろうという諦めが
なけなしの良心の前を、当てつけのように横切る
その時の、心臓をアイスピックで突き刺されたような痛み
その時の、正義も悪も隣り合わせだということを失念していた絶望
その時の、過去のすべてが反転して途端に込み上げてくる強烈な嘔吐感
空想の悪意に袋叩きにされて、何も考えられなくなってしまう
もう何も、考えたくなくなってしまう...
過去という複眼の前に晒されつづけて、傷ついてきたことにまた傷つけられてしまう
烏鷺