絹枝の魔性4️⃣

絹枝の魔性 4️⃣


 男がウィスキーを含むと女もせがんだ。音を立てて喉を通して朦朧と女が言った。「熱いわ」「ウィスキーが溢れたみたい。ひどく熱い」「何処が?」「女の私に言わせるの?ひどい揉み療治師ね。こんなにしてしまって」「だから、何処が熱い?」「だったら、もっとウィスキーを飲ませて。口でよ」顔をよじった女に男が口移しでウィスキーを飲ませた。女が舌を絡ませようとする間もなく唇を離してしまう。
 「若いのに相当な人ね。悪党」男が乳房を握って揉む。耳を舐める。女の嬌声が浴場に響いた。
 「もうしてるも同然だわ。私に何を言わせたいの?。悪い人ね」「これがあなたの流儀なのね?焦らせて。苛めて。なぶって。こんなの初めてよ」「もう壊れちゃう」「もっと言わせたいの?」「言うわ。何もかも熱いの」「壊れちゃったの。溶けてるの」「お願いよ」
 再び仰臥した真裸の女陰に男がゆっくりと人差し指を差し込む。濡れそぼっている。密が溢れ出た。女が尻を激しく揺すって督促する。ゆっくりと動かす。さらに奥に進める。女の肉壁が指を捕らえた。絡み付いた。
 「駄目」「もう入れて」女が喘いだ。「堪らないの」「したいの」「お願いよ」と、女の語尾を嬌声に変えさせて遂に挿入した。女がけたたましく喘ぐ。

 挿入しながら女の戯れ言が続く。「するのは五年ぶりだわ。凄い。こんなの初めてよ。私の、緩んでない?絞まり具合はどう?」「夕方にここであなたが喋っていたおじいさんの隣に、いたのよ。わからなかった?見たのよ。あなたのこれを。大きくてビックリしたわ。見た瞬間に疼いたの。あの時からしたいと思ったの。おじいさんが、夜中はがらがらだ。時々やってるやつもいるって。やっちゃがりの姉様が待ってっかもしんねえぞって言って。あなたが、だったら今夜必ず来てみようって。聞こえてたのよ。だから待ってたのよ。あなたが出た後に、あのおじいさん、隣の部屋なの。濁ってるから見えないって言って、私のお尻やここまで触ってたのよ。婆さんが必ず昼寝するから昼間にやろうって。しつこいったら。擦りつけたり。油断も隙もありゃしないのよ。萎びたのをつねってやったわ」
 男は驚かない。見初めた女に聞こえるようにわざと言ったのだった。だが、黙した。「だから、さっきもあなただってすぐにわかったわ」「ずうっとあなたとするのを考えていて。濡れちゃって」「ここで待ってる時も弄ってたわ」
「私のをじっと見てたでしょ?膨れてなかった?汁が溢れてなかった?」「転んだ振りをしてわざと桶を転がしたのよ」「知らなかったでしょ?私の方がよっぽど悪い女なんだわ」男が得心した。「三八よ。熟れたのが好きなの?私も若い人が大好き。みんな死んじゃって。バカな戦争してるから」その言葉も気に入った。
 「骨休めなんて嘘なんでしょ?やっぱりね。あの人、恋人なの?」「その人が来るまでいっぱいして頂戴な。もう裏切っちゃったんだもの。構わないでしょ?私、ますます性悪な女だわね。でも、明日も、もう今日ね。今日もしたい。ただそれだけなの。いいでしょ?少し登ると小さな神社があるのよ」
 樽川は絹枝を迎える直前までの二日間、この女と性交していたのであった。


-毒草-

 昼下がりの朽ちた祠の縁で思いの丈に情交した樽川と紀子が、帰りの参道の石段を降りていくと白い蛇が現れた。「吉兆なのよ」と、女が声を弾ませる。そして、直に同宿のあの初老の男と出会った。男は参道をわずかにそれた杉の大木の下で、華麗な花をつけた野草の群生を見ていた。
 「こんなところにこれがあるとは」樽川が尋ねると、「これは大陸由来の不可思議な草なんだ」「薬にも毒にもなる」「これ位のを薬缶で煎じて杯で一杯飲むと万病に効く」「しかし、この一〇倍の量を同じく煎じて飲むと。半日後には死ぬんだそうだ。死体には何の変化も出ないから死因が特定できないという」「かの国では王朝の革命の際にはしばしば用いられたらしい」女が肩をすくめた。男はこの女が僥倖をもたらしたに違いないと、確信した。


-異人の女-

 やがて、「小便したくなったの?いいわ。このままでして。奥にして。あなたの小便で綺麗に洗い流して。あの女達も出て行った。今なら誰も入っていないわ。私もする」と、絹枝は声を憚らない。男が背後から挿入したまま放尿した。同時に女もした。猟奇をさ迷う肉欲はそのまま性交し続けた。
 そして部屋に戻り、再び、長い乱痴気を陶酔した。首を絞められながらせがむ女に射精した。女が濡れた男根にまとわりついて、一滴残らずにしゃぶり尽くす。やがて、長い息を吐き、飢えを満たした絹枝が餓鬼の姿態で横たわっている。ふしだらに広げた豊かな太ももの付け根の、陰毛を剃られて丸裸の紫の裂け目が、抜いたばかりの男根の形を残している。長い挿入で弛緩しきって閉じれないのだ。内側の朱の肉が姿を表している。そこから白濁した精液が、女の夫がつけたキスマークが点在する太股にまで、這い流れている。

 樽川はあの半島人の女の幻影を思い起こしている。
 微塵の未練も残さずに故郷を出奔して、次の年の夏だった。女達からせびり取った金などはとうに使い果たして、貧しい北の国を無頼に放浪し続けていた。
 空腹の身には残酷な程に猛々しい盛夏の昼下がりに、とある辺鄙な村外れの朽ちた農家に忍び込んだ。
 湿気が充満した貧しい屋内に人の気配はまるでない。土間の台所で釜の残り飯を貪り食う。鍋にぶつ切りの肉の煮物を見つけてかぶりつくと、男も幾度か食した犬の肉だ。たちまちの内に、獣の貪欲な血が蘇って駆け巡る。
 その時、叫声が聞こえた気がした。獣の態で全身を耳にすると、再び、紛れもなく女の嬌声だ。原初の欲望に引き寄せられた様に、男の足が囲炉裏を忍び、突き当たった奥の板戸を引いて、呼吸を整えながら淫らな声の巣窟に隙間を作った。
 暗闇からあえぎ声が発火しているのだ。
 目がなれると、裸の女が仰向けになり、両の膝を立て大きく両足を開いている。下に裸の男がいるのだが、男根と足しか見えない。仰向けの男に仰向けの豊満な女が乗っているのだ。黒々と茂る陰毛の淫熟した森に、下から男根が差し込まれ、盛り上がった両の外陰唇がくわえているのだ。それが自身の淫汁で光っている。女の手がその勃起を妖しく撫でていた。女の淫奔に震える汗にまみれた両の乳房を、男の手が鷲掴みしていた。おびただしい嬌声は半島の女に違いないと、樽川に確信させた。
 臍まで延びた濃い陰毛の中に、大きな黒子があった。男根で下から激しく突き上げられるたびに、女の腹の脂肪が揺れた。はち切れんばかりの裸体が無様に痙攣しているのである。
 女の全身が性器なのだった。樽川は座り込んで股間に手を入れ膨れた陰茎を揉んでいた。
 すると、挿入したままの女が朦朧と身体を起こした。そして、板戸の隙間に気付いて樽川の気配を察したのか、身動ぎもしない。樽川もまじまじと女の視線を見た。
 髪を乱した大きな鼻と厚く赤い唇の、三〇がらみの大振りな表情だ。その時にその湿った瞳と樽川の視線が衝突した。乳房が淫らに揺れた。女の太股の奥で肉厚の丘に漆黒の剛毛が繁茂し、縦長の臍に向かって尖っっている。ぼってり盛り上がる桃紫の外陰唇が割れ挿入した異物を包み込んでいる。辺りは染みでた女の粘液で、うっすらと濡れて光っているのだ。
 何も知らない黒い勃起が慣れ親しんだ風情で、女の白い尻を突き上げている。
 唇を噛んでも漏れる嬌声を垂れ流しながら、女は樽川に向けて瞳を膨張させて、奇妙な意思を示し始めた。
女は異物を抜かせると、尻の穴に挿入させたのだ。
 女の指が自らの腹をくねりながら伝って、ゆっくりと女陰に延びてきて陰毛を撫で始めた。もう一方の掌で自らの乳房を蹂躙しながら、女の聞こえない言葉が宙を泳ぐ。初めて見る男に危険な性交を曝している快感が、女の深奥の愉悦をいっそう刺し貫いて、新しい欲望を産み出そうとしているのだ。法悦は今にも沸騰しそうだ。
 しかし、樽川には女のその意図が理解できない。沈黙が続く。さらに、女の指が盛り上がった肉を撫で回しながら陰核にまとわりついた。突起を摘まむ。太股を痙攣させながら、さらに、女の指が陰唇の合わせ目の湿りをなぞる。ついに、女は洞窟に指を潜らせた。濡れた指を戻して女が自らの割れ目をなぞりながら、ある意思を確かに樽川に発信したのである。
 そして、樽川にも女の声が聞こえるのだ。狂った女と邂逅してしまったのか、或いは己が狂ってしまったのか。「さあ。これが女よ。あなたが探し求めていた女体だわ」樽川が充血して存分に勃起した陰茎をしごき始めた。女が頷いた。ひときわ嬌声をあげて尻をくねらせる。ゆっくりと、もはや殺意を抱いたを異物をいたぶっている。
 樽川は驚愕した。確かに女の身振りは、性交している下の男を殺してくれと伝えているのだ。樽川が身振りで改めて確認すると女が深く頷くのである。
 女陰の下に敷いている布を男の顔にかけろと、仕草する。樽川が頷くと、女は下の男に射精を強いて、尻を激しく揺りながら膣で陰茎をしごく。
 たちまち射精が始まったその瞬間に、女がその布を樽川に投げてよこした。その刹那に、駆け寄った樽川が男に股がり、両足で男の両腕を封じて、女の小便で濡れた布を男の顔に被せて押さえ込んだ。股がって挿入して射精を飲み込んだままの女が、男の両足を固める。
 暫くして、呆気なく男の動きは止まった。背の低い痩せた初老の男だった。
抱きつき、樽川の乾いた口を吸った女は半島人だった。
 「殺してくれてありがとう。やっと自由になれる」と、たどたどしく女が言う。女は半島から嫁いだが、騙されたも同然の仕打ちで、家畜のようにこき使われ、あしざまに性交された。奴婢の様だったと女が言った。 女の姿態でその意味を男はくまなく理解した。女の裸には痛ましい痣や傷が点在していた。
 死体を納屋に運び藁を被せて夜つことにしたその時、雷が近付いて蝉時雨が止み、やがて、激しい雨になり、暮色が瞬く間に闇に変じた。
 女が風呂を沸かした。二人はまるで長い時を経た愛人達の様に身体を洗いあって交わった。若い異民族のけたたましい射精を受けながら、女は足を絡めて泣きながら絶叫して、男の舌を吸った。
 貧しい夕餉をかきこんで、交わりながらその時を待つ。そして、夜半には濁流になった近くの川に、完全な隠匿を確信して二人で死体を投げ入れたのであった。
 その後の交合は男が経験した事がない甘美だった。男が解放した奴婢は大陸の女に蘇生していた。鶏を殺して丸ごと調理した。頑健で豊潤な半島人の農婦だ。芳醇な尻を向けて自ら挿入を導きながら股がる。二つの性器は確信して繋がった。異民族であり、忌まわしい同質者同士だからこそ、堪能できる極致なのだ。古代の異民族達も、殺戮を重ねながら、こうして靭帯を創ろうとしたのか。
 「半島の奥深い私の故郷に一緒に行かないか。そこは朝鮮でも中国でも、もちろん日本でもない。満州族の誇りある大地だ。私はあなたによって再び民族の誇りを取り戻すことができた。あなたは私達に似ている。そして私に似ている。一月たてばすべてが解決する。必ず来て」と、女は言い、「身体中にキスマークをつけて約束して」と、哀願した。
 一睡もしないで交わり続けて、次の朝には、夫の不慮の事故死を演じる女を残して、男は再び無為の旅に出た。女は警察の措置が終われば、すぐに財産の一切を処分して半島に帰るのだ。
 一月後に、男が女の元に戻ることはなかった。大陸の戦時下の、海を隔てた北の寒村の陽炎のような出来事だった。
 この数奇な二度目の殺人が男に錯覚をもたらした。残虐な行為が産み落とす歪んだ僥倖が忘れられないのだった。

 その樽川の想念を振り払って、新たな手妻を弄する様に絹枝が囁いた。「あなたとだけしたいの。誰にも、やらせたくない。あなたとだけ。いつでも嵌めたくなったら嵌めたいの」「あなたもせっかく僧侶になったんだもの。本当の住職になって、金貸しをしたりして面白くおかしく暮らしたくない?」樽川は自分が地獄への砂の道を辿る蟻なのではないか、このような迷路にどうして迷い込んでしまったのかと、男根をしゃぶられながら、何故、こんな魔性の女と再会を果たしてしまったのかと、再び想念に耽溺するのであった。

絹枝の魔性4️⃣

絹枝の魔性4️⃣

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更新日
登録日
2020-08-09

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