絹枝の魔性7️⃣

絹枝の魔性 7️⃣

-源開-

 やがて、訪ねてきた僧侶を娘から依頼されていた樽川だと思い込んだ地主は、廃寺の復活を即決した。
 そして、暫くして樽川がいる筈の寺を訪ねて驚愕する絹枝を源開が組伏せ、容易く犯してしまった。
 「俺はお前たちが最も蔑んでいる極貧の小作人の息子だ」と、絹枝の顔に射精しながら高笑いして引導を渡すのだった。そのまま絹枝を軟禁して容赦なく蹂躙する合間に、身体中に奇っ怪な刺青だらけの男は、絹枝の太股に女陰に向かって舌を出す青い蛇の刺青を入れてしまい、「逆らうと身体中を刺青だらけにするぞ」と、脅した。絹枝の思惑はすっかり狂ったが、樽川の数倍も場数を踏んだ悪党の、やはり首を絞めて性交する男に、もはや逆らう術はなかった。 女は源開に恐喝されながら、生来の虚勢を取り戻すために、たちまちに悪賢い共犯者になった。樽川の話を信じた源開の思惑も、女が金を持っていないのを知って多少は狂ったが、二人は狂言して、実家の地主を恐喝して家財が傾きかねない程の金を手に入れ、金貸しを始めたのである。

 「財産分与だわ。私の当然の取り分よ」と、絹枝は嘯いた。女の入れ知恵で、源開は警察に通報する素振りを見せた女の兄嫁を犯した。その露悪な場面を隠れた絹枝が写真に収めたのだ。何故、これほどの悪行を絹枝は重ねたのか。


-絹枝と義兄-

 女学校一年の一六歳の絹枝と一つ年上の中学ニ年の義兄の夏休みの盛夏。うだる昼下がりだ。
 男がうなされた午睡から解放されて居間に行くと、形跡はあるが女はいない。何故か男は身体を固くした。暫く待っても変化はない。
 ある気配を覚えて男は廊下を辿り、奥の両親の寝室の板戸を密やか引いた。
 北窓の淫靡な薄陽のなかで、女の豊淫な尻が割れて剥き出しになっている。足元にスカートと下履きがよじれていた。上半身は黄色の半袖シャツを着けている。ふしだらに腹這いになった女が広げたおびただしい写真を見ているのだ。右の手が下腹部に伸びている。
 自慰をしているのだ。悟った男は沈黙を呑み込みこんで女の秘密の営みに食い入った。やがて、女が嬌声を圧し殺しながら次第に全身を痙攣させ始めた。その時に下半身を脱ぎ払った男が忍び寄り声を掛けた。
 悦楽の最中の女は指を股間に指し込んだまま動かない。男が傍らに取り残された女のスカートと下履きを丸めて、箪笥の上に放り投げた。
 両親の欲情の濃密な液臭が詰まった部屋で、女はゆるゆると上半身を起こして座り、両手で股を覆った。頂点が臍まで延びる隠しきれない陰毛がこぼれた。そして、まだ忘我を漂っているのか陽炎の様な女に、動じた素振りは微塵もない。ばらまかれた様々な淫靡の写真に虚ろに目を落としている。写っているのは男の父と女の母の秘密だ。男も既にその所在を知っていて、時おり忍んで、この淫乱な痴態を見ながら自慰をしていたのであった。
 「何をしてるんだ?」「自慰してたな?」「この写真はどうした?」「俺達も同じ事をやろう」
 「嫌」初めて女の唇が動いた。「この通りに俺の父親もお前の母親も獣だ。俺もお前も獣の子なんだ。同じ事をしたいに決まっている」「嫌」「犯すぞ」「やれるもんならやってみたら」
 咄嗟に思い付いた男が女の眼前で自慰をし始めた。「お前が見せてくれた返礼だ」「本物を見るのは初めてか?」自己愛に囚われた傲慢なこの女は、平静を装う様で屹立から目を逸らさない。やがて、男が女の顔に向けて精液を激しく乱射した。女が低く呻く。
「出したからもうしなくていい」射精を終えた男に挿入の気分はもはやない。 「今度はお前を楽しませてやる」男は女の薄い半袖シャツの上から乳房を揉んだ。ブラジャーをつけていない。茫茫とした女は形ばかりに抗う。シャツの上から突起した乳首を舐め回し、柔らかく幾度も噛んだ。女が呻きを圧し殺す。
 腕を上げさせると濃い腋毛が生えて濡れている。唇を這わすと女の息がいっそうに攪乱した。
 男が身体の反応から女の意図を見定めた様に、女の股間に顔を埋めた。長い蹂躙が続いてじわじわと女が溶けていく。溶解して情欲の肉塊となる。やがて、女の全てが陶酔して麻痺した。
 どれくらい弄ばれただろう。女は挿入そのものが嫌なのか、この様な設定で処女膜を放棄するのが疎ましいのかさえ、今となっては判然としない。女の感覚の全てが茫茫と快楽を漂っているのだ。
 何しろ女は男が言う戯れ言と全く同じ事を考え、男の挿入の場面を妄想して自慰に耽っていたのだ。度々、そうして女は昼下がりの性夢を迷うのだ。真夜中の悪夢の中でも女は義兄のこの男とさんざんに交わっていた。
 そうした性癖が身に付いたのは、やはりこの部屋で自慰をする男を盗み見たのが契機だ。去年の夏休みだった。写真を見て射精しながら、義兄が女の名を呼ぶのを確かに聞いた。男の男根が脳裡に張り付いた。その男根の侵入を妄想して自慰をし、佳境を漂泊するまにまに、女も男の名を呼ぶのである。
もはや、女は横たわり男のいいなりに股を開いている。男が女陰を指で翻弄しながら囁く。「俺達は兄妹だ」「そうよ」「だが、父親も母親も違う」女の淫液は尻まで濡らしていた。「そう」「まったくの他人だ」「そうよ」「お前がここに来たのは一〇の時だろ?」「そうだわ」「あの日、一緒に温泉にいったろ?」「そうよ」「お前のを見た」「私も」「したいと思った」「私も」「今、したいか」「入れて」
 たちまちのうちに、二人の性器は一つの生き物になった。
「初めてか?」「そうよ」「俺もだ」「痛くないか?」「全然」「気持ちいいのか」「凄く」「俺もだ」「これをしたかった」「私も」「夢で見ていた」「そうよ。これをいつまでもしたい」「俺達は結婚できないんだ」「でも、したい」「俺が結婚してもか?」「そうよ」「お前が結婚してもか」「そう。誰にも内緒で」「これは誰のだ?」「あなたの。兄さんのよ」
 「古代の天皇は兄妹で国を支配したんだ」「こんなことをしながら?」「そうだ。兄妹は最も信頼できる関係だからだ」「お願い。首を絞めて」「写真を真似るのか?」「母親と同じくやりたいの」
男は実物の女陰の初めての感触に神経を研ぎ澄ましながら、再び射精した。獣に変幻した女が呻いた。

 絹枝の母親は性根が淫乱な女だった。この後間もなくに、流れ者の訪問販売員について出奔したままに、生き方知れずになった。地主の義父は若い後妻を入れたが、樽川が失踪して、この女の不貞を絹枝が通告したから離縁された。それぞれ結婚した義兄と絹枝は、不埒な誓いの通りに機会をみて交わっていたが、義兄はある事故であっけなく死んでしまった。幼い男児と残された義兄の妻は、夫が存命中から義父と密通していて、地主の家の実権を握っていたのである。


-終焉-

 源開は若い頃からあちこちに子種をばらまいてきた。墓前で犯して絹枝の死後も囲っている若い女も、その一人なのだ。源開は自分の娘を犯し、蹂躙し続けたのだ。その女はあの貴子である。自分の娘とも知らずに、貴子に殺されたあの破戒僧が、源開なのである。

 樽川は空襲はない筈の北の国の地方都市で、すぐに首府を引き払ってきた二人の女と、街外れの畑のついた借家で同衾した。当面は女たちの名義で金貸しをして暮らすつもりだ。この次節だ、その筋に話を通せば新しい戸籍など簡単に手に入る筈だ、などと思案した。女達もほそぼそながらそれぞれ働きに出ている。嬉々として畑を作りながら、今が一番幸せだと言う。男はこの戦争は必ず負けると踏んで、その時節には女達に美容院を開かせる腹積もりだ。
 しかし、樽川の身勝手な思惑には誤算があった。その街には住民には秘匿されていたが、兵器に運用する化学物質を製造する大規模な工場があったのだ。ある日にそこを空襲して帰り際の機上のパイロットが、最後の一発を落とし忘れたのに気づいた。
 敗戦のあの日のほんの少し前の深夜に、遠くから微かに聞こえる警報などにはたかをくくって、いつものように性交していた三人を、この何気なく落ちてきた無駄な一発が直撃したのである。
 東京に残ったあの淫乱な女は、その少し前の春先に、首府の壊滅的な大空襲で焼け死んでいたが、遺体すら確認されなかった。

 絹枝が師範学校の学生だった頃に異人のある男と交わった。そこからこの異聞の物語が発火した。その男のことも書き置く機会が、何れにかはあるかもしれない。
 改めて言うが、衣絵はあの草也の兄嫁だ。源開は貴子に殺され草也が埋めた、あの僧である。


-終-

絹枝の魔性7️⃣

絹枝の魔性7️⃣

  • 小説
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  • ミステリー
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-08-09

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